【解説】ロシアとウクライナ停戦交渉 歩み寄りはどこまで?

ロシアとウクライナは29日、停戦交渉を行い、ウクライナ側はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる関係国との新たな安全保障の枠組みを提案しました。一方、ロシア側も首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小すると述べ、双方は一定の譲歩を示した形ですが、具体的な停戦に結びつくかは依然、不透明なままです。

今回の停戦交渉について国際部の北村雄介デスクは「ロシア側に有利な内容が目立つ」としたうえで、領土に関する問題で大きなすれ違いを抱えたままであり、妥結は容易ではないと解説しています。

今回の停戦交渉をめぐるそれぞれの主張です。
(詳しくは記事の後半に記載しています)。

【国際部 北村デスク解説】

「中立化」めぐる議論は

ロシア、ウクライナの双方がそれぞれ一定の譲歩を示した。
まずウクライナ側は「中立化に応じる」。具体的に言えば、欧米の軍事同盟であるNATOへの加盟を目指す方針をいったん取り下げるということ。
ゼレンスキー政権にとっては看板政策の転換で、大きな譲歩と言える。

次にロシア側は「軍事作戦の縮小」。具体的には首都キエフと北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたとしている。
ポイントは「北部」に限定している点。東部や南部の戦闘はむしろ激しくなるおそれもある。
ーただ、NATO加盟に代わるものとして、ウクライナ側は「新たな安全保障の枠組み」を作るよう提案している。これはどのようなもの?

ウクライナは今回のような突然の軍事侵攻に対して反撃もできない、丸腰の国になるつもりはない。どのような国がその枠組みに参加する可能性があるかと言うと、北米のアメリカ、カナダ。それからイギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの主要国。それに東欧の地域大国、ポーランド。トルコやイスラエルといった、強力な軍事力を持つ国、さらに欧米と対立するロシアや中国も含まれている。

なぜこのように多くの国に入ってほしいとウクライナが求めているかというと、実は過去に苦い経験があるから。
ウクライナが28年前、1994年にアメリカ、ロシア、イギリスと交わした「ブダペスト覚書」。旧ソビエト時代にウクライナ領域に配備されていた核兵器を放棄する見返りに、国の安全を保障するという覚書を交わした。しかしこの覚書は、2014年のクリミア併合、ドンバス紛争などでロシアによって破られた。
今回も、軍事侵攻したロシアは言語道断として、ウクライナの安全を保障すると約束したアメリカやイギリスも、結局実行できていないじゃないかという不満がウクライナ側にはある。
このうち何か国が「新たな安全保障の枠組み」に入るか分からないが、ウクライナがこれだけ多くの国を挙げた背景には、次の国際合意こそは実効性のあるものであってほしいという、強い願望が込められている。

領土に関する問題ではすれ違い大きい

実効性のある停戦、つまり本当に銃声がやむまでの道のりは遠いと正直思う。
さきほどは双方が譲歩した点をあげたが、もちろん譲歩できない点も見えてきた。まずロシア側、東部を完全制圧するねらいは変わっていないとみられる。ロシアはすでに国家として承認した親ロシア派の支配地域を、ドネツク州、ルガンスク州の境界まで拡大したい。その後はクリミアと陸続きにする。そうすることで東部の支配を盤石にしたい。
しかしこれは、ウクライナの領土主権を明らかに侵害するもので、ウクライナとしては到底受け入れられない。一刻も早く戦闘を止めるため、ウクライナ側は今回の停戦交渉では事実上棚上げしたが、領土に関する問題は最も根深く、解決が困難。大きなすれ違いを抱えたままの交渉は、容易に妥結できないと思う。

ロシア側に有利な内容目立つ

ーすると今後、首脳会談の実現も、時間がかかりそうか?

今回の停戦協議全体を見て、ロシア側に有利な内容が目立つ。
ロシアの方が優位なポジションで交渉を進めた印象。つまりプーチン大統領は決して要求を大幅に引き下げたわけではない。
ロシア側も、少なく見積もって数千人、多く見積もれば1万人を超える死者を出している。大きな成果もなく撤兵したのでは、プーチン大統領の求心力の低下は避けられない。
首脳会談の実現には、まだそれなりに時間がかかると思う。

【交渉の具体的な中身は】

停戦交渉では、以下の内容が話し合われたとみられます。内容を5つのポイントにまとめました。

●NATO加盟に代わる集団的安全保障の枠組み

まずロシアが求めてきたウクライナの「中立化」についてです。

ウクライナ側によりますとNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わり、新たな集団的な安全保障の枠組みを提案したということです。

この枠組みについてウクライナ側は、アメリカやイギリス、ドイツ、フランスのほか、中国、ロシア、カナダ、イスラエル、ポーランド、トルコなどが含まれる可能性があるとしています。
そのうえで、この枠組みによって自国の安全が確保できれば、「非核の地位」と、NATO加盟を断念する「中立化」を受け入れるとしています。

「中立化」には、
▼ウクライナ国内に外国の軍事基地を設置しないことや、
▼外国の部隊を駐留させないこと
▼軍事演習などを行う場合は関係国との同意を条件とすることも含まれるとしています。

一方、ロシア側はこの提案について検討する考えを示しました。

そのうえで、関係国からウクライナの安全が守られる対象地域について、南部クリミアと親ロシア派の武装勢力が事実上、支配しているウクライナ東部の地域は、対象外になると説明しています。

「中立化」をめぐるウクライナ側の提案について、今後、合意に向かうかが注目されます。

●南部クリミア・ウクライナ東部の主権

次にロシアが8年前に一方的に併合した南部クリミアの主権について、ウクライナ側は今後15年間協議を続けるとしていて、この間、領土問題の解決のために武力は行使しないとする提案をしました。

また、親ロシア派の武装勢力が事実上支配しているウクライナ東部の主権問題についても、今後首脳どうしで話し合う項目だとしています。

この点についてロシア側は、クリミアが自国の領土だと強固に主張しているほか東部地域の独立をすでに承認しており、ウクライナ側としては、今回の停戦交渉では、最も解決が困難な主権をめぐる問題を、事実上棚上げした形です。

●首脳会談

ウクライナ側が求めてきた首脳会談についてもロシア側は、まずは、外相レベルで合意内容が承認できたら、首脳会談を実施することが可能だとしています。

●キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小

また停戦交渉に関連してロシア側は首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決めたとしています。

ロシア側は、これは停戦ではなく、信頼醸成措置だとしています。

また、ロシア国防省は、ウクライナ東部に軍事作戦の重点を置く方針を示しています。

●そのほか

このほかロシア側は、ウクライナがEU=ヨーロッパ連合に加盟することは否定しないとしています。

また合意内容についてウクライナ側は、憲法を改正する必要があることなどから国民投票を行って民意を問うことが必要だとしています。

またそのためには停戦やロシア軍の撤退が必要だとしています。