インスタ映えスポット「千葉フォルニア」に異変 一体何が?

インスタ映えスポット「千葉フォルニア」に異変 一体何が?
海外のリゾート地のような景色で人気を集めた“インスタ映え”するスポットに異変が起きている…。

一体どういうことなのか、私たちは現場に向かいました。

千葉フォルニアに行ってみた

訪れたのは千葉県袖ケ浦市。

東京湾アクアラインの最寄りのインターチェンジから10分ほど車で走ると、見えてきたのがヤシの木が約100本植えられた海岸沿いの道路です。

取材に訪れたこの日は晴れて本来ならば青い海と空にすっと伸びたヤシの木の様子が映えるはずなのですが…。
木の幹には「路上駐車禁止」「危険行為禁止」とぎょうぎょうしい文字の大きなシートがまかれ、“SNS映え”スポットが“映えない”場所に一変していました。
この道路はアメリカ・カリフォルニアにいるような開放的な気分が味わえる場所として、「千葉フォルニア」と呼ばれています。

SNSで「#千葉フォルニア」と調べると、自慢の車やバイクと一緒に映る多くの画像が投稿されていました。

しかし「千葉フォルニア」が映えない場所に変わってしまった原因こそが一部のルールを守らない撮影行為でした。

工場が建ち並び、トラックの交通量が多い片側2車線のこの道路。

SNS映えする写真を撮ろうと多くの人が路上に出て撮影する危険な行為が目に余ると付近の工場などから苦情が相次いだのです。
道路を管理する袖ケ浦市によると駐車禁止の場所にもかかわらず、撮影のために複数の車が長時間、路上駐車をすることもあったということです。
地元の男性
「休日に犬の散歩で通りかかると、道路を横断して中央分離帯に移動する人がいるので危険だと思っていました。こうした形で袖ケ浦が注目を浴びるのは少しさみしいです」

伐採も考えたけれど…

この日は平日で訪れる人は多くありませんでしたが、トラックはひっきりなしに行き交っていました。
こうした事情から袖ケ浦市は3月30日、交通の安全を確保するために警告のシートを使いあえて“映えない”場所にしたのです。
袖ケ浦市 担当者
「究極はヤシの木の切断も考えました。まずはあの場所でのマナーが守られず、危険だということを周知すべきだと考えて設置しました。市としては観光資源として活用したい気持ちはありますが、今は安全第一という気持ちです」

菜の花畑の中にも…

撮影者の行動が問題になっているのはほかにも。

埼玉県幸手市の県営権現堂公園は、約1000本のソメイヨシノと2万4000平方メートルに植えられた菜の花のコントラストの美しさで知られています。
公園では生育環境と景観を守るために、菜の花畑への立ち入りを禁止していますが、今月4日にSNSに投稿された写真には…。
園内放送で立ち入り禁止が呼びかけられる中、多くの人が菜の花畑に入っている様子が写っていました。

投稿者に話を聞くと、撮影した日の午後3時ごろには、50人近くの人が菜の花畑に入っていたということです。
撮影した男性
「ルールを守り制約の中で工夫して撮ることが楽しみだと思います。自分がいい写真を撮れれば、何をしてもいいと思っている人が増えているのではないかと苦々しく感じます」
管理事務所は菜の花畑の景観に配慮して、ことしは立ち入り禁止の看板を取り付けていませんでしたが、看板の再設置を決めたほか、園内放送や職員が巡回する回数を増やすことを検討しています。
管理事務所 中村誠さん
「この景色のために毎年種をまき大切に育てているので、菜の花が踏みつけられているのを見ると胸が痛いです。近くで写真を撮りたい気持ちはわかりますが、この畑は人が立ち入るような設計になっていません。ルールを守って決められた場所からきれいな景色を楽しんでほしいです」

住宅のそばでも…

こうした問題は観光地だけにとどまりません。

大阪・箕面市にあるこの橋は観光地ではありませんが、きれいな夜景が見られるとSNSで話題となりました。
深夜に訪れて騒いだりゴミを放置したりする人が出てきたため、近くの住民から箕面市に対応を求める連絡が入りました。

夜間パトロールが行われましたが、それだけで問題は解決せず、箕面市は路上駐車をさせないために、SNS映えしないようにする柵などを置かざるを得なくなりました。

win-winの関係を

観光と地域の暮らしの共存はできるのか。

数多くのCMのロケ地になっている北海道美瑛町では、過去の苦い経験を糧にした取り組みが進んでいます。

小麦などを栽培する大西智貴さんは3年前に農家の仲間と「畑看板プロジェクト」を立ち上げました。
畑の周りに立ち入り禁止の看板ではなく、ベストショットが撮れる場所を知らせる看板を設置。

そして看板には農家のSNSアカウントや農産物を販売するECサイトへリンクするQRコードも掲載しました。

美瑛町の美しい景観が、1人1人の農家の営みの積み重ねであることを感じてもらい、畑を守ることや収益につなげたいと考えたのです。
大西智貴さん
「注目を浴びるということは、言い方を変えればビジネスチャンスにもなると感じました。ネガティブな面だけに目を向けるのではなく、観光客が来るメリットを農家が享受する仕組みが作れないかと考えたんです」

きっかけは1本のポプラの木

大西さんがこうした活動に取り組むきっかけは、1本のポプラの木の存在でした。
その木は首をかしげて物思いにふけるような姿から「哲学の木」と呼ばれ、かつて人気を集めましたが、写真撮影などのために畑に無断で入り込んで農作物を踏み荒らす人が相次ぎました。

このため大西さんの仲間が幹にバツ印を付けるなどしてマナーを守るよう訴えていましたが事態は改善されず、伐採を決断しなければならなくなりました。
大西智貴さん
「哲学の木に好感を持って美瑛町に来てくれること自体はポジティブなことですよね。それでも木を切り倒さなければならなくなってしまったことにジレンマを感じました。畑看板プロジェクトはどうにかしてプラスに変えることができないか考えた結果でもあるんです」

美しい写真を撮り続けるために

美瑛町では別の形でも絶景を撮影したい人と地域の暮らしを守ることの共存に向けた動きがあります。

人気スポット「クリスマスツリーの木」を巡っては、かつては公道からの撮影だと目の前にある電線が映り込んでしまうため、無断で農地に入るケースが後を絶ちませんでした。
このため、美瑛町では町の観光協会や地元の写真家で作る団体などと対応策を協議してきました。写真やSNS運営にノウハウがある東京の会社の助言もあって、検討していた電柱の地中化ではなく、支障になっていた電柱と電線の一部を撮影者の後ろに移動させることにしました。
その結果、大幅に経費を抑えて、撮影の環境を整えることにもつなげました。

また、幅広く意見を募って複数の言語で書かれた現地での撮影マナーブックも作成され、町の観光協会や道の駅などに置かれています。
ここまで一定の効果はあるものの、依然として農地には立ち入った跡がみられるということです。観光と地域住民の共存は決して簡単なことではありません。
助言をした東京カメラ部 塚崎秀雄社長
「きれいな景色や歴史的な建造物を撮影できなくなることは写真家が自分で自分の首を絞めることになります。観光で経済的に潤うことや記録として後世に伝えていくことなど、写真が持つさまざまな可能性を潰してしまいます。美しい被写体には、必ずその美しさを守っている人がいます。その人の思いを忘れずに、1人1人がマナーを守って撮影を楽しんでほしいです」

“撮りたい”欲求との共存

社会で観光が果たす役割を研究している龍谷大学非常勤講師の中井治郎さん。

美瑛町の取り組みをSNSに使う写真を撮りたい観光客の欲求と共存するための現実的なアプローチだと評価しています。

そして観光地でのSNS発信のあり方に注目しています。
龍谷大学社会学部非常勤講師 中井治郎さん
「観光地でSNS映えを狙うが故の迷惑行為は前から指摘されています。それと同じように迷惑行為を問題視する内容のSNSを発信する人も増えているという印象があります。観光に対するSNSリテラシーが上がっているとも言えるので、問題のあるSNS映え狙いは減っていくことも期待できると思います」
情報を追加して4月8日に記事を更新しました。
(おはよう日本 荒井愛夕美 ネットワーク報道部 野田麻里子 高杉北斗)