あわててネット検索して頼んだら…80万円? 気をつけたいことは

あわててネット検索して頼んだら…80万円? 気をつけたいことは
家の鍵が開かなくなった。水道が止まらなくなった。そんなとき、電話1本でかけつけてくれるサービスは、ありがたい存在ですよね。

みなさんは、こうした業者を探すときにどうしていますか? とにもかくにもネットで検索して頼んでみる、という方も少なくないと思います。

しかし、中には法外な料金を請求する悪質な業者もいます。暮らしにまつわるサービスをめぐるトラブルが、いま急増しています。

こうした中、行政と地域の業界団体が協力して、「適正価格」を紹介する取り組みも進んでいます。暮らしの中でトラブルが起きてしまっても、あわてないために、ぜひ知っておきたい、気をつけたいポイントをまとめました。

(神戸放送局 記者 金麗林・大阪放送局 記者 橋野朝奈)
この特集でまとめている内容
・シャワーが止まらない! 請求額13万円!?
・鍵が開かなくなった! 請求額80万円!?
・トラブル急増中 「ネット広告」関係する相談は10倍以上
・検索結果の画面に表示される「広告」に注意を
・「マグネット広告」にも注意が必要なものも
・行政も危機感 神戸市HPは「標準的な料金」情報への案内も
・「適正価格」の業者を見つけるにはどうすれば?
・くらしのトラブル 業者に連絡する前にできることも

シャワーが止まらない! 請求額13万円!?

兵庫県に住む50代のマユさん(仮名)。

去年夏、自宅の風呂場のシャワーが止まらなくなりました。

あわててネットを検索し、見つけた業者に来てもらいました。

「部品全体を交換する必要がある」

作業を終えて請求されたのは13万円。

そのときは、言われるがまま支払いました。
マユさん
「当時はパニックになっていたので、適正価格かどうか冷静に判断できませんでした」
しかしその後、不審に思い始めます。

交換した部品は量販店でも扱っていました。

試しにその店で見積もりをとったところ、作業代込みで2万7000円。

ほかの業者の見積もりでも高くて4万円でした。

マユさんは業者にクーリングオフを求めます。

ところが、業者からこう言われました。
「いきなりクーリングオフなんて言われても。会社の弁護士を出しますよ」

ひるみそうになりましたが、マユさんの側も弁護士を依頼して交渉。

返金されたのは、1か月以上たってからでした。
マユさん
「弁護士を介さないと相手にしてもらえなかったので、大変でした。最初からもっと慎重に業者を選べば良かったと後悔しました」

鍵が開かなくなった! 請求額80万円!?

さらに高額の請求を受けたケースも。

大阪市に住む70代のミヨ子さん(仮名)です。

去年の冬、マンションの室内にいたときに玄関ドアの鍵が壊れ、外に出られなくなりました。
ミヨ子さんもあわててネットで検索し、画面の上のほうに出てきた業者に電話。

やってきた作業員2人に、なんとかして欲しいと、すがる思いで頼み込みました。

ドアの外で作業の音が響きましたが、なかなか開きません。

作業員1人が外壁から回り込み、ベランダから室内に入ります。

内側と外側から作業を進め、ようやく鍵は直りました。

請求された金額はなんと83万4680円。
ミヨ子さん
「そのときは全く高いと思いませんでした。それどころか作業員が輝いて見えました。ありがたいという気持ちとすみませんという気持ちでいっぱいでした」
すぐにコンビニエンスストアで限度額の40万円をおろし、支払いました。

残りの40万円は翌日渡すことになりました。

その直後、友人にこの出来事を話すと、法外な金額だと指摘されました。

我に返ったミヨ子さん。ようやく冷静になりました。

作業員の携帯電話にかけて「請求金額は払えない」と伝えました。

「命がけの仕事だったのに」と言われますが、払えないものは払えないと告げました。
ミヨ子さんはすでに支払ってしまった40万円についても取り戻そうと、クーリングオフの手続きをとることにしました。

業者の住所にクーリングオフを求める書類を送ります。

ところが「宛先無し」で返ってきました。

契約書に記載されていた業者の住所は虚偽のものだったのです。

その住所にあったのは、倉庫でした。

ミヨ子さんが支払った40万円は、結局返ってきませんでした。

トラブル急増中 「ネット広告」関係する相談は10倍以上

こうした鍵や水道などの「くらしのレスキューサービス」をめぐるトラブルは、いま急増しています。

国民生活センターに2021年度に寄せられている相談は6000件を超えています(3月14日までのデータ)。8年前の3倍以上です。
特にこのうちネット広告を見て依頼してトラブルになったという相談は10倍以上に増えました。

相談全体の半数近くを占めるまでになっています。

「○○修理 △△県」などと検索し、画面の上のほうに表示された業者に依頼してトラブルになったというケースが目立っています。
国民生活センターの担当者
「スマホが高齢者にも普及したことが影響していると考えられます。焦ってインターネット検索をした結果、慎重に比較したりせずに、すぐに連絡してしまうということが、少なくないのではないでしょうか」

検索結果の画面に表示される「広告」に注意を

消費者問題に詳しい弁護士は、検索結果に見える「広告」に注意して欲しいと言います。

「リスティング広告」というしくみです。

「検索連動型の広告」とも言われ、検索結果が表示される部分の上のほうに、そのとき検索したキーワードに関連する広告を掲載するものです。

業者が検索エンジン側に料金を払うことで、検索結果の画面の上のほうに表示されるようになり、多くの目に触れやすくなります。

利用者があわてているときは「広告」だと気づかないこともあるため、注意が必要だといいます。
北村弁護士
「鍵や水回りに関するトラブルは依頼者が焦っている状態で、ネットの画面で上のほうに出てきた業者にアクセスしやすいため、業者はリスティング広告に力を入れているとみられます。リスティング広告そのものは広告の仕組みのひとつですが、広告の中には悪質な業者が含まれている可能性もあります」
「リスティング広告」は、左肩の部分などに「広告」の2文字が表示されています。
落ち着いて画面を確認すれば簡単に見分けることができます。

「マグネット広告」にも注意が必要なものも

ネット検索だけでなく、レターボックスなどに入れられるマグネット広告の中にも注意が必要なものがあります。

警察に摘発されたある業者のケースです。

神戸市で去年、逮捕・起訴された水道工事会社の社長。
11人から計200万円あまりをだまし取ったとして詐欺の罪に問われています。

捜査関係者によると、この会社は「ネット広告」や「マグネット広告」で客を募っていました。
委託先のコールセンターで電話を受けたあと、会社の幹部が客に電話を折り返します。

その際のやりとりで、客にどのくらい水回りの知識があるか探っていたといいます。

その上で、電話をかけてきた客を「ぬるそう」と「渋そう」に分類していました。

だましやすい相手かどうか見極めていたとみられています。
兵庫県警 捜査幹部
「知識が少なそうな人や1人暮らしのお年寄りなどは『ぬるそう』。知識がありそうな人、40代から50代の男性などは『渋そう』と分類していた。『ぬるそう』な人のもとへは経験豊富な作業員を派遣し確実に金を得る。逆に『渋そう』な人のもとへは、実績が悪い作業員を“だめもと”で派遣していた」
この会社は、広告費に、毎月1000万円から2000万円をかけていました。

「ネット広告」と「マグネット広告」がその柱。

客には20万円~30万円の費用を請求していたということです。

摘発されたこの業者の、おととし1年間の契約数は7900件、売り上げは6億円に上っていたとみられています。

行政も危機感 神戸市HPでは「標準的な料金」情報への案内も

行政による異例の呼びかけも行われています。

神戸市ではここ数年で水回りの工事をめぐるトラブルが急増したことを受けて、今年度ステッカー77万枚を作成。市内の全世帯に配布しました。

7000枚を超えるポスターも用意。今、神戸の街を歩くとあちこちで目にします。
神戸市では24時間の電話窓口「水道修繕受付センター」も設けています。

電話をかけると、市と提携する33の業者がいつでも交代で対応してくれます。

さらに神戸市水道局のホームページでは、標準的な料金の情報がまとめられたサイトも紹介しています。
神戸市水道局 津高係長
「危機感を持って異例の取り組みを進めています。ネット広告やマグネット広告だけで判断せずに慎重に業者を選んでください」

「適正価格」の業者を見つけるにはどうすれば?

適正価格の業者を見つけるにはどうすればよいのでしょうか?

消費者問題に詳しい北村弁護士は、次のように指摘します。
▽検索結果に見えても、それが広告であることも
▽複数の業者のサイトを見比べる
▽いくらかかるか最初に見積もりをとる
▽見積書を示さずに先に工事を行おうとする業者には要注意
▽契約してしまってもクーリングオフ可能。消費者生活センター「188」に相談を
適正な価格で工事を行ってきた多くの業者も、現状に胸を痛めて対策に取り組んでいます。

東京や名古屋では、水回りの工事業者の組合が電話窓口を設けています。
24時間・年中無休で、適正価格の業者を紹介しています。
全国管工事業協同組合連合会
「悪質業者がいることで、業界全体のイメージが悪くなってしまっています。いざ修理が必要な場面になると焦ってあわててしまいますが、落ち着いて最寄りの組合や水道局に電話するようにしてください」
鍵の修理・交換に関する業界団体も、こう呼びかけています。
日本ロックセキュリティ協同組合
「かかりつけ医のように、前もって修理業者を見つけておくといいと思います。決して焦らずに、依頼する業者の価格が適正か、見積もりをとりましょう。納得した上で鍵の補修・交換をするようにしてください」

暮らしのトラブル 業者に連絡する前にできることも

そもそも業者に電話する前に、できることもあります。

まずは水道の元栓を閉じること。

自宅の元栓の場所、把握していますか?
元栓さえ止めればそれ以上被害は拡大しません。
量販店などで買える簡単な道具で解決できるケースもあります。

排水溝の詰まりをとる「ラバーカップ」。
1000円ぐらいで販売されています。

これで解決できることも少なくないということです。
また、賃貸の住宅であれば、多くの場合、管理会社が提携している水回りと鍵の業者がいます。

いざという時に備えて、連絡先を控えておきましょう。

春からの新生活 もしもの時にもあわてないように

春からの新生活。1人暮らしを始める人はご注意を。

とくに18歳と19歳の人は、4月からの成人年齢の引き下げで保護者の同意がなくても消費者契約することができるようになります。

暮らしのもしもが起きたときにどう対応すべきか、あらかじめ確認しておくことが大切です。

もしも、のときほど、あわてずに落ち着いて冷静に行動できますように。
神戸放送局 記者
金 麗林
2019年入局。神戸局で警察担当として、暴力団や詐欺事件、性犯罪などを取材。
大阪放送局 記者
橋野 朝奈
2019年入局。大阪局で警察担当として、経済事件や少年事件などを取材。