障害者施設での虐待 相談や通報 過去最多に 400件余りは未調査

昨年度、障害者施設での虐待について全国の市区町村に寄せられた相談や通報などは、過去最多の2900件余りだったことが国のまとめで分かりました。このうち400件余りは自治体の調査が行われておらず、厚生労働省は虐待の見逃しにつながるおそれもあるとしています。

厚生労働省によりますと、昨年度、障害者施設での虐待に関して全国の市区町村が家族や施設の職員などから受けた相談や通報などは前年度より95件多い2912件で、平成24年度に統計を取り始めて以降、最も多くなりました。

自治体が調査した結果、虐待を受けたと判断された障害者は、156人増えて過去最多の890人となり、このうち40代の男性1人が死亡しています。

一方、市区町村が受けた相談や通報の15%にあたる437件は、昨年度のうちに調査が行われていなかったということです。

理由は「明らかに虐待ではなく調査が不要と判断した」が57%、「後日、調査を予定しているか、調査の要否を検討中」が21%などとなっています。

調査をしていなかった件数が都道府県別で最も多かったのは東京都で62件、次いで大阪府が38件、神奈川県と愛知県がそれぞれ30件でした。

また調査をしていなかった割合を見ると、宮崎県が最も高く39%、次いで長崎県が37%、富山県と奈良県がいずれも28%でした。

岐阜県と徳島県、佐賀県はいずれもすべて調査をしていたということです。

厚生労働省は「個別の事情はあるが、調査をしていない件数が多いほど虐待が見逃されるおそれが出てくる。本当に調査の必要がない事例なのか十分に検討してほしい」としています。

元職員“自治体に通報も調査されず”

去年、勤務先だった関東地方の障害者施設で、利用者がほかの職員からたたかれる様子などを複数回、目撃したという元職員の男性です。

施設のカメラには、利用者が下半身を蹴られるような様子も写っていました。

しかし、施設の責任者に伝えても改善が見られず、自治体に通報し、カメラの映像も提出したということです。

この際、自治体の担当者からは「新しく着任したばかりで虐待かどうか判断できない。県に報告しておくが調査などができるかも分からない」と説明されたとしています。

その後、数か月たっても調査が行われた形跡はなく、元職員は施設を辞め、利用者も別の施設に移ったということです。

調査について厚生労働省の手引は当事者への聞き取りが必要と定めていますが、利用者の母親によりますと今も自治体から連絡はなく、本人や家族への聞き取りも行われていないということです。

母親はNHKの取材に対し「施設に預けている手前、直接は訴えづらいので自治体に調査してもらいたいと思っていた。しかし、調査をしてほしいと伝えても応じてもらえず、どうしたらいいか分からない」と話しています。

また、通報した施設の元職員は「やるべきことをきちんとやったのに自治体には本当に怒りしか感じない。スピードを重視して対応してもらいたい」と話していました。

専門家「通報の先に虐待がある前提で自治体は原則調査を」

厚生労働省の委託を受けて障害者虐待の防止に関する調査や研究をしている委員会のメンバーで、障害者福祉に詳しい日本社会事業大学専門職大学院の曽根直樹准教授は「自治体の間で調査が必要かどうかを判断する基準に差があるのではないか」としたうえで「障害者が被害を訴えるのは難しく、調査が行われなければ通報の意味がなくなる。通報の先に虐待があるという前提で自治体は原則、調査を行うべきだ」と指摘しています。

全例調査が行われていない背景については「調査には時間と人手が非常にかかる。自治体の職員はほかの業務もしながら対応しているので、深刻な内容ではないと思ってしまうと、多忙を理由にして調査をせずに済ませてしまうことが考えられる。また、人口が少ない自治体では通報がほどんどないため、通報を受けても調査の方法自体が分からないといったこともあるのではないか」としています。

そのうえで「聞き取り調査のノウハウなどを研修で自治体の職員に身につけてもらったり、専門知識のある人に支援してもらえる体制を日頃から作ったりしておく必要がある」と指摘しています。