【詳しく】なぜNATO加盟?ウクライナ隣国ルーマニアに聞く

「今こそ行動し、困っている人を助け、連帯を武器にするときだと、人々は理解しています。これは、非常に勇気づけられる兆しです」
こう話すのは、日本に駐在するルーマニアの大使です。
ロシアによる軍事侵攻を受けて、ウクライナから国外に避難した人の数は、4月2日の時点で、417万人を超えています。このうちポーランドの次に多くの人たちが避難しているのが、ルーマニアです。
大使が強調したのが「連帯」。
その意味とは?

ルーマニアってどんな国?

ルーマニアは、ウクライナの南西側に隣接していて、ウクライナ周辺の国の中では、ロシアを除けば、人口がポーランドに次いで多い1941万人(2019年時点)。

1989年、革命によって長年続いた独裁政権が倒れたあと、民主化の道を歩み始め、2004年にNATO=北大西洋条約機構、2007年にEUに、それぞれ加盟しています。

ウクライナの人たちの避難の状況は?

今回話を聞かせてもらったのは、2021年8月から駐日ルーマニア大使を務めている、ドランガ・オビディウ大使(55)。
ルーマニアが受け入れている避難民の人数や状況について、次のように話します。

「3月30日の時点で、61万人以上がウクライナから避難してきていて、このうち1割余りにあたる、およそ8万人がルーマニア国内にとどまっています。また、このうち、4割余りは18歳未満です。国境付近には2か所の仮設キャンプを設置して、受け入れにあたっています。
大勢の子どもたちや女性たちが必要とする、食事や住む場所といったものを、彼ら彼女たちが次の目的地に到着するまで、あるいは戦争が終わって家に帰ることができるようになるまで、支援する必要があるのです」

避難民の受け入れは進んでいますか?

《以下、ドランガ大使》
ルーマニアは、まだ冷え込みが厳しく、仮設キャンプはあくまで一時的な避難場所で、今後は適切な宿泊施設に誘導する必要があります。
こうした中、民間レベルでの支援の動きが広がっています。
観光地でもあるルーマニアの南東部の海沿いには、ホテルなど多くの宿泊施設がありますが、現在、観光のオフシーズンでもあり、施設を無料で開放する経営者も少なくありません。使っていない別荘を開放する人もいます。

支援は広がっていますか?

「今何かをしなければ」という大きな共感が広がっていると感じています。
とても人間らしい反応だと思います。

たくさんの民間の人たちが、多くの物や金銭を寄付してくれています。
避難民を支援する企業や、ウクライナに支援物資を送る企業もあります。
国内にある多くのNGOもそれぞれ活動にあたっています。
これは、国民の中に共感が広がっていることの表れだと思います。

ロシアによる軍事侵攻をどう受け止めていますか?

これは想像を絶する悲劇です。
さらに悲惨なのは、それがまだ進行中であるという事実です。
そして、状況はおそらく悪化するでしょう。
主要都市がさらに攻撃されれば、避難民が増加することが予想されます。
これは、第2次世界大戦以降のヨーロッパにとって、本当に前例のないことです。

そして、今回の軍事侵攻は、主権国家に対するいわれのない攻撃であり、容認することはできません。
意図的に市民が殺され、都市への非人道的な攻撃が行われています。
こんなことが21世紀に起こるなんて、どうしたら想像できたでしょうか。

今、ルーマニアとして重視していることはどんな点ですか?

最も重要なことは「NATOとEUが結束を維持するとともに、ウクライナにロシア軍の侵攻に対抗する手段を提供すること」です。

一方、この戦争が段階的に拡大するのは間違いありません。
深刻なリスクなのです。

ですから、人道危機に効果的に対処し、エスカレートを回避するために、ウクライナを支援するための決定を確実に実行に移さなければなりません。

もし戦争が拡大すれば、ルーマニア国民も危険にさらされる?

ルーマニアはNATOの東側の最前線に位置する国なので、その懸念はあります。ただ同時に、ルーマニア国民はNATOに守られているという実感も伴っています。

最近の世論調査(2022年1月実施)では、多くのルーマニア人がそう考えていることが分かります。
回答したルーマニア人の70%以上が、NATOがどんな攻撃からも、ルーマニアを守ってくれると考えています。また、ルーマニア人の中で最も信頼されている国際機関はNATOで61%、EUは2番目の56%でした。

何がNATOへの信頼につながっているのでしょうか?

同じ価値観を共有できているからです。
国際法を破ることは許されません。
独立国家や民間人に対する侵略や暴力も容認することはできません。

確かに、ウクライナが、最新鋭の装備などを持つことは重要なことですが、戦う意志、抵抗する意志、生活を守る意志、価値観を守る意志。
こうした「意志」を持ち続けられることも重要なのです。

ウクライナもNATOへの加盟を求めています

ルーマニアが2004年にNATOに正式に加盟するまで、私は、10年がかりで加盟に向けた仕事に取り組んできたので、ウクライナの人々にとってNATOへの加盟がいかに重要であるか理解しています。
10年という時間がかかりましたが、今はNATOへの加盟がどれほど有益なものであったかを痛感しています。

単に軍事的な意味だけでなく、自由と民主主義という同じ価値観を持つ人たちに加わることができたのです。

NATOに加盟する意義とは?

繰り返しになりますが、これは「価値観」と「同志」の問題でもあり、より大きな家族に属しているという深い感覚です。
NATOに加盟するという選択は、自由、民主主義、私たちの生活を、あらゆる脅威から完全に守るために「最善の保障を提供する」という信念に基づいています。
NATOへの加盟は、私たちの国にとって適切だと考えられる安全保障体制を選択するものでした。

ロシアが、NATOの存在を脅威と認識するかは、彼らの問題なのです。

ウクライナの人たちは、今まさに自由のため、民主主義という価値観のために戦っています。
それは、私たちが守るべき価値観と同じです。
ですから、私たちがこの価値観を守りたければ、ウクライナからの避難民が必要とするものを寄付することで、意味のある「連帯」を示すことができるのです。

ウクライナへのさらなる支援に向けて

私たちは、以前よりも「連帯」を強めています。
これこそ、私たちが大切にしなければならないことです。
避難民の保護や人道支援だけでなく、この恐ろしい戦争において、同盟国とともに「われわれはウクライナのそばにいる」という政治的なシグナルを出すことです。
ロシアが軍事侵攻を始めてから、安全保障の状況は根本的に変わりました。
そして、これは単なる侵略ではなく、世界秩序に対する根本的な挑戦であり、世界全体の安全保障の問題なのです。
だからこそ「世界が連帯すること自体が武器になる」と考えています。
レジリエンス(※)を強化しつつ、連帯と団結をさらに武器にする必要があるのです。

※ルーマニア大使館によりますと、ここでの「レジリエンス」は、現在および将来の安全保障上の課題に耐えられるよう、民主主義、法の支配、制度、経済、財政など、あらゆる分野で十分に強い国家をつくるという意味だということです。