ウクライナ避難民を支援する人に “投げ銭”機能で直接寄付も

ウクライナ避難民を支援する人に “投げ銭”機能で直接寄付も
「困っている人がたくさんいる。まずは目の前にいる人を助けるか」

ロシアによるウクライナへの侵攻後、隣国ポーランドでは支援団体とは別に、独自に避難民の支援活動を続ける日本人たちもいます。

SNSのほかライブ配信の「投げ銭」機能を通じて寄せられる寄付。
新しい形の支援が続いています。

(ネットワーク報道部 鈴木有 藤島新也)

「地味だがコツコツと」

「歯磨き、歯磨き粉、ハンドクリームを中心とした日用品を供給。小さなカゴでの往復作業は何かと疲れる。地味だがコツコツ続けるのみ」
ポーランドでウクライナからの避難民の支援を続ける日本人の大さん(24)の3月29日のツイートです。

侵攻が始まって以来、いずれも24歳の関西出身の仲間2人と一緒に現地で支援活動を続け、活動の様子をSNSやライブ配信で発信し続けています。

寄付は“投げ銭”で

発信は海外の人と日本人をつなぐライブ配信型の国際交流サイトやSNSで行われ、ライブ配信を見た視聴者から“投げ銭”で活動への寄付が寄せられます。
「頑張ってください」
「ウクライナのためにお役立てください」
配信中、コメント欄に寄せられた応援のことばとともに、画面いっぱいにアニメーションで表示されるのが“投げ銭”です。

“投げ銭”とはライブ配信やSNSなどで視聴者やユーザーが気に入ったコンテンツに対して経済的に支援できるシステムで、3月6日の配信では開始5分で70万円が寄せられたということです。
大さんたちは自分たちの現地での生活費は貯金から賄い“投げ銭”で得られた寄付はすべて避難民の支援活動に充てることにしています。

いまがわかる だから支援する

現地の状況や活動の様子をできるだけ知ってもらいたい。

大さんたちは支援物資を配る様子のほか、物資を購入する様子など含めて支援の状況を詳しく見てもらえるようにスマホで撮影し、発信しています。
ライブ配信中には、視聴者はコメントでリアルタイムに質問することもできます。
「難民の現状はどうですか」「街はどんな状態ですか」
3人はすぐに反応、自分たちがわかっていることを一つ一つ答えていきます。
「ポーランド政府が施設を無料で提供している」
「お店で薬がなくなるといった不足は起きていない」
「必要な物資の種類は15分ごとに変わる。支援物資はどんどんさばかれてむだに在庫はたまっていない」
回答を見た視聴者からは

「報道で見ていても信じることはできなかったけど本当なんですね!」というコメントもありました。
実際に“投げ銭”で寄付した「Hiroro」さん。

寄付の決め手になったのは、実際に大さんたちが支援物資を購入している様子をリアルタイムで見て確かめることができたことです。

少しでも支援したいと5000円ほどの寄付を決めました。

すでに公的な組織にも寄付していましたが、お金の使い方を支援者の側が提案したり相談したりはできないことと、むだな使いみちが無いか積極的にチェックすることはできないのが難点だと感じていました。
「配信では、“投げ銭”で集まった資金の用途も配信の中で提案や相談でき、使いみちの透明性が図れます。組織の活動では難しい部分を補える点ですばらしいと感じますし、支援のしやすさが広がったと感じました」

「人生一度きり」

大さんはもともと仲間2人と一緒にインターネット通販や貿易などの事業で起業しようと日本を飛び出して、ことし2月15日にポーランドに入りました。

ウクライナ侵攻が始まっても当初は気に留めず「早く終わらないかな」「こっちに爆弾飛んできたら嫌だな」と考えていたということです。

支援を始めたきっかけは、現地で知り合ったウクライナ出身の女性からのメッセージでした。

「クレジットカード決済が止められて2日間ごはんを食べられていない」

「それならウチにごはんを食べに来たら?」

1人のウクライナ人女性に食事を無料で提供する「少しの手助け活動」は、同じように困っている人が増えるとともに2人、3人、10人と増えていったといいます。
3月始め、ライブ配信でこの活動のことを初めて視聴者に伝えたところ、視聴者から「支援したい」と活動への期待の声が相次ぎました。

「人生一度きり。起業はあとでもできる。まずは目の前にいる人を助けるか」

そう決意して、個人での支援活動を本格的に始めることにしました。

「目の前の人を」

活動の中心は、ポーランドの首都ワルシャワの避難所にいる避難民の人たちの暮らしに必要な生活必需品を購入して届けることです。

3月24日のツイートでは、ペットボトルの水をカゴから取り出してスタッフに渡す様子の動画を紹介しています。
「この日は水を中心に。もう水を何本供給したか数えられない…ラガーマンパワーを見せてやる。腰よ。頼むぞ」
また、食べ物が十分に得られない状況の人たちには避難所の近くのファストフード店で食事を提供することも。
「『どうやって恩返しすればいい?』と女性。自分がこのような状況にあるにもかかわらず、私たちにお返しをしようとする。もちろんお返しは不要。代わりに6歳のサーシャちゃんに「タカイタカイ」をすると大喜び。本当はお父さんに会いたいよね」(3月25日のツイート)。

「支援のハードルを低く」

個人や団体に“直接支援”する動きはほかにもあります。

大手動画配信サイト・ユーチューブではゲーム実況の配信者が動画の中で“投げ銭”で寄せられたお金をウクライナ大使館に寄付しています。

またSNSでもウクライナのキーウ(キエフ)の状況を現地から伝え続けているウクライナ人が寄付を受けるための銀行口座を公開し、寄せられたお金で支援活動する様子を伝えています。

支援物資を購入した際のレシートや実際に物資を届ける様子も発信し、寄付が何にどう使われているかが具体的に伝わるようにしています。

こうした中、“投げ銭”による寄付が広がりを見せているのは「ハードルの低さ」にあると専門家は指摘しています。
成蹊大学客員教授・ITジャーナリスト 高橋暁子さん
「何か支援したいと思っても、口座に現金を振り込むとなれば『まとまった金額でないとまずいかな…』とためらう人もいるのではないでしょうか。
“投げ銭”であれば、心が動いたその瞬間にポチっと寄付できる手軽さがあり、数百円のような少額でも寄付しやすいですし、ふだんから配信で見慣れた人であれば協力してみようという気持ちにもなるのでハードルを下げていると思います」

1か月余り 今思うこと

ポーランドで大さんが避難所へ必要な物資を届ける活動を始めて1か月余り。

活動の中で出会う避難者からは「日々不安で早く戦争が終わってほしい」「早く家に帰りたい」との切実な声を聞くと言うことです。
そして、避難生活の厳しさも、たびたび目にしてきました。

大さんが直接支援した母と娘2人の避難民についての話です。
「娘と母は2部屋しかない家に10人で暮らしていて、娘さんは同居している人のいびきで寝れず、眠たいと話していました。また、ウクライナでは1人で美容院を運営していた母親はポーランドで仕事を探していて、10店回っても採用してもらえない状況。今は知り合いを通じてお客様を直接紹介してもらって家に切りに行くことでいただくお金で暮らしている。母親はお金を稼ぐために1日16時間でも働きたいと言っていた」
避難が長期化する中で、求められる支援が「物資」だけではなく「働く場所」など生活に関わる幅広い内容に変わりつつあり、そうした支援への対応も重要になると強く感じているということです。

今後については。
「私たちはできるかぎり、今の活動を続けていきたいと感じています」

以下、支援や寄付について

以下はこのほか、支援や寄付をめぐる感じ方などについて取材した内容です。

寄付のハードルはどこに?

「何かしたい」と思っていても「実際に寄付や支援するのはちょっと…」とためらう人も少なくないと思います。

ライブ配信などネットの情報に日々触れている大学生20人ほどにLINEを通じて話を聞いてみましたが「どこに寄付していいかわからない」「本当に役に立つのか不安」という声が大半でした。

一方で、手軽にできる寄付なら「やっている」という人は少なくないようです。

その一つが、さまざまな「ポイント」を活用した寄付です。

話を聞いた学生のうち3人がやっていると答えました。

たとえば楽天グループなら「楽天ポイント」を1ポイント=1円でウクライナの人道支援のための寄付として受け付けていて1ポイントから寄付できます。

その他「Tポイント」「ポンタポイント」も寄付できるサイトがあります。

こうした寄付も、先ほどの専門家・ITジャーナリストの高橋さんの話にあった「ハードルの低い寄付」なのかもしれません。

信頼できるか 見極める3つのポイント

ライブ配信の“投げ銭”でも、実際に行う際には相手が信頼できるのか、本当に支援につながるのか、それぞれの人が見極めたうえで支援していると思います。

高橋さんによると“投げ銭”の場合、配信の仕組みを提供するプラットフォームの側が金額の一部を「手数料」として引く仕組みになっていますが、実際に寄付をする人のすそ野を広げ大きな支援につなげるという点で意義があるということです。

一方で高橋さんは「今後は募金詐欺のようなケースが出てくるおそれもある」と懸念していて、見極めのポイントを3つ教えてもらいました。
ポイント1
「ウクライナにネットワークがあること」
ポイント2
「顔や名前を出して定期的に配信しているアカウントであること」
寄付を募るために新たに開設されたアカウントの場合には注意が必要、ということです。
ポイント3
「過去の支援実績があること」
寄付の呼びかけや現地での支援を行った実績があるかを、過去の動画などで確認する。
成蹊大学客員教授・ITジャーナリスト 高橋暁子さん
「“投げ銭”は寄付の敷居を下げるという点で大きな意義がありますが、しっかり見極めをしてほしい。もし信頼できるか疑問な場合にはやはり公的な窓口に寄付してほしいと思います」

形は変わっても込める思いは変わらない

“投げ銭”ということばのもともとの意味は、大道芸人やストリートミュージシャンなどが路上で芸や音楽を披露し、それを楽しんだ客が謝礼として任意で投じるお金のことで、ライブ配信に対する“投げ銭”は、これがデジタル空間で行われているイメージです。

ウクライナの人たちの厳しい状況に多くの人が思いを寄せる中で、この仕組みが個人や団体の支援の幅や可能性を広げています。

昔は硬貨や紙幣でしか贈ることができませんでしたが、今ではデジタル空間で遠い場所にも届けることができます。

逆に言えば、遠い場所で起こっていることだとしても、目の前で困っている人がいるのと同じように支援できる。

従来の支援や寄付と同じように寄付先の活動内容などをしっかり見極めながら、そんな気持ちで向き合っていけたらと思います。