富士山噴火想定の避難計画 対象地域の住民は80万人 中間報告

富士山の噴火を想定した新しい避難計画の中間報告がまとまり、噴石や溶岩流によって避難の対象となる地域に住む人は静岡・山梨・神奈川の合わせて80万人余りに上ると推計されました。自動車でいっせいに移動すると深刻な渋滞が発生するおそれがあることから、市街地では原則、徒歩で避難する必要があるとしています。

新しい避難計画は、富士山の噴火を想定したハザードマップが去年改定されたことを受けて、静岡・山梨・神奈川の3県と国、有識者などでつくる火山防災対策協議会が見直しを進めてきたもので、30日、中間報告が示されました。

それによりますと噴火によって避難が必要となる地域を6段階に分け、対象となる地域に住む人は静岡・山梨・神奈川の3県の27市町村で合わせて80万5600人に上ると推計されています。

このうち火砕流や大きな噴石が及んだり溶岩流が3時間以内に到達したりする地域に住む人は静岡と山梨の10の市町村で11万6000人余りと、これまでの推計の7倍に達すると想定されています。

これらの地域の人は火山性地震や地殻変動が観測されるなどして大規模な噴火の前に警戒レベルが引き上げられた場合や、噴火直後には速やかに危険な区域から避難する必要があると指摘しています。
また、住民の避難にかかる時間をシミュレーションしたところ、市街地では住民が自動車でいっせいに移動すると深刻な渋滞が発生し、避難が間に合わないおそれがあることがわかりました。

溶岩流は壊滅的な被害をもたらすものの、傾斜の緩い場所では流れる速度が比較的遅いことから、渋滞が予想される市街地では障害者や高齢者など車で避難する必要がある人をのぞいて「原則、徒歩で避難する」という新しい方針も示されました。

「広域避難」は段階的に・火山現象ごとの対応を

中間報告では噴火の影響が広範囲に及んだ場合に周辺の自治体へ避難する「広域避難」の考え方についても示されました。

大きな噴石や火砕流などは発生前の避難が必要とした一方、溶岩流は火口の位置が特定されれば被害の影響地域も把握しやすく、まずは地域内で安全な場所に避難したあと、噴火の規模や状況に応じて段階的に広げていくとしています。

このほか、積もった雪が噴火でとけて流れ下る「融雪型火山泥流」への対応など、季節や地域ごとに必要となる避難の考え方についても報告されました。

協議会では▽避難に支援が必要な人たちの対策や、▽広範囲に影響が懸念される火山灰への対応などについて検討を行い、2022年度にも最終的な避難計画をまとめることにしています。

溶岩流 数十キロ先まで流下

今回の避難計画のもととなっているのは「富士山火山防災対策協議会」が去年3月に公表した「ハザードマップ」です。特徴的なのは広域に及ぶ溶岩流です。大規模な噴火が起きた場合に流れ出す溶岩の量は従来想定のおよそ2倍の13億立方メートルに達すると推計され、火口周辺の山梨県富士吉田市や静岡県御殿場市だけでなく、北東に40キロ以上離れた山梨県上野原市や相模原市、南東側の神奈川県小田原市、南側の静岡市清水区など、3つの県の7市5町に到達するとしています。

火砕流

また、高温の岩石や火山灰、それに火山ガスなどが一体となって斜面を高速で流れ下る「火砕流」については、富士吉田市の方面と静岡県富士宮市の方面に流れ下り、一部の場所では従来の想定より噴出量が大幅に増えたことで火口からより遠くまで到達するおそれがあるとされました。避難路としても検討されている自動車専用道路の東富士五湖道路にも影響するおそれがあると推計され、人の移動や物流などに影響が及ぶ可能性があります。

融雪型火山泥流

積もった雪が火砕流でとけ、その水が土砂を巻き込みながら流れ下る「融雪型火山泥流」は、沢や河川などを通じて最大で10キロ以上におよぶと推計されています。

人頭大以上 大きな噴石

噴火で飛ばされるおおむね20センチから30センチ以上の大きな噴石については、過去の事例をもとに想定される火口から最大で4キロに達するとしています。協議会ではこれらはいずれも噴火による影響がおよぶ地域を重ねたもので、一度の噴火ですべての範囲に被害が出るわけではないとしています。

避難対象地域の住民最大80万人超 内訳は

避難の対象となる地域に住む人は静岡県で57万4790人、山梨県で12万4078人、神奈川県で10万6759人となっています。

このうち神奈川県では
▽南足柄市で3万2854人
▽小田原市で2万1789人
▽開成町で1万6753人
▽大井町で1万4345人
▽山北町で8038人
▽松田町で7674人
▽相模原市で5306人です。

山梨県では
▽富士吉田市で4万5348人
▽富士河口湖町で2万5288人
▽都留市で2万2476人
▽大月市で1万5309人
▽上野原市で7082人
▽西桂町で3702人
▽鳴沢村で2694人
▽山中湖村で1665人
▽忍野村で506人
▽身延町で8人です。

このほか静岡県では
▽富士市で24万2534人
▽富士宮市で11万8333人
▽御殿場市で5万8104人
▽裾野市で4万5334人
▽長泉町で3万8745人
▽沼津市で3万6557人
▽三島市で1万6870人
▽小山町で9742人
▽清水町で6758人
▽静岡市清水区で1813人です。

“噴火前後に避難が必要”11万人余 これまでの7倍に

これまでの計画などから大きく変わった点です。

まず、溶岩流や火砕流などから身を守るために噴火前や噴火の直後の避難が必要な地域に住む人は、山梨と静岡で11万6000人程度と新たに推計され、これまでのおよそ1万6000人の7倍に増えました。
改定されたハザードマップで、影響が想定される範囲が富士吉田市や静岡県の市街地などで拡大したためです。

噴火に伴う火山現象のうち、人頭大を超える大きな噴石や火砕流などは発生してから逃げることは難しく、比較的速度の遅い溶岩流でも避難に時間がかかれば巻き込まれる危険性もあります。
このため、今回の中間報告では噴石や火砕流、それに噴火後3時間以内に溶岩流が到達すると推計された地域の人たちについては、短時間に避難することを前提としています。

具体的には大規模な噴火の前に火山性地震や地殻変動などが起きるなどして事前に噴火警戒レベルが引き上げられた場合や、噴火の直後には危険なエリアから直ちに避難することとしています。

これらの対象となるのは次の市町村です。

【山梨県】
▽富士吉田市
▽忍野村
▽山中湖村
▽鳴沢村
▽富士河口湖町

【静岡県】
▽富士宮市(6万7774人)
▽富士市(7907人)
▽御殿場市(2795人)
▽裾野市(1993人)
▽小山町(897人)

対象となる10市町村の住民はあわせて約11万6000人となっていますが、富士山周辺を訪れる観光客や通勤・通学でこの地域にいる人は含まれていません。

このほか、溶岩流が到達する時期によって、段階的に避難の対象となる市町村は以下のとおりです。
【山梨県】
▽都留市▽大月市▽上野原市▽身延町▽西桂町

【静岡県】
▽静岡市清水区▽沼津市▽三島市▽清水町▽長泉町

【神奈川県】
▽相模原市▽小田原市▽南足柄市▽大井町▽松田町▽山北町▽開成町

住民の避難 徒歩を原則

これまでは車での避難を広く呼びかけてきましたが、溶岩流は流れる速度が比較的遅いこともあり、住民の避難について徒歩を原則とする方針を示しました。

シミュレーションをしたところ市街地で深刻な渋滞が発生し、逃げ遅れが起きるおそれが明らかになったことも要因です。

渋滞を防ぐことで、新たな避難計画が重視している高齢者や障害者など徒歩での移動が困難な人の車での優先的な避難につなげるのがねらいです。

さらに、これまでは遠くへの避難が想定されていましたが、今回の中間報告では、噴火後、火口の位置から影響が出そうな地域が分かるため、必ずしも遠くに避難しなくても安全は確保できるとしています。

住民の避難先は、
1 まずはその時にいる市町村の安全な場所
2 近隣の市町村
3 離れた市町村へと、
段階的に拡大することが望ましいとしています。

山梨県などは、今後、広範囲での影響が懸念される火山灰への対応などについて最終的な検討を進めることにしていて、新しい避難計画は2022年度の早い時期に完成する見通しです。

町外避難の協定を結ぶ自治体も

町の中心部への溶岩流の到達が想定されている神奈川県山北町は、住民が町の外に避難できるよう、埼玉や茨城、新潟の自治体と協定を結ぶなど対策を進めています。
町で富士山の噴火による溶岩流が到達する可能性がある南側の一部の地域には町役場や国道があるほか、町民のおよそ8割にあたる8000人余りが暮らしています。溶岩流が到達すると、国道を使った避難や町役場での業務の継続が困難になる可能性があるということです。

このため町は、住民が町の外にも避難できることなどを目指して、去年5月からことし2月にかけて▽埼玉県三芳町▽茨城県境町、それに▽新潟県村上市と災害時、相互に協力するための協定を結びました。
協定では災害時、互いに避難者を受け入れたり救援物資の輸送を行ったりすることなどを定めていて、町は30日に発表された中間報告を踏まえ、具体的な避難の方法を検討することにしています。

「的確に逃げることで命は十分に守れる現象」

中間報告の策定に携わった山梨県富士山科学研究所の吉本充宏 主幹研究員は、「避難に助けが必要な要支援者が逃げる段階になったら一般の住民は車での避難を控えることが大事になってくる。当然、車で逃げたい気持ちはわからなくはないが、要支援者が安全に逃げることを第一に考えて行動してほしい」と呼びかけています。

そのうえで吉本主幹研究員は、「今までは車での避難をベースとした訓練だったが今後は形態を変え、徒歩での避難訓練を行い、歩いて逃げることを浸透させていく必要がある。富士山の噴火自体を止めることはできないが、的確に逃げることで命は十分に守れる現象であり、一人一人が噴火から命を守るにはどうすればいいかなどを考える機会にしてほしい」と話していました。
また、検討委員会の副委員長で静岡大学の小山真人教授は「ハザードマップの改定で避難対象エリアが拡大され、シミュレーションの結果、車で全員を避難させるのは渋滞のため現実的でないとなった。不安を覚えるかもしれないが溶岩流のスピードは早くても人が歩く程度なので、冷静にとらえてほしい」と話しています。

そのうえで「実際にはいろいろな条件で避難が遅れる場合がある。これまでのハザードマップをよく見て避難しきれるかどうか、避難に時間がかかったらどうなのか、実際に歩いてどの範囲までいけるか避難してみることが重要だ」と指摘しました。

さらに小山教授は「住民の方々が感じた避難の課題を自治体に伝えてもらえれば、避難の計画に反映させていくことができる。中間報告をきっかけに自分たちの地区がどのように避難するのか、住民の方々に考えてほしい」と話していました。