ロシア軍 ウクライナ東部で軍事作戦強化 市民の被害拡大に懸念

ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウの近郊などで多くの市民が死亡しているのが見つかり、ロシアの責任を問う声が強まっていますが、ロシア側は関与を否定し、欧米との対立が一段と深まっています。一方、ロシア軍は、ウクライナ東部への部隊の投入を進めているとみられ、市民の被害のさらなる拡大が懸念されています。

ロシア軍が撤退を進めてきた、ウクライナの首都キーウ(ロシア語でキエフ)の北西にあるブチャでは、多くの市民が路上で死亡しているのが見つかり、衝撃が広がっています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ブチャで報道陣の取材に応じ「これは戦争よりひどい。ジェノサイドだ」と述べ、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」だとして、強く非難しました。

また、アメリカのバイデン大統領が、ロシアのプーチン大統領を「戦争犯罪人だ」と非難するなど、欧米側からもロシアの責任を問う声が強まっていますが、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「いかなる非難も断固として拒否する」と述べて関与を否定し、欧米との対立が一段と深まっています。

一方、ロシア国防省は4日、東部ルハンシク州で空爆を行い、ウクライナ軍の武器・弾薬庫を破壊したと発表するなど、東部での軍事作戦を強化しています。

特に、ロシア軍が包囲する要衝のマリウポリでは、深刻な人道危機が続いていて、ボイチェンコ市長は記者会見で、いまも10万人以上の住民が取り残されているとしたうえで「食料や水、電気などがない状態が1か月以上も続いている。できるだけ早く避難させなければならないが、ロシア軍の妨害でとても困難だ」と訴えました。

戦況についてイギリス国防省は、ロシアにとって、マリウポリを攻略することが主要な目的になっていて、ロシア軍がウクライナ東部への部隊の投入を進めているなどと指摘していて、市民の被害のさらなる拡大が懸念されています。

こうした中、停戦交渉について、ゼレンスキー大統領は4日「ロシア軍の非道な行為が日増しに明らかになっていて、交渉が長引くほど、ロシア側にとって結果は悪くなるだろう。もし彼らにまだ考える能力があるならば、交渉は早く進めたほうがよい」と述べました。

しかし、ロシア側は、早期の合意に否定的な考えを示していて、ロシア外務省のザハロワ報道官が「ウクライナ政府の目的は、停戦交渉を混乱させ、暴力をエスカレートさせることにある」と一方的に主張するなど、停戦交渉の進展が見通せない状況が続いています。

バイデン大統領 “戦争犯罪として法廷で裁くため証拠収集を”

ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ近郊で多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて、アメリカのバイデン大統領は4日、ワシントンで記者団に対し「あの男は残忍だ。ブチャで起きたことは誰が見ても許しがたい行為だ」と述べてプーチン大統領を強く非難しました。
そしてプーチン大統領についてあらためて「戦争犯罪人だ」としたうえで「戦争犯罪として法廷で裁くために詳細な証拠を集めなければならない」と述べました。そのうえでバイデン大統領は、ロシアに対して新たな制裁を科す考えを明らかにしました。

米大統領補佐官 “現時点で「ジェノサイド」と認識せず”

アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は4日、ロシアに対し、今週中に新たな制裁を科すことを明らかにしました。
ホワイトハウスで記者会見したサリバン大統領補佐官は新たな制裁について「同盟国や友好国と具体的な内容を協議している」と述べ、同盟国などと連携して打ち出すことになるという見通しを示しました。
一方、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」にあたるのかどうかについては「残虐な行為や戦争犯罪を目にしているが、組織的にウクライナ人の命が奪われる『ジェノサイド』のレベルまで達しているとはまだ確認していない。状況を注視していく」と述べ、アメリカ政府としては、現時点で「ジェノサイド」とは認識していないとする立場を示しました。

米国防総省高官 “キーウ周辺展開部隊の約3分の2が現地離れた”

アメリカ国防総省の高官は4日、ウクライナの首都キーウ周辺に展開していたロシア軍について、再配置の動きが続いていると指摘し、これまでにおよそ3分の2の部隊が現地を離れたとする分析を明らかにしました。

これらの部隊はウクライナと国境を接するベラルーシに向けて北上しているか、すでにベラルーシへの移動を終えたとみられるということです。そのうえで、これらの部隊が補給や人員の追加を受けたあと、ウクライナ東部などでの戦闘に再び投入される可能性があるとの見方を重ねて示しました。

また、キーウ北西のブチャで多くの市民が路上で死亡しているのが見つかったことについて、この高官は「ロシア軍による戦争犯罪を示す証拠があるとこれまで言ってきたが、ブチャの状況はその懸念を補強するものだ。これは国際的な捜査に役立つ証拠だ」と指摘しました。

一方、東部の要衝マリウポリではロシア軍の侵攻に大きな進展はみられず、ウクライナ側との間で激しい戦闘が続いているとの見方を示しました。

またロシア軍が3日、ウクライナ南部の黒海に面する港湾都市オデーサ・ロシア語でオデッサ近郊の製油所や燃料施設をミサイルで破壊したと発表したことについて、この高官はロシア軍による空爆が行われたと指摘した上で、水陸両用作戦の前兆なのか、この地域にウクライナ軍を足止めしようとしているのか、狙いははっきりしないと述べました。

英外相 “虐殺にがく然 制裁強化が必要”

ウクライナ情勢をめぐり、イギリスのトラス外相とウクライナのクレバ外相は4日、ポーランドの首都ワルシャワで会談を行いました。

会談のあと、両外相はそろって記者会見しトラス外相は、ウクライナの首都キーウの北西にあるブチャで多くの市民が死亡しているのが見つかったことについて「市民を標的にした虐殺が行われたという証拠にがく然としている。戦争犯罪が行われたことは非常に明白だ」としてロシアを強く非難しました。

そして「西側諸国からプーチン大統領に流れている資金を止めなければならない」として、制裁の強化が必要だと述べました。

また、クレバ外相は「中途半端な対応では不十分だ。私はブチャの犠牲者とウクライナの人々のために、今週中にパートナー国に対して最も厳しい制裁をロシアに科すよう求める。これはウクライナの外相からの訴えではなく犠牲者とその親族、そしてウクライナ国民すべての訴えだ」と述べ、制裁のさらなる強化を強く訴えました。

国連事務次長 ラブロフ外相らと“人道的停戦の可能性”で会談

国連で人道問題を担当するグリフィス事務次長は4日、訪問先のロシアの首都モスクワで、ラブロフ外相やショイグ国防相らと会談しました。

国連の報道官によりますと、グリフィス事務次長は、市民を保護し、支援物資を届けるための人道的な停戦の可能性について話し合ったということです。ただ、具体的な内容については「会談は生産的なものだった」と述べるにとどまり、5日に開かれる国連の安全保障理事会で、グリフィス事務次長が報告するとしています。
グリフィス事務次長は近く、ウクライナの首都キーウも訪問する方向で調整を進めているということです。

一方、ロシア外務省によりますと、会談でラブロフ外相は、キーウの北西にあるブチャで、多くの市民が死亡しているのが見つかり、ロシアに対する非難が相次いでいることについて触れ「偽装が行われ、それがウクライナや西側諸国によって大々的に拡散されている」と反発しました。

ドイツ ロシア外交官追放へ

ドイツのベアボック外相は、4日に声明を出し「ロシアの指導者たちの信じられないほどの残忍さを証明するものだ。この非人道的な行動に対抗しなければならない」として、首都ベルリンのロシア大使館に勤務するかなりの数の外交官を追放する措置をとると発表しました。
追放される外交官の具体的な人数について、ドイツメディアの多くは「40人にのぼる」と伝えています。

これに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官は4日、インターファクス通信に対し「われわれは、このドイツの悪意ある行為に対応する」と述べ、対抗措置をとる考えを示しました。ロシアから天然ガスを購入するなど経済面での結びつきも強いドイツはEUの中では、比較的、ロシアと良好な関係を維持していましたがウクライナへの軍事侵攻を受け、厳しい姿勢に転じています。

フランスもロシア外交官追放決定を発表

フランスの外務省は4日「多くのロシアの外交官の追放を決定した」と発表しました。

この中でフランス外務省は、追放の対象となるロシアの外交官について、「われわれの安全保障上の利益と相反する行動をしている」と指摘し、今回の決定はヨーロッパ各国と歩調を合わせた対応だとしています。

リトアニア「ロシアとの外交関係格下げ」

バルト3国のリトアニアの外務省は4日「ロシアとの外交関係を格下げすることを決めた」とする声明を発表しました。

それによりますと、リトアニア政府は、リトアニアに駐在するロシア大使に出国するよう求めるとともに、西部のクライペダにあるロシア総領事館を閉鎖するということです。また、ロシアに駐在するリトアニア大使を近く帰国させるとしています。これは、ウクライナの首都キーウ北西のブチャで、多くの市民が死亡していることが明らかになったのを受けた措置です。

これについて、ランズベルギス外相は「対ロ外交を格下げすることで、ロシアによる前例のない侵略行為に苦しむウクライナの人々への完全な連帯を表明する」とコメントしています。

EU委員長「ウクライナと合同で捜査チームを設置」

EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は4日、ゼレンスキー大統領と電話で会談しました。会談のあと、フォンデアライエン委員長は声明を出し、「EUは、戦争犯罪や人道に対する罪の証拠の収集と捜査のためウクライナと合同で捜査チームを設置した」と明らかにしました。
そのうえで、ウクライナの検察当局を支援するため、現地に捜査チームを派遣する用意があるほか、ユーロポール=ヨーロッパ刑事警察機構なども支援の用意があるとしています。

中国・ウクライナ外相会談 軍事侵攻後2度目

中国の王毅外相とウクライナのクレバ外相は、4日に電話会談を行いました。
両外相の電話会談は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、先月1日に続いて2度目です。

会談後、クレバ外相は、みずからのツイッターで、首都キーウ近郊などで多くの市民が死亡しているのが見つかったことなどを念頭に「王外相が市民の犠牲者に連帯を示してくれたことに感謝する」と投稿しました。
そのうえで「われわれは、戦争の終結が平和や世界の食料安全保障、国際的な貿易という共通の利益につながるとの確信を共有している」としています。

また、中国外務省によりますと、会談でクレバ外相は「ウクライナは、中国の国際的な影響力と威信を重視しており、中国と意思疎通を保ち、停戦のために重要な役割を果たすことを望む」と述べ、停戦に向けた働きかけを中国に求めたということです。

これに対し王外相は「ウクライナ問題における中国の基本的な態度は、和解に向けて話し合いを促すことであり、ロシアとウクライナの和平交渉を歓迎する。中国は客観的かつ公正な立場を堅持し、引き続き、みずからの方法で建設的な役割を発揮したい」と述べ、対話による問題の解決を改めて促したとしています。