WEB特集

楽しそうだけど…ちょっと心配 ママが調べたオンラインゲーム

筆者
「最近の子どもたちは、コロナで直接集まれないけれど、ゲームの中で集まって遊んでいるそうですよ」
上司
「そういえば、私の子どもも転校をきっかけに、前の学校の友達と始めたよ。会話しながら遊んでいるよ」
筆者
「遠くに離れていても一緒に遊べるのはいいですね」
私には4歳の息子がいます。
あっという間に遊び方を覚えて毎日ゲームを楽しんでいます。
ゲーム機やスマートフォンを使ってオンラインでつながるのが当たり前になった今、メリットを感じる一方で子どもを持つ親としては漠然とした不安や心配があります。
調べてみると、“大金をつぎ込んだ”や“依存症に陥った”などのリスクも明らかに。
ただ、よく調べていくと、それは「ゲーム」のせいだけではないみたいです。
(映像センター ディレクター 清水希理)

親の金を盗み、課金額は4か月で400万円に…

オンラインゲームは、ゲーム機やスマートフォンを使ってインターネット上で他の利用者と交流しながら遊ぶゲームです。
多くの場合、無料で始めることができて、ゲームを有利に進めるアイテムなどは有料で購入できるようになっています。
こうしたゲームを上手に楽しんで遊んでいる人もいれば、そうでない人もいるようです。
さまざまな事情からのめりこんでしまった人の話を聞いてみました。

スマートフォンのゲームにのめりこみ、依存症になってしまったというダイキさん(20代)です。
専門学校で同級生と仲よくなるために当時流行していたスマートフォンのゲームを始め、次第にそのゲームの中のキャラクターをそろえることに楽しさを感じていくようになりました。
ダイキさん(20代)
ダイキさん
「難しいステージをクリアしないと手に入らないキャラクターを持っていると『すごい』と言われるし、もともとコレクションをすることが好きだったので、キャラクターをそろえていくのが楽しかったのです」
ダイキさんは効率的にキャラクターを集めるために課金を繰り返すようになり、その額は毎回数万円に上りました。
就職したあともゲームは続け、借金を課金に費やすほどのめりこんでいきました。
見かねた両親が収入を管理し、毎日お小遣いをもらって生活することになりましたが、ゲームをやめることはありませんでした。

さらに、新型コロナウイルスの流行で勤務先の業績が悪化して失職。
収入が無くなってもゲームへの課金は止まらず、ついには父親のクレジットカードを盗み、4か月で400万円も使ってしまったのです。
ダイキさん
「キャラクターが出るまでに何回やったとか、いくらかかったとか、その過程はどうでもよくて『ガチャ』の中身が分かるその瞬間だけを求めていました」

課金は本来、楽しく遊ぶための“選択肢”

ダイキさんがゲームにのめりこんだ理由の1つに「ガチャ」と呼ばれる仕組みがあります。
「ガチャ」の仕組み(イメージ)
「ガチャ」はスーパーやおもちゃ売り場などに置いてある「ガチャガチャ」のようなもので、キャラクターやアイテムをランダムに手に入れることができる仕組みです。

1個数十円~数百円で購入できる「石」とよばれるアイテムなどを使って電子くじを引きます。
何が手に入るかはやってみないと分かりません。

こうした課金のシステムのねらいはどういったものなのか。
アーケードゲームからオンラインゲームまで、それぞれがさまざまなゲームの開発・運営に携わってきた「ゲーミングの未来を考える会」の芳山隆一さんと吉田辰巳さんに話を聞きました。
左:芳山隆一さん 右:吉田辰巳さん
吉田辰巳さん
「課金は1つの選択肢です。例えば、強力なモンスターを倒すために時間をかけて努力を積み重ねて倒すのか、他のプレーヤーと協力して倒すのか、お金を払ってサクッと倒すのかを選ぶことができます」
多くのゲームは、課金をしなくても楽しめるようになっています。
課金の選択肢は“自由に使えるお金はあるけど時間がない”という大人を想定して提供されているそうです。
芳山隆一さん
「一方で、子どもが遊ぶ場合は選択肢が“時間”になることが多いです。課金で解決できないぶん、学校でもこっそりスマートフォンを操作したい、みたいなことも起きうるかなと思いますね」

終わりがないからいつまでも遊べる

ダイキさんが遊んでいたオンラインゲームは2つ。
どちらも数年間課金を続けていました。
次々に新しいキャラクターが追加されるため、終わりがなかったのです。

二人によると、作り手は長い期間遊んでもらえるゲームにするために市場調査を行い、その時にユーザーが求めているものを取り入れ、更新を重ねていきます。
こうした制作側の努力が“長時間”遊びたくなる環境をゲームの中に作り上げているといいます。
吉田辰巳さん
「最近は、その時の気持ちに合わせて『コミュニケーション度』を変えたいというニーズがあります。例えば、オンラインゲームの中で、誰かと一緒に遊びたいときはみんなで集まって遊ぶ。ちょっと疲れてきたなと思ったら、1人で山奥に引きこもって延々釣りをしたり、作物を育てたり」
左:みんなで集まって遊ぶ 右:ひとりで遊ぶ(イメージ)
吉田辰巳さん
「ゲームの中は孤独で疲れることもないし、コミュニケーション疲れもない。長時間ずっと居続けることができる環境が提供されていると思います」

「ゲーム依存」は誰もがなりうる“病気”

進め方も、過ごし方も、自由に選択することができるゲームの世界。
魅力的な一方で、ダイキさんのようにゲームの使用をコントロールできない依存症になってしまうケースがあります。
(1)「ゲームの使用」がコントロールできない
(2)「ゲームの使用」を優先し、社会生活に支障をきたす
(3)その状態が12か月以上続く
この3つに当てはまると「ゲーム依存(ゲーム障害)」という病気だと診断されます。
これは、本人の意思と関係なくゲームがやめられなくなり、誰もがなりうる病気だとされています。
治療が必要になり、現在さまざまな研究が進められています。

例えば子どもの場合、ゲームをやっていて遅刻をしたり、不登校になったりすることがあります。
見かねた親にゲームを取り上げられて、何としても手に入れようと盗みをしてしまう。
そうしているうちに親子関係が悪くなって、手が出ることもあります。
こうした状態が年単位で続くと、脳の中の気持ちよさを感じる回路が変化し、容易には回復できない状態になってしまうこともあるといいます。

依存症を疑った場合は、精神保健福祉センターや保健所、児童相談所、専門の医療機関で相談ができるので、自分たちだけで解決しようとせず、周りの支援を求めることを考えてください。

「ゲーム」の問題ではなく 自分たち「家族」の問題

ダイキさんはいま、依存症の回復施設に入所しています。
入所して1年半、同じような問題を抱える人たちの話を聞いたり、自分のことを話したり、どんな時にゲームをしてしまうのかを深掘りしながら、徐々に回復に向かっています。
ダイキさん
なぜゲームに依存してしまったと思うか尋ねると、ダイキさんは淡々と教えてくれました。
ダイキさん
「親に本当のことを言えなかったのです。自分の思っていることも意見もずっと言えなくて隠していました。それが苦しかった」
“高校を卒業してすぐに就職がしたかったけれど、親に受け入れてもらえなかった”
“専門学校も仕事も親の期待に応えられそうなところを選んだけれど、やりたいことではなかった“
”親の言うとおりじゃないと、失望されるのではないかと思っていた”
ダイキさん
「転職は、初めて自分で決めたことでした。でも、コロナでうまくいかなくなって...自業自得だ、親にも失望されると思いました。それで、もうゲームが止まらなくなってしまいました」
ダイキさんが回復するきっかけをつくったのは母親でした。
借金をしたダイキさんを助けようと調べているうちに、依存症という病気を知り、専門機関に相談したのです。
母親
「育て方を間違えてしまったのかなと思って、自分を責めました。息子のことは私がなんとかしないといけない、息子さえ変われば解決すると思っていました」
ダイキさんの両親はその後、依存症の当事者を家族に持つ人たちの自助グループ「家族会」に通っています。
家族会では他の家族の話を聞くミーティングという時間があり、それぞれの家族が抱えている問題や、悩み、苦しさ、葛藤などを順番に打ち明けていきます。
誰かが話している間は、聞いているだけで肯定も否定も意見もしない。
言いっぱなし、聞きっぱなしのミーティングです。
母親は何度も通って他の家族の話を聞いているうちに、これはダイキさんの「ゲーム」の問題ではなく「自分たち家族」の問題であることに気付いたといいます。
母親
「私は息子をコントロールしてしまっていたかもしれないと気付きました。息子、夫、親の介護…人の世話ばかりして、ずっと苦しい思いをしていました。完璧を求めてしまっていたのですね。息子だけではなく、私も変わらないといけませんでした」

“おもしろくない”からのめりこむ

私の4歳の息子は「ゲームやりたいから貸して!」と、私のスマートフォンを自分で操作し、お気に入りのゲームを楽しんでいます。
この先、間違った使い方をしないために親としてできることはあるのでしょうか。

依存症の専門家でゲーム依存の診療にあたっている神戸大学大学院の曽良一郎教授に聞きました。
神戸大学大学院 曽良一郎教授
神戸大学大学院 曽良一郎教授
「端的に言うと、おもしろくないからゲームに依存するのです。生活が満たされない、不満がある、楽しくない、苦しい。それをゲームで満たす。でも苦しいことはすぐには解決せずに続く。だから息抜きにゲームなりを使う。それを繰り返すうちに、もっと強烈な楽しみなことがないと癒やせなくなる。それが長い間続くと、依存症になります。後戻りができにくくなる」
筆者
「つまり、依存症はゲームのせいではないってことなのですか?」
曽良教授
「その人にとって、苦しいことから逃れる手段が「ゲーム」だったというだけです。大人であれば、それがアルコールだったり薬物だったりギャンブルだったりします」
では、依存症にならないためにはどうしたらいいのか。
曽良教授に教えてもらった周りの人ができる対策を、2つのポイントにまとめました。
曽良教授
「たまたまのめりこんだ対象が『ゲーム』であって、ゲームが悪いわけではありません。大事なのは『なぜ』その人がゲームをしているのか知って寄り添うことです。そして、心配な様子や兆候が見られたら『なぜ』そうなったのかに目を向けてあげてください」
曽良教授によると、ゲームをする人の大半は依存症にならず上手に楽しく遊ぶことができるといいます。
心配な状態になるのは、全体の1~2割ほどだと言います。
特に子どもの場合は、自分で使用をコントロールできるよう親や周りが指南することが必要です。
そして一律に時間やルールを決めるのではなく、年齢や生活スタイルに合わせたルール作りをすることが大事だと指摘しています。

一方で、もしゲーム依存を疑うような状態だと思った場合、周りはどうしたらいいのでしょうか。
神戸大学大学院 曽良一郎教授
「その場合は専門家に診てもらい、依存と分かれば診療を任せるしかありません。本人を連れてくるのが無理なら、家族だけでも相談に来てほしい。一般的に依存症の治療は依存対象を『断つ』ことが治療の目標になります。大人の場合はそれでもいいかもしれません。ただ、ゲームが生活の一部になっている若い世代の方にとって『断つ』ことは現実的ではありません。ですから、いい面も悪い面も理解して、上手に付き合えるようにするというのが治療の目指すところです」

いちばんの対策は、正しく知ること

「ゲーム依存」はまだまだ知られていない病気です。
取材をしてみると、患者さんが回復につながったきっかけのほとんどは家族の相談でした。
ゲーム依存は回復できる病気です。
だからこそ、周りが病気を正しく知ることがいちばんの対策になると思いました。
親にできるのは子どもに目を向けて、子どもがゲームをどんなふうに楽しんでいるのか知ること。
子どもにとってゲームが楽しいものであるために、私もきょうからやってみたいと思います。
映像センター ディレクター
清水希理
2013年入局
静岡局を経て映像センター、4月からは札幌局勤務
好きなゲームはパズルゲーム

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