ロシアとウクライナ 停戦交渉終了 キエフなどの攻撃大幅縮小へ

ウクライナで激しい戦闘が続く中、トルコのイスタンブールでロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉が日本時間の今夜行われ、双方の代表団は一定の進展があったという認識を示しました。ロシアの国防次官は、首都キエフなどでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしました。

ウクライナへの軍事侵攻を続けているロシア軍は、29日も東部の要衝マリウポリの完全掌握を目指すなど攻勢を強める一方、ウクライナ軍も反撃しています。

それぞれが戦況の優位性を強調する中、双方の代表団による対面形式の停戦交渉がトルコのイスタンブールで行われました。

ロシア国防省次官「キエフなど軍事作戦大幅縮小を決定」

交渉の終了後、双方が会見を行い、このうちロシア国防省のフォミン次官は「相互信頼を高めて次の交渉に必要な条件を整えて条約の調印という目標を達成するため、首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決定した」と述べました。

ウクライナ代表団「新安全保障枠組みが機能なら中立化に応じる」

一方、ウクライナ代表団の関係者はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて協議したことを明らかにしたうえで、それが機能すればロシアが求めるウクライナの「中立化」に応じる考えを示すなど一定の進展があったという認識を示しました。
協議の内容を受けて両国の首脳がどのように判断するのかが今後の焦点です。

トルコ外相「最も意味のある進展があった」

ロシアとウクライナの交渉を仲介したトルコのチャウシュオール外相は「いくつかの項目で合意ができ、これまでで最も意味のある進展があった」と評価しました。

そのうえで「もっと難しいテーマについては、それぞれの外相どうしの会談で結論を出すことになるだろう」と述べ、解決の難しい課題が残されているものの、今後の交渉の進展しだいでは両国の首脳どうしによる会談もありうるという考えを示しました。

ウクライナ市民からは冷ややかな声

ロシアとウクライナによる停戦交渉で、双方の代表団が一定の進展があったという認識を示し、ロシア側が首都キエフ周辺などでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしたことについて、ウクライナ西部の主要都市、リビウでは、市民から「簡単には信じられない」などといった冷ややかな声が聞かれました。

このうち、北部のチェルニヒウから避難してきたという高齢の女性は「できるだけ早くふるさとのチェルニヒウに帰りたいです。ただ、私たちが戦っているのはファシストよりひどい連中で、私たちのことなど何も考えていないし、悪いとも思っていない」と話していました。

ロシア出身で長年ウクライナに住んでいるという女性はロシア側が今回の軍事侵攻についてロシア系住民を保護することが目的だとしていることについて「私は助けてほしいと言ったことはない。彼らが『助けてくれる』のであれば、どうして私は2歳の孫娘と一緒に1週間もシェルターに避難しなければならないのか。ロシアが言っていることはすべてうそだ」と強く非難しました。

アメリカ国務長官 ロシア軍の出方を見極める考え示す

トルコのイスタンブールで29日に行われたロシアとウクライナによる対面形式の停戦交渉について、アメリカのブリンケン国務長官は訪問先のモロッコで「効果的に物事を前進させるものは見られない。ロシアに真剣さの兆候が見られないからだ」と指摘しました。

そして「ロシアによる発言と行動のうち、注視しているのは行動だ。ロシアが行うべきことは、軍事侵攻や砲撃をやめ、軍の部隊を引き揚げることだ」と述べ、ロシア軍を速やかに撤退させるよう重ねて求めました。

一方、ロシア国防省が、ウクライナの首都キエフ周辺などで軍事作戦を大幅に縮小するとしていることについては「ウクライナ東部での戦闘に集中するという侵攻の方向転換なのか、人々を欺くための手段なのか、軍の部隊が大きな損失を受けたことによる再編成なのかわからない」と述べ、今後のロシア軍の出方を見極めていく考えを示しました。

専門家「南東部の取り扱い 折り合いつけられるか課題」

ロシアの国防次官がキエフなどでの攻撃を大幅に縮小する考えを明らかにしたことについて、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は「キエフ周辺の地域はロシアの軍事行動が滞っていたところであり、停戦交渉を進展させるための環境づくりを口実にして、作戦縮小の判断をしたと受け止められる」と話しています。

そのうえで「プーチン大統領の最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記が『軍事作戦の目標はウクライナの体制転換ではない』と発言したことも考え合わせるとロシアは、ゼレンスキー政権の打倒という当初の目標を断念したのではないかと受け止めている。キエフの陥落を事実上断念するということはウクライナに対して妥協の姿勢を示すことにもなりロシアとしても停戦交渉を進めたいという意図のあらわれではないか」と指摘しています。

一方、兵頭さんは「ロシアが制圧を進めている南東部での軍事行動は続いており、今後、さらに集中することもありえる。今回の判断がロシアが軍事作戦自体をやめるとか、撤退することを意味するわけではないことに留意する必要がある」と話しています。

また、今後の停戦交渉については「南東部について、ウクライナがロシアの即時撤退まで求めるのか、ロシアによる掌握を認めるのかなど、その取り扱いで折り合いをつけられるかが課題になるだろう。いくつかの論点で歩み寄りは見られるが、両者の主張には依然として隔たりも大きく、楽観視することなく、交渉の行方に注目していく必要がある」と指摘しています。