プーチン大統領 なぜ高支持率? 独立系世論調査機関幹部が分析

ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務め、ロシア社会について独自の分析を続ける社会学者としても知られるレフ・グドゥコフ氏(75)がモスクワ市内でNHKのインタビューに応じました。

“国営メディアで意図すり込み”

この中でグドゥコフ氏は軍事侵攻から1か月がたった先月下旬「レバダセンター」が行った世論調査でロシアのプーチン大統領の支持率が83%と、およそ4年ぶりに80%を超えた背景について「支持する人の多くは高齢者や地方に住む人たちなどで、彼らの唯一の情報源となっているのが政権のプロパガンダを伝える国営放送だ」と述べ、多くの人が国営メディアで伝えられることが事実だと政権の意図をすり込まれているためだと指摘しました。

「非ナチ化」で軍事侵攻を正当化

そのうえで「国民は戦争を望まず恐れていた。だからウクライナの『非ナチ化』ということばを作る必要性が出てきた。実際、ナチズムやファシズムということばを使って相手を批判するやり方はロシア社会をまとめるうえで効果的だ。こうした表現や、うそを並べ立てた大衆の扇動がプーチン氏の政策を支持させるために不可欠だとみているのだろう」と述べ、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調するのは、国民向けに軍事侵攻を正当化するためだと分析しました。

プロパガンダと情報統制の結果…

グドゥコフ氏によりますと、ウクライナで2013年、ロシア寄りの政権への市民の抗議活動が起きる前はEU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すウクライナに対して「ロシアは干渉すべきでない」という意見が75%に上ったのに対して「武力も含めて断固阻止すべき」という回答は22%だったということです。しかし「『アメリカが主導する形でウクライナの東部や南部でロシア系住民の安全が脅かされている』というプロパガンダが語られると状況は一変した」と述べ、プーチン政権によるプロパガンダと情報統制の結果、政権が「特別な軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を事実上受け入れる世論が形成されたと指摘しました。

プーチン大統領の考えの原点「怖いからこそ尊敬される国家だ…」

またプーチン大統領のこうした考えの原点についてグドゥコフ氏は「ロシアのファシズムだ」と表現し「強制力や権力の集中に依存し特殊機関の職員を社会の要職に配置することで経済や教育、宗教まで管理を強化しようとしている」と分析しました。

そしてプーチン大統領が旧ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会の出身であることを強調したうえで「軍の司令部などと手を組みおそれられる強力な国家を夢みている。怖いからこそ尊敬される国家だ。『恐怖による支配』こそが国家を形成すると信じていて『核兵器を保持している』ことが世界から尊敬される理由になると考えている」と指摘しました。

「プーチン大統領は明らかに目が曇ってしまっている」

そのうえで「彼の最大の過ちは第2次世界大戦以降の国際関係の構造全体に実際に危機をもたらしたことだ」と批判し「プーチン大統領はウクライナへの憎しみと異常なまでの執着によって明らかに目が曇ってしまっている」と述べ、今後さらに攻撃を続けていくことに懸念を示していました。

「レバダセンター」とは

「レバダセンター」は2003年、リベラルな社会学者のユーリ・レバダ氏が設立しました。レバダ氏はソビエト時代末期に発足した政府系の世論調査機関で活動していましたが、志を同じくする同僚とともに独立してレバダセンターを立ち上げ、政府から財政支援などを受けることなく独自の世論調査や分析を続けています。

日本や欧米の政府や団体とも協力して調査を行っていて、2006年にレバダ氏が死去したあとは社会学者のレフ・グドゥコフ氏が所長を引き継ぎました。ロシアの政治経済や社会問題などを幅広く扱い、10年ほど前からは研究報告の中で「ロシアは腐敗した権威主義的な国になりつつある」といった政権批判も展開するようになりました。

レバダセンターは2016年、国外から資金を得て「政治活動」に関わっているなどとして、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され厳格な収支報告を求められているほか、発表資料に「外国の代理人」であることを明示するよう義務づけられるなど圧力を受けています。

これに対してレバダセンターは政権に批判的な姿勢を変えることなく世論調査や分析を続けていてグドゥコフ氏自身、去年5月に所長を退任したあとも研究部長として国内の社会問題を鋭く分析しリベラルな論客として活動しています。