為替介入はあるのか?加速する円安【経済コラム】

ついに1ドル=125円台をつけた円相場。
ここ3週間で10円も進んだ急激な円安に、政府・日銀による「為替介入」がありうるのではないかと市場関係者のあいだで会話が飛び交っています。
(経済部記者 加藤ニール)

“黒田ライン(125円)”にタッチ

3月28日の週は、円相場の急落からのスタートでした。

28日(月)夕方、一時1ドル=125円10銭をつけました。

およそ6年7か月ぶりの円安水準です。
きっかけは日銀の動きです。

この日、債券市場で長期金利の上昇を抑え込もうと初めて「連続指値オペ」に踏み切ることを日銀が発表しました。

指定した利回りで国債を無制限に買い入れることで、事実上、さらなる金利の上昇をブロックする強力な措置です。

金利の低いままの日本円は売られ、より利回りが見込める米ドルにマネーが向かいました。

市場関係者の胸に深く刻み込まれている1ドル=125円前後の「黒田ライン」。

2015年6月、当時の急激な円安に対して日銀の黒田東彦総裁がけん制したことから、マーケットでは強く意識されています。

(詳しくは前回のコラムとあわせてご覧ください)
ここにタッチしたことで政府・日銀が何らかの行動を取るのではないか。

市場関係者の心がざわつきます。

伝家の宝刀 “為替介入”はあるか

為替介入は、政府・日銀が市場で、ある通貨を売ったり買ったりして為替相場の安定を図ろうとする手段です。
その売り買いの金額は数兆円が投じられることもあり、ひとたび為替介入があると、瞬間的に為替相場が数円単位で変動することもあります。

最後に介入が行われたのは東日本大震災が起きた2011年。

投機的な動きから10月31日に円相場が1ドル=75円台と最高値をつけたときでした。

当時の民主党政権の安住財務大臣は、為替介入に対して「東日本大震災の被災地でも供給網が回復し、今まで休んでいた人が、ようやく復帰しつつある中で、まったく理不尽な話で、看過できない。市場がどう思おうと、納得のいくまで介入させていただきたい」と述べました。

このときは、1日としては過去最大の8兆722億円の市場介入が行われ、その後も4日間介入が続けられました。

“通貨マフィア”の踏み込んだ発言

為替が1ドル=125円台にタッチした翌日、29日(火)午後に財務省の神田財務官が記者団の質疑に応じるという情報が飛び込んできました。
財務官は財務省の国際業務のトップで為替介入の判断に深く関わることから“通貨マフィア”とも呼ばれています。

市場が混乱する局面ほど、財務官の微妙な言い回しから今後の動向のヒントを探ろうと投資家はやきもきします。

この日、神田財務官は日本を訪れていたアメリカ財務省の高官との会談がありました。

記者団の取材に対して次のように答えます。

●神田財務官
「為替の問題も大きなイシューとして議論させてもらった。
日米の通貨当局間で緊密な意思疎通を図っていくことを確認した」

この発言に、ある市場関係者は「想像以上に踏み込んだ発言だ」と驚きを隠せなかったといいます。

何が踏み込んでいるのか。

過去の財務官発言との比較

例えば新型コロナウイルスの感染拡大で金融市場が混乱した2020年3月に当時の武内財務官が発したメッセージは以下のとおりでした。

●武内財務官(2020年3月当時)
「金融市場全般で引き続き神経質な動きがみられる」
「より一層緊張感をもって市場の動向を注視し、必要な場合には適切に対応していく」

比較すると踏み込んでいる部分が分かります。

ある市場関係者は「日米の通貨当局間で緊密な意思疎通」という部分が「この円安について、アメリカと問題認識を共有しているよ」という風に聞こえるというのです。

アメリカは今、歴史的なインフレに悩まされていて、いまの円安ドル高のままにしておいた方が、日本からの輸入品が割安になり好ましいという見方も出ています。

今回の神田発言は、「日本政府としては、いざというときに備えてアメリカ当局とも十分連携ができているというアピールなのではないか」とある市場関係者は解説します。

伝家の宝刀は…

為替介入は市場原理の相場に国が強制的に手を入れて流れを変えようというもので、メリットを受ける国とデメリットを受ける国がうまれます。

このためG7=主要7か国の間では介入が認められるのは実体経済に悪影響が及ぶ「過度な変動」や「無秩序な動き」の時だという認識が共有されてきました。

今回の円安がこの「過度な変動」や「無秩序な動き」に該当するのか。

インフレに悩むアメリカ。

物価高のデメリットが輸出競争力アップのメリットより目立ち始めてきた日本。

今後、日米通貨マフィアたちの電話やメールでのやりとりが頻繁になるのか、市場関係者たちにとって気がかりな日々が続きそうです。

注目予定

4月4日から東証再編で新市場がスタートします。

東証1部や2部などはなくなり、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つに再編されます。

また7日には3月のFOMC=連邦公開市場委員会の議事録が公表されます。

FRBはインフレ抑制のため金融引き締めを加速させる姿勢を示していますが、どのような議論が会合で行われたのか注目です。

また、4日の週から流通企業の決算がスタートします。