ロシア軍 マリウポリの一部掌握 市内全域支配へ部隊展開か

ウクライナに侵攻を続けるロシア軍は、東部の要衝マリウポリの一部を掌握し、市内全域の支配に向け部隊を展開しようとしているとみられます。

一方、ロシア国防省は今回の作戦で兵士1300人以上が死亡したと発表しましたが、欧米側はこれを大幅に上回る人的被害を指摘していて、ロシア側の苦戦も浮き彫りになっています。

ロシア軍は、ウクライナ東部の要衝マリウポリで戦闘を続けていて、ウクライナの地元メディアは、マリウポリの市長がすでに市外に退避したと伝えたほか、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシア軍は24日、マリウポリ中心部のキリスト教の教会を占拠し、市の全域の掌握に向けて部隊を展開している」との分析を示しています。

マリウポリは、ロシアが一方的に併合した南部クリミアと、親ロシア派の武装勢力が事実上支配する東部地域を結ぶ拠点としてロシアが重視していて、市内全域の掌握を目指しているとみられます。

一方、首都キエフ周辺の戦況についてアメリカやイギリスの国防当局は、ロシア軍の一部の部隊が後退していると指摘し、ウクライナ側の激しい抵抗でこう着している模様です。

こうした中、軍事侵攻から1か月が過ぎた25日、ロシア国防省は戦況分析を発表し「軍事作戦の第1段階の主要目的は達成された」と強調しました。

そのうえで「ウクライナ軍の戦闘能力が大幅に低下したため、われわれは東部ドンバス地域の解放という主要な目標の達成に力を注ぐことができる」と主張し、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ地域を中心に軍事作戦が強化されるとの認識を示しました。

一方、国防省は、これまでのロシア軍の兵士の死者数が1351人、負傷者数が3825人だと発表しました。

また、ウクライナ軍の兵士の死者は1万4000人以上になるとみられるとしています。

ロシア軍の被害について国防省は、今月2日には兵士498人が死亡し、1597人が負傷したと発表していて、大幅に増えています。

ただイギリス国防省は「ロシア軍には、ほぼ確実に数千人の犠牲者が出ている」と分析しているほか、NATO=北大西洋条約機構も7000人から最大で1万5000人のロシア軍兵士が死亡したと推定していると伝えられていて、ロシア側の発表を大きく上回る被害が出ている可能性があり、ロシア側の苦戦も浮き彫りになっています。

専門家「ロシア軍 キエフ制圧困難で南東部支配に目標変更か」

ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治 政策研究部長は、ウクライナに侵攻を続けるロシア軍について「全体的にウクライナ軍が反転攻勢をかけていて、必ずしもロシア軍が優勢とは言い切れなくなっている。首都キエフ周辺ではロシア軍が防御態勢に追い込まれ、一部の部隊の後退を余儀なくされている」と述べ、ロシア軍が当初の見通しよりも苦戦していると見ています。

その背景について「そもそも、2週間程度の短期決戦を見込んでいたため、ロシア軍の補給が追いついておらず、ロシア軍部隊の士気が大幅に下がっている」と指摘しています。

さらに、ウクライナ側が欧米から最新式の武器の供与を受けているとしたうえで「ロシア側は旧式の無線や通常の携帯電話など秘匿性が低い通信手段を使っているとみられる」と述べ、ロシア軍の通信を傍受したり、米軍から情報を得たりして、ウクライナ軍が効果的な攻撃をすることができていると分析しています。

そのうえで「ロシア側の当初の目的であったキエフの制圧が難しくなり、南東部の軍事的掌握に作戦目標を変更する可能性がある」と述べ、ロシアが当初の目標を変更し、2014年に一方的に併合した南部のクリミアと独立承認した東部地域をつなぐマリウポリなどの地域の支配を、新たな目標にするのではないか、という見通しを示しました。

また、ロシア軍による生物・化学兵器の使用の可能性について「使用した場合はNATOが厳しい措置をとるとみられ、ロシアとしては使用に踏み切るには一定のハードルがある。ロシアは、ウクライナ側を戦意喪失させ、有利な停戦条件を引き出すために意図的に使用を示唆しているようにみえる」と話しています。

米メディア “ロシア軍の機密情報 ウクライナ軍が傍受か”

ロシア軍が苦戦している要因の1つとして、アメリカメディアは、通信手段を十分確保できず作戦を遂行するうえでの機密情報もウクライナ軍に傍受されている可能性を指摘しています。

アメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」は22日「ロシア軍の無線はウクライナに傍受されている」というタイトルの記事を掲載しました。

記事では、アメリカの当局者や専門家の話として、ロシア軍は、ゼレンスキー政権を短期間で崩壊させることを想定していたため、長期間の侵攻の準備ができておらず、広大なウクライナの領域をカバーできるほどの通信環境を整えていなかったと伝えています。

さらに、ロシア軍がハリコフ周辺などで通信塔を破壊したため、みずからの通信手段も失うケースがあったということです。

こうしたことからロシア軍は、作戦を遂行するうえでの機密情報も専用の無線システムではなく、一般のシステムを使わざるをえなくなり、ウクライナ軍は、通信を妨害したり傍受したりしているということです。

さらにウクライナ側は、ロシア軍の兵士が戦闘の状況について母親に電話で伝えているとする内容などをSNSで次々に発信していて、戦地では情報戦も有利に進めていると強調するねらいがあるとみられます。