【全文掲載】「ドライブ・マイ・カー」濱口監督 受賞会見

アメリカ映画界、最高の栄誉とされるアカデミー賞の各賞が27日発表され、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞しました。2009年に滝田洋二郎監督の「おくりびと」が外国語映画賞を受賞して以来の快挙です。

受賞後の濱口監督の記者会見での喜びの声、各地の反応などをお伝えします。

【会見全文】

濱口監督が出演者とともに行った会見のうち、濱口監督の発言の全文です。

Q:アカデミー賞受賞おめでとうございます。まずは今の率直なお気持ちは?

「うれしいです。

本当にノミネートされるということだけでも、本当にすごいことだと思っていたので、こうして受賞ができるとは本当に思っていなかったので、本当にありがたいことだと思っています」
Q:オスカー像を手にしたときどんな気持ちだったか?

「重い、ということを思いました。

ポン・ジュノ監督が2年前にとったときすごく片手で軽々とあげられていたので、意外と軽いのかなと思っていたらすごく重かったので、びっくりしました」

Q:どういう方から、どういうコメントをいただいたのか?

「みんなでエレベーターを待っていたら、カンバーバッチさんとかスピルバーグ監督とかに会って、スピルバーグ監督は本当に『おめでとう』と、『その映画にふさわしいものだ』という風に言っていただきました。

スピルバーグさん自身も『この映画がとても好きだ』というふうに言っていただけて、まあ本当にすごい日だなということを思いました」

アメリカの観客も同じ人間だと受け止めてもらえた

Q:従来のアメリカの映画とは違うユニークなもの、なぜ受け入れられたのか?

「きょう、ゴッドファーザー50周年ということでコッポラさんとかですね、アル・パチーノさんとか、ロバート・デ・ニーロさん登壇されていましたけど、3時間の映画というのはそんなに珍しいものではないというところは、まずあると思います。

アメリカの観客はある種、厳しいところがあって、おもしろいかおもしろくないかで見ていくところがあるんだというふうには思っています。

アメリカの観客のある種、厳しい目線に耐えるような役者さんたちのすばらしい演技というものがこの映画では映っていて、本当にこの役者さんたちの感情というものを感じて、アメリカの観客も、肌の色もことばも違うけれども同じ人間なんだ、同じ弱さを抱えていたり、同じ傷を抱えていたりする、そういう人間なんだということをすごく受け止めてもらったんじゃないかなということを思います」
Q:授賞式のスピーチをいつ考えたか、どうしてああいうメッセージになったのか、授賞式のステージから見た光景は?

「まずステージから光景はほとんど何も…すごく視野が狭くなっていたと思いますね。

あんまり覚えていない。

ただしここにいらっしゃる役者さんの名前をあげて感謝したということは思っていたので、役者さんのいる位置を覚えておいて、その辺にいるはずだと思って見ているという感じでした。

スピーチに関しては受賞する可能性はある訳なので、少しだけ考えて通訳の方にこういうことで言いたいんですけどと言ったら、英語で訳していただいて、それを覚えてやったという感じです。

今回学んだのは、サンキューというと終わらせられるということですね。

(会場爆笑)

なので、もしそんな機会が次あったら、ちゃんと淡々とスタッフの方とか村上春樹さんとか、いろいろちゃんと感謝をしたかったんですけれども、もう一回やらせてとはなかなか言えなかったので、なかなか初心者には厳しい舞台でしたけれども、通訳の方のおかげでうまく終われたんじゃないかなと思っています」

ロケ地 奇跡みたいな風景と光線

Q:ロケ地の方々へのメッセージは?

「そうですね。

本当にロケ地として広島をまず使わせていただきました。

本当にドライブ・マイ・カーの大部分は広島で撮られていて、広島の風景の力というものに、ものすごく助けられてやっていると思います、映画自体が。

本当に奇跡みたいな風景と光線、土地の光線みたいなものをちゃんと記録できたんじゃないかと、その土地の魅力を記録してそれをそのまま映画の力にできたんじゃないかなというふうに思っています。

そして協力をいただいたロケ地の皆様にも、本当に皆様のおかげですということを申し上げたいと思います」

「マジか」

Q:改めて国際長編映画賞で映画の名前が呼ばれたときの気持ちは?

「そうですね。

でもやっぱりこういう時は傷つかないように、呼ばれない可能性っていうのをちゃんと考えておくものなんですけど、『呼ばれた』っていうことを思いましたね。

まさかそんなオスカーの授賞式で呼ばれることがあるのかと、端的に言うと『マジか』という気持ちで、立ち上がったという感じです。

はい」

Q:アカデミー賞受賞のほかのカンヌを含めていろいろ受賞されているが違いは?

「違い。

なんですかね。

やっぱりせきたてられている感じっていうんですかね。

ああいうスピーチの場というのはですね、最初に45秒から1分でいってくれということを言われているものなんです。

ただ、皆さん、必ずしも守らないので、別にいいんだなとは思うんですけど、でも早く言わなきゃいけないっていう、その焦りが一番、なんていうんですかね。

その興奮している、興奮してもいるんですけど、そう見えるところなんだろうなっていうことは思います。

なので、地に足がつかないような場所っていうことはそうなんですけど、ただそれは別にカンヌでもそうだったし。

どこに行ってもこういう場に行くと、本当に浮き足立った気持ちになるっていうのは、すごく正直なところです」

ここが通過点だといいなと

Q:独立独歩で歩いてきた先にオスカーがあったと思うが、そのオスカーが待っているからと思ったことがあったか?自身が歩いてこられた道を振り返って今どう思うか?

「そうですね。

オスカーが待っていると思ったことはないです。

一度もないです。

まあ思っているのは、ここが到達点だったらやだなっていうことでここが通過点だといいなということを思っています」
Q:今振り返って自分なりにできたことはこれで良かったか?

「もちろん思っていますが、それはオスカーをとったから思っているんじゃなくて、この映画を皆さんと作れたという時点で思っています」

休んでいたら映画が作りたくなる そのためにも休みたい

Q:次に何をしたいか?

「私はもう直近のことで恐縮なんですけど、まあ休みたいと思っています、休もうと思っています。

休んでいたら映画が作りたくなるんじゃないかなと思っているので、そのためにも休もうと思っています」

映画祭で同世代の人たちと約束

Q:受賞された瞬間以外で参加されて印象に残っている瞬間は?

「僕は、もちろんたくさん有名な方とお会いできたというのも興奮したことですけども、同じ国際長編賞のヨアキム・トリアーさんとかが受賞したそのすぐ直後にやってきて、『本当におめでとう』と。

で、あなたのフィルムは本当にすばらしいと思っていると言ってくれて、ほかの国際長編の方たちともお会いしたらそういうふうに言って下さったということは、すごく印象に残っています。

これから何度も映画祭だったりそういうところで会えるといいねと、必ず会いましょうと、同世代の人たちとそういうふうに約束ができたということは自分にとってすごく大きなことだったなと思います」

時間をかけることはとても大事

Q:日本の映画界にとってこの作品がこれからどんなものになるのか?

「それは今後の皆さんが決めていただければいいというのが、正直なところです。

ただ、プロデューサーの方たちの尽力のおかげもあって、準備に時間をかけて作ることができたということは、とても貴重なことだったと思っています。

いわゆる商業映画というものをつくって2本目ですけれども、今回やっぱりすごく皆さんが、その準備の大切さというものを理解して、作ってくださったっていうことは感じていて、その準備を時間をかけたことによって、こういう結果が得られているんだということは言いたいですし、もしそれを参考にしてやってみたいという方がいてくれたらそれはすごくありがたいことだなということを思います。

この時間かけるっていうことはやっぱりとても大事なことで、時間をかけるっていう意思さえあれば、せきたてられるように仕事をしなくても済むし、お互いをリスペクトするようなそういう環境も生まれやすいということを思うので、これは本当に映画界だけではないと思うんです。

時間をかけて本当にこのことに価値があるんじゃないかっていうことを、みんなでやるっていうことができたら、それはやっぱり今より少し幸せなことなんじゃないだろうかと私は思うので、一応そういう実例だと思っているんですけど、そういうふうに捉えていただけたらすごくありがたいなと思っています」

候補作品の監督ら討論会 ほかの監督から称賛される場面も

アメリカ映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞の発表を前に、候補作品の監督らによる討論会がロサンゼルスで行われた際は「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督がほかの監督らから称賛される場面もありました。
24日、ロサンゼルスで行われた討論会には、濱口監督など、国際長編映画賞の候補になった5つの作品の監督が参加しました。

この中で、濱口監督は「作っているときには作品のテーマのことはあまり考えませんでしたが、いろいろな国に作品が届き、観客からの反応によって、この映画が喪失の物語であり、また、人生をどう生き直すかという話であることに気付きました。映画は観客の精神とつながるものだと感じています」と、作品が国際的な評価を得てきた経緯を振り返りました。

また、監督たちがお互いを批評し合うコーナーでは、濱口監督は、イタリアの監督から「彼の存在はほかのすべての監督にとって悪夢のようなものだ。なぜなら彼は深い映画を作る偉大な監督だからだ」などと称賛されていました。

アメリカの映画評論家は

アメリカの映画評論家で、ピュリツアー賞の受賞歴もあるジョー・モーゲンスターンさんはNHKのインタビューで、「ドライブ・マイ・カー」がアメリカで高い評価を得ていることについて、「アメリカの観客は、カーチェイスや爆発などを伴う激しいアクションの映画に飽きている。その代わりに中身のある作品を求めていた。そのような中で、『ドライブ・マイ・カー』は、流れがゆっくりで、先の展開が読めず、観客に集中を求める映画だ。今だからこそ、観客が作品の世界に没頭できるような映画が幅広く受け入れられた」と話しています。

日本の映画評論家は

映画評論家の渡辺祥子さんは、今回の受賞について、「いままで日本映画が評価されてきたのは日本の特殊性があったからだと思うが、今回の受賞はそういうものではなく、世界の人々の普遍的な気持ちを描き、人間の想像力を刺激する濱口監督のスタイルが評価されたのではないか」と分析しています。

そのうえで、喪失と再生がテーマになっている今回の作品について、「いま、ウクライナの戦争と新型コロナウイルス、この2つが大きな問題としてたくさんの人がもやもやしていると思う。そういう時代に、穏やかに時間が過ぎて、気付いたら3時間がたっているような映画だったことが、プラスに評価されたのではないか。アカデミー賞は時代を反映すると思うが、結果として作品が時代に合っていたのでは」と話していました。

また、今回の受賞には、賞を選ぶ投票に関わるアカデミー会員の人種や性別などの多様化も影響しているとしていて、「いろんな人種の人や、女性が増えてきたことによって、映画の見方が違ってくるし、違った考え方を導入することによって、映画の価値もまた上がったり下がったりする。その結果、ドライブ・マイ・カーが、アカデミー会員に共感を呼ぶ割合が高くなったのではないか」と話していました。

そして、今回の受賞が日本の映画界に与える影響については、「1つの映画が賞を取るということは、他に作ってる人たちにも大きな刺激になるし、日本映画を海外に売り込む際にもプラスになる。また、濱口監督にとっても、賞を受賞することは成長につながることでもあると思うので、これを糧にまた頑張ってほしい」と話していました。

鑑賞したロサンゼルスの観客からは

「ドライブ・マイ・カー」が上映されているロサンゼルスの映画館を取材しました。鑑賞した観客からは、「とても美しい物語でした。人間関係や愛、そして人の死の複雑さについて、ほかの映画では感じることがなかった深さがありました」という声や「3時間がとてもはやく過ぎました。悲しみというものを独自の視点で見つめていて、とてもひかれました。ことし見た映画の中で最もすばらしい作品です」などという声が聞かれました。

ロケ地で喜びの声

ロケ地となった広島市のホテルでは関係者がくす玉を割って喜びました。

映画のロケ地の1つとなった広島市南区にあるホテルでは、主演の西島秀俊さんと岡田将生さんがバーで語り合うシーンなどが撮影されました。

28日はホテルのスタッフなどがアカデミー賞の様子を見守り、国際長編映画賞の受賞が発表されると大きな歓声を上げ、くす玉を割って喜びました。

撮影に協力した広島フィルム・コミッションの西※ザキ智子さんは「とてもうれしいです。監督に心からおめでとうございますと伝えたいです。作品賞などの受賞も期待したいです」と話していました。
※ザキは崎の「大」が「立」

また「グランドプリンスホテル広島」の従業員は「作品に携わることができて光栄に思います。この映画をきっかけに多くの人に広島に来てもらいたいです」と話していました。


呉市では観光客などから喜びの声が聞かれました。

呉市大崎下島の御手洗地区は江戸時代に港町として栄え、いまも残る古い町並みと瀬戸内海の美しい風景で知られています。

映画には、主人公の西島秀俊さんが滞在した旅館や瀬戸内海に架かる安芸灘大橋でのドライブなど呉市で撮影されたシーンが登場します。

地元の観光協会の石田雅恵事務局長は「受賞をきっかけにもっとたくさんの人に御手洗を訪れてもらい、美しい海や空、そして独特の雰囲気を味わってほしいです。これから観光客誘致にもつなげたいです」と話していました。

また、観光で京都から訪れたという学生は「受賞を聞いて驚きました。映画にも出てきた海沿いの景色がきれいで、来てよかったです」と話していました。
北海道赤平市では、札幌市出身の女優、三浦透子さんが演じるドライバーが故郷に帰るシーンのロケが行われました。

28日、市内の飲食店「珍来」には、ロケ地の選定に携わった関係者など10人余りが集まり、テレビでアカデミー賞の授賞式を見守りました。

午前10時半ごろに「国際長編映画賞」の受賞が発表されると、歓声をあげて拍手で喜びを分かち合いました。

撮影中は出演者に食事を提供したということで、店主の佐々木康宏さんは「感動で震えました。赤平市の風景を世界中の人が見てくれていると思うと最高の気持ちです」と喜びを語りました。

また、ロケ地を選んだ赤平市商工労政観光課の成田博之主幹は「すばらしい賞を受賞し、おめでとうと伝えたい。これを機にたくさんの方に赤平を訪れてほしい」と話していました。