長崎 諫早湾の排水門裁判 国側勝訴 開門命じた判決 事実上無効

25年前、長崎県諫早湾の干拓事業で閉めきられた堤防の排水門を開けるよう国に命じた確定判決について、福岡高等裁判所は、開けない立場の国が起こした裁判で、事実上、無効とする新たな判決を言い渡しました。
この排水門については「開門命令」と「開門禁止」という相反する確定判決がありましたが、現時点では「開けない」という形で、司法判断が統一されました。

諫早湾の干拓事業では、平成9年に国が堤防を閉めきったあと、漁業に深刻な被害が出たとして、漁業者が起こした裁判で開門を命じる判決が平成22年に確定しました。

その一方、農業者が起こした別の裁判では、開門を禁止する判決が確定しました。

司法の判断がねじれた状態が続く中、排水門を開けない立場の国は、新たに裁判を起こし、開門を命じた確定判決の効力をなくすよう求めていました。

この裁判で、2審の福岡高等裁判所の岩木宰裁判長は25日「開門を命じた裁判当時と比べ、周辺での漁獲量は増加傾向で漁業への影響が減る一方、排水門を開けた場合の防災や干拓地の農業への支障は増大している。門を閉めきったことによる公共性は増大している」と指摘しました。

そのうえで「確定判決に基づいて強制的に開門するのは許されない」として、国の主張を認め、開門を命じた確定判決を事実上、無効とする新たな判決を言い渡しました。

今回、国側の主張を裁判所が認めたことで、現時点では「排水門を開けない」という形で、司法判断が統一されました。

諫早湾干拓地の営農者「ほっとしている」

今回の判決を受けて諫早湾の干拓地で農業を営む松山哲治さんは「開門しないという判断にほっとしている。開門をしてしまうと、土地に塩分が入ってきて、農作物ができなくなる。これまで相当の金額をかけてきたのに、今更それを無かったものにしろと言うならば、我々農家に『潰れろ』と言うのと同じだと思います」と話していました。

そのうえで、松山さんは「漁業者の方はさまざまな問題があって裁判をせざるを得なくなっている。国は積極的に漁業者と話をしていい着地点を見つけて欲しい」と話していました。

原告の漁業者「失望以外何ものでもない」

原告の漁業者の1人、平方宣清さんは判決後の集会で「裁判所、国にどう伝えたら私たちの言葉が通じるのかと今、考えています。国が『漁獲量が増えている』と言ったら裁判所が認める。海に来てみろ、潜ってみないかと言いたい。海の底は真っ黒で生物なんか住めるわけがない。そんな海にしておいて責任をとろうとしない国、その言い分をそのまま受け入れる司法に対して、この国はどのようになるんだろうと不安でたまらない。国のでたらめな言い分をそのまま受け入れる。これでは司法はもういらない。開門したら海が再生すると肌に感じて思っている。それを聞いてもらえない国と司法に対しては失望以外何ものでもない」と話しました。

また、同じく漁業者の大鋸武浩さんは「のり漁師からは来年、悪かったらやめるという声も聞く。自分も来年、悪かったら廃業を考えなければいけない。20年経っても原因がわからない。やってない調査は開門調査しかないのにそれをしないのはおかしい。漁獲量が上がったという話を漁業者にすれば笑われる。それくらい馬鹿げた判決だと思う」と話しました。

漁業者側の弁護団長「驚くべき判決」

判決後、漁業者側の弁護団長の馬奈木昭雄弁護士は、福岡高等裁判所の前で取材に応じ「驚くべき判決としかいいようがない。裁判所は確定判決を実行せずに抵抗し続ける国の態度を『それでよろしい』と言った。こんな判決、こんな国の態度を許していていいのか。国が権力を押し通し、これを裁判所が追認するというのは、まともな法治国家ではない。権力の横暴に屈しないであきらめずに闘います」などと述べ、不当な判決だとして上告する意向を示しました。

松野官房長官「国の主張が受け入れられたものと理解」

松野官房長官は午後の記者会見で「判決は国の主張が受け入れられたものと理解しており、引き続き、諫早湾干拓事業をめぐる一連の訴訟について、関係省庁で適切に対応していく」と述べました。

金子農林水産相「開門によらない基金による和解が最良の方策」

判決について、金子農林水産大臣は「国の請求を認める内容の判決が出された。引き続き、諫早湾干拓事業をめぐる一連の訴訟について、関係省庁と連携しつつ、適切に対応していく」とした上で、「国としては、『開門によらない基金による和解を目指すことが問題解決の最良の方策』という考えに変わりはない」とコメントしています。