社会

教科書検定 新選択科目「探究」や「論理国語」などが初合格

来年4月から使われる高校の教科書検定が行われ、新たな選択科目の「日本史探究」や「世界史探究」それに「論理国語」などの教科書が初めて合格しました。問題意識から学びを深める「探究活動」という学習方法が多くの教科書に盛り込まれています。
今年度の検定は、来年4月から主に高校2年生が使う選択科目の教科書が対象となり、29日に開かれた文部科学省の審議会で、申請を取り下げた2点を除き239点が合格しました。

ことし4月に導入される新たな学習指導要領では、選択科目は現在の「世界史B」や「日本史B」「地理B」が、「世界史探究」「日本史探究」「地理探究」に、現代文や古典が「論理国語」や「古典探究」などに再編され、問題意識に基づき学びを深めることが重視されます。

これを受け、今回合格した教科書には、「探究活動」という学習方法が多く盛り込まれ、知識を得るだけでなく地域の人へのインタビューや、生徒や教員との意見交換、写真や統計資料の活用などを求める内容となっています。

出版社の中には現在より掲載する資料の数を1.8倍に増やしたところもあり、単純に比較はできないもののページ数が増えたり教科書自体のサイズを大きくしたりしているものが多く見られます。

合格した教科書では、新型コロナに関する記述が地理歴史や公民のほか、数学や理科、情報といった幅広い教科に盛り込まれ、来月から成人年齢が18歳に引き下げられることに関する記述も多く見られました。

また政府が去年4月に、慰安婦問題や太平洋戦争中の徴用をめぐり、用語に関する閣議決定をしたことを受けた意見が初めてつけられ、14件すべて政府の見解に基づく記述に修正されました。

新しい教科書はことし5月24日以降に各地で公開され、8月末までにどの教科書を使うか教育委員会などが決める採択が行われます。

「YOASOBI」「鬼滅の刃」「シン・ゴジラ」記述の教科書も

表現力や豊かな想像力を伸ばすことなどを目標とした「文学国語」では、人気漫画「鬼滅の刃」や、ネット発の音楽ユニット、YOASOBIを取り上げた教科書もあります。

この中では「小説だけでなく、漫画もアニメも実写版映画も歌詞も、言葉が命である。作品から送られてくる表現者の言葉を受けとめ、享受者としての感性を磨いていくことによって、私たちの言語生活はよりいっそう豊かになっていくだろう」と記されています。

また「世界史探究」の教科書では、核エネルギーについて考えるテーマで映画「シン・ゴジラ」が例に出されています。

初代ゴジラがビキニ水爆実験の影響で登場したのとは異なるとして、「福島第一原発事故後の『シン・ゴジラ』では、放射性廃棄物に適応して核エネルギー変換器官を体内にもつに至ったゴジラが登場し、核エネルギーの平和利用に一石を投じる作品になった」と伝えています。

成人年齢18歳引き下げ関連の記述も

来月、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることについて、公民の教科書のほか国語や英語の教科書にも関連する記述が盛り込まれています。

このうち「政治・経済」のある教科書では▼OECD加盟国の多くが成人年齢を18歳としていることや、▼引き下げにより結婚や契約といった面で何が変わるのか、表やイラストで示しています。

別の「政治・経済」の教科書では「新成人は狙われる?」という自治体のポスターとともに、保護者の同意がない場合は契約を取り消せる「未成年者取消権」を、18歳19歳は使えなくなると説明したうえで、正しい判断ができる力が必要だとしています。

さらに別の教科書では「18歳からの社会参加」という特集が5回設けられ、「ライフプランと金融」を取り上げた回では、成人年齢の引き下げで金融商品の取り引きや契約の責任も問われるようになるとして投資のリスクや金融リテラシーについて詳しく伝えています。

このほか国語の「論理国語」で成人年齢を18歳に引き下げる改正民法が成立したときの新聞記事が使われたり、英語の教科書でも関連する内容が紹介されたりと幅広く記載されています。

新科目「論理国語」に2社が小説掲載で困惑の声も

科目構成が大幅に変わる国語の教科書では、新たな選択科目「論理国語」で教材として想定されていない小説を掲載した2社の教科書が今回、検定を合格し、ほかの教科書会社からは困惑の声が上がっています。

新しい学習指導要領では、求められる教材を解説書の中で細かく示していて、「論理国語」では論説文や批評文といった「論理的な文章」や、提案書や法令文などの「実用的な文章」を教材とし、小説や物語などの文学的な文章を除くこととされています。

しかし、今回の検定では夏目漱石の「こころ」や宮沢賢治の「なめとこ山の熊」などの小説を掲載した2社の教科書も合格しました。

これらの教科書では小説を「教材」ではなく、評論などに関連する「参考」や「資料」としていました。

国語の新しい科目を巡っては新1年生がことし学ぶことになる「現代の国語」でも去年の検定で、小説を掲載した教科書が合格し、全国の高校での占有率が16.9%と、最も多く使われることになっています。

今回、「論理国語」の教科書で小説を掲載しなかった教科書会社の担当編集者は「当初の文部科学省の担当者の説明では、『論理国語』も『現代の国語』も小説は掲載するものではないということだったので困惑している。扱える教材次第で構成は大きく変わるため、小説の掲載についての考え方が整理されなければ次の教科書検定に向けて編集が進められないので説明してほしい」と訴えていました。

「新型コロナウイルス」も

前回、検定された教科書で初めて記載された新型コロナウイルスについては、地理歴史や理科など7教科53点の教科書で幅広く触れられています。

前回からの1年間でウイルスの影響がより広がったことを受け、さまざまな角度から見た内容になっています。

このうち「世界史探究」では、低所得の国で多く見られたこれまでの感染症と違い、経済発展を進める地域を中心に急速に広がったことに加え、ワクチンの開発をめぐる競争や公平な分配のための枠組みづくりへの模索が続いていることが取り上げられています。

「政治・経済」では、去年2月に、休業要請などに応じない事業者や入院を拒否するなどした感染者への罰則を盛り込んだ特別措置法や感染症法が改正されたことに触れ、「感染症対策として、人と人との接触頻度を減らすことは有益である」としたうえで、「基本的人権である移動の自由や営業の自由などを侵害しないよう、慎重な適用が必要である」と記載されています。

また、「倫理」では、感染者やエッセンシャルワーカー、そして、その家族への言われなき差別が相次いだことに触れ「すべての人がかかえる困難や痛みを想像し共感する力を培いたい。なぜならば、社会的に弱い立場にある人々にとって住みやすい社会は、だれにとっても住みやすい社会だからである」と結んでいます。

このほか、「感染症と戦う化学」として、ウイルスの検出や、治療薬、ワクチンの開発など多様な場面で化学が活躍していることが紹介されています。

「世界史探究」や「地理探究」などにウクライナ関連も

ロシアによる軍事侵攻を受けたウクライナについては、「世界史探究」と「地理探究」、それに「政治・経済」のすべての教科書に2014年、ロシアが一方的にクリミア半島を併合したことが記載されています。

また、「世界史探究」の別の教科書では、ロシアによるクリミア半島併合を含めた20世紀後半以降の主な地域紛争を地図上で示し、「紛争解決や共生の歴史について探究し、これからの社会のあるべき姿について考えてみよう」と平和的な解決についての議論を促しています。

「政治・経済」の教科書では「2014年にはウクライナ紛争が勃発しロシア連邦がクリミア半島を編入すると、領土の平和的変更などの冷戦後の合意が揺らぐ事態となった」という記載もあります。

記載内容は、申請すれば追加や修正をすることが可能で、先月にロシアが軍事侵攻したことについて追記する教科書が出る可能性もあります。

「慰安婦問題」や「徴用」は政府の見解に基づく記述に

歴史や公民の教科書では、慰安婦問題や太平洋戦争中の徴用をめぐる用語に関する閣議決定を受けた意見が初めてつけられ、14件すべて政府の見解に基づく記述に修正されました。

政府は去年4月に慰安婦問題をめぐり、「従軍慰安婦」ではなく「慰安婦」という用語を、太平洋戦争中の「徴用」をめぐっては、「強制連行」や「連行」ではなく「徴用」を用いることなどが適切だとする答弁書を閣議決定しています。

教科書の記述は、2014年に検定基準が改定され歴史や公民などで政府の統一的な見解がある場合はそれに基づく記述をすることが定められていて、今回の検定では閣議決定を受け、「従軍慰安婦」や「強制連行」といった記述に合わせて14件の意見がつき、政府見解を踏まえて修正されました。

このうち「政治・経済」の教科書では、現在も政府の公式見解となっている「河野談話」を抜粋した資料の「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ちを申し上げる」という記述の中の、「いわゆる従軍慰安婦」という用語に対し、「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」と意見がつきました。

このため「2021年に『従軍慰安婦』ではなく『慰安婦』の用語を用いることが適切との閣議決定が行われた」と追記する形で修正されました。

また、「日本史探究」では「約80万の朝鮮人を工場や炭鉱などに連行してはたらかせた」という記述に意見がつき、「動員してはたらかせた」という表現に修正されました。

文部科学省は政府の統一的な見解を踏まえた記載を求めているが、異なる見解を一律に排除しているものではないとしています。

示された政府見解が短期間で教科書に反映される状況について、教育社会学者の早稲田大学の岡本智周教授は「教科書作成のプロセスはもう少し長い期間をとって伝える際の表現を吟味しており、こうしたプロセスが今後、繰り返されていくと歴史や教育が軽視されることにつながらないか懸念される」と指摘しています。

韓国外務省が抗議も日本の公使は「受け入れられず」と反論

韓国外務省は日本で高校の教科書検定が行われたことを受けて29日、報道官の声明を発表しました。

このなかでは、歴史や公民の教科書で慰安婦問題や太平洋戦争中の徴用をめぐる用語に関する閣議決定を受けた意見が初めてつけられたことに関して「記述が強制性を薄める方向に変更された」と主張して強い遺憾の意を表するとしています。そして、韓国外務省はソウルにある日本大使館の熊谷総括公使を呼んで声明の内容を伝えて抗議しました。

これに対して熊谷総括公使は「日本の一貫した立場に基づき抗議は受け入れられない」と反論したということです。

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