【現地は今】ウクライナ 最大の激戦地マリウポリと戦火の市民

人々が行き交う通りのすぐそばに並ぶ、真新しい墓。
土は、盛られたばかりのものもあります。

「私の義父です。乗っていた車が爆発しました。いつか埋葬し直すつもりです」

女性は自分たちで立てた墓標の隣で、声を詰まらせました。

ロシア軍の侵攻が始まって1か月。市民に多数の犠牲者が出ているとみられる「最大の激戦地」マリウポリで起きていること、そして戦火で生きる市民たちの“今”です。

(目次)
・マリウポリ 最新の状況
・被害の規模 市民に犠牲も
・ロシア軍はなぜマリウポリをねらうのか
・これまでに起きたこと
・戦火で生きる 市民たちの声

マリウポリ 最新の状況

今月23日に撮影されたマリウポリの様子です。集合住宅のような建物が被害を受けて、黒く焦げています。
ロシア軍は事実上の降伏を迫ったうえで、街の包囲網を狭めています。アメリカ国防総省によりますと、遠い距離から激しい砲撃を行っているほか、地上部隊の一部が市内に入り、ウクライナ軍と戦闘を続けているということです。

ロシア国防省は今月20日夜、マリウポリを守るウクライナ軍に武装解除をして街を明け渡すよう通告。ウクライナのゼレンスキー大統領は「『この最後通告に従えば戦争が終わる』と言われても、それは正しくない。ウクライナからウクライナ人がいなくなってしまう」と述べ、受け入れられないという考えを強調しました。

市内に多数の市民が取り残されているとみられ、今後ロシア軍の攻勢がさらに強まり、犠牲者が増え続けることが懸念されています。

被害の規模、市民に犠牲も

●ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)
・市民3000人以上が死亡の可能性
・人口の約半数、少なくとも20万人が市内に取り残されている
・水、食料、医療、暖房、通信などがほとんどない状況
・食料の買い出しや、給水で川に向かった市民がロシア軍の攻撃に巻き込まれ死亡との証言も
(マリウポリ市の幹部や避難者への聞き取りによる)

●国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)
・「多くの市民が犠牲になったという情報がある」
・確認がとれないとして、具体的な犠牲者数の公表には至らず
(3月23日付けプレスリリース)

一進一退の攻防が続く中、戦闘がさらに長期化し、いっそうの人道状況悪化への懸念も強まっています。

ロシア軍はなぜマリウポリを狙うのか

ロシアにとっては、2014年に一方的に併合したクリミア半島とロシア本土とを結ぶ位置にあり、重要な場所だからです。
一方、ウクライナにとってもマリウポリは、黒海の北に位置するアゾフ海にアクセスするための要衝で、石炭や鉄鋼などの輸出の拠点になっています。

これまでに起きたこと

●3月9日
ロシア軍が市内の産科などが入る病院を攻撃、女の子含む3人死亡(ウクライナ側発表)
→ロシア側は「病院の建物はウクライナの過激派に占拠され患者はいなかった」と主張

●3月16日
市民数百人が避難していた劇場にロシア軍が攻撃(ウクライナ外相)
被害の規模はいまも明らかになっていない
→ゼレンスキー大統領「これまでに130人以上が救助されたと聞くが、いまだに数百人ががれきの下にいる」
→ロシア国営タス通信「爆破はウクライナ側によるもの」と報道

●3月19日
市民およそ400人が避難する芸術学校にロシア軍が爆撃
被害の規模は「調査中」(マリウポリ市議会)
→ゼレンスキー大統領「多くの人ががれきの下にいて、どれだけの人が生存しているか分からない」

●3月24日
左岸地区の住民がロシアへ強制的に移送され、パスポートや身分証などを没収されたとの情報(ウクライナ外務省)
約1万5000人の市民がバスに乗せられロシア側に連れ出されている(マリウポリ市議会)

街を包囲したロシア軍と、守るウクライナ軍との間で続く市街戦。8割以上の住宅が攻撃されるなど、2週間以上にわたって激しい攻撃にさらされています。

戦火で生きる 市民たちの声

マリウポリの市民や、ゆかりのある人たちの声です。

●破壊された劇場に2月上旬まで勤務
 現在はウクライナ西部に避難する演出家エバさん

「(劇場が破壊されたことは)ショックで、信じられません。いまだに同僚たちの安否がわかりません。劇場では子ども向けの劇なども上演されていました。演劇好きの多くの市民が訪れ、待ち合わせ場所でもある街のシンボルでした」(今月21日取材)
●地下で避難を続ける女性
「アパートも破壊されました。何もかもが破壊されました。食料とまきは1週間もすればすべてなくなってしまうでしょう。どうすればいいのでしょう?人間らしく生きたいです」(今月20日撮影)
●南東部・サポリージャに避難した44歳男性
「完全に破壊され、市街地は本当にひどいありさまです。3日連続で空爆があり、爆発が起きる中で多くの住民が地下室にこもりました。街の外に避難できた人もいましたが、多くの車が爆撃を受け、そうした人たちは逃げられませんでした。多くの人が路上で亡くなり、遺体が横たわっていました」(今月19日撮影)