【現地は今】「マリウポリ病院は物資ない」国境なき医師団

「医療物資を届けるのは時間との戦いです」

取材に応じてくれたのは、国境なき医師団のトーマス・ベンドルさんです。激しい戦闘によって、市民の犠牲者が増え続けているウクライナでの支援の状況を話してくれました。

現地ではどんな活動を?

私は広報担当として、3月6日から現地で活動しています。

最初はポーランドとウクライナの国境にいましたが、9日からリビウにいます。国境なき医師団は、現在、100人以上のスタッフがウクライナ国内や国境周辺で活動しています。

具体的にどんな支援を?

現在、薬品や医療器具などの医療物資をウクライナの病院に提供するのが主な活動です。

私がいるリビウ、そしてドニプロに医療物資を保管する倉庫があります。そこから、首都キエフや東部の病院などに足りない物資を提供します。今は、深刻な状況にある東部を優先しています。

今、各地に送っている物資は手術用の医療器具です。戦争が始まってから、外科治療を必要とする患者が増えていて、現場ではこうした医療器具が不足している状態が続いています。

また持病のある患者が治療を継続することが困難になっています。そうした患者の薬も提供しています。結核などさまざまな治療薬も現場に送っています。

特に支援が難しい地域は?

各地のスタッフから現地の状況を聞いていると、最も深刻な状況なのがマリウポリです。食料や水がほとんどない生活が続いています。

現地スタッフとも連絡が取りづらく、少し前に話をしたときには、マリウポリでは、道ばたには多くのご遺体が置かれたり、庭に穴を掘って、埋葬しているということを聞きました。埋葬が間に合わないほど、多くの犠牲者がいると報告を受けています。

マリウポリの病院の状況は?

病院や薬局では薬品などの物資が完全になくなっているとのことです。医療従事者はいますが、物資がないため、救急医療を提供できない状況です。

私が特に心配しているのは子どもたちです。インフラも通信網も遮断され、病院でも水も思うように使えない状況のようです。水が確保できない状態が続くと、脱水症状を起こします。そして下痢をしたら、さらに症状が悪化する危険性があり、最悪な場合は死に至ります。

この戦闘が長期化すると、より多くの人が治療を受けられなくなり、たくさんの人の命が危険にさらされます。住宅地や病院などへの攻撃が続いていて、私たちも医療物資を届けられていません。

心配していることは?

われわれが一番恐れていることは、この戦闘が続き、戦争の前線が拡大し、マリウポリで起きていることがほかの都市でも起きることです。これはさらなる混乱を招きます。

多くの国内避難民がいるリビウには、われわれ国境なき医師団を含め、たくさんの人道支援団体が拠点を置いています。東部や南部の都市に比べたら落ち着いていると思います。

それでも少し離れた場所で空爆があるなど、戦争を感じる瞬間はあります。戦争の前線がかわり、こちらに近づいてくるのではないかと、地元の人たちも恐怖を感じています。

今後はどのような活動が予定されているのですか?

現在、マリウポリ以外の都市は物資を提供できています。安全上、行けなくなる前に、より多くの病院に物資を送ろうとしています。できる限り、物資を送っていますが、それでも現場にとっては、足りないと思います。

国内各地に医療物資を送るのは、もはや時間との戦いです。また、避難民への医療提供も大切になってくると思います。ウクライナ国内、そして国境での活動が重要になってきます。

ウクライナの多くの人たちが何も持たずに避難しています。各地のスタッフからは、避難民の中には、妊婦も多いと聞いていて、安全に出産できる場所を確保することも課題となっています。

どうやったら安全な場所が提供できるか、国境なき医師団としても検討しないといけないかもしれません。戦況がどうなっていくか次第だと思いますが、われわれの活動は続きます。