SMBC日興証券の副社長逮捕 相場操縦の疑い 東京地検特捜部
大手証券会社、SMBC日興証券の幹部らによる相場操縦事件で、東京地検特捜部は、副社長が特定の銘柄について、株価を維持するための不正な株取引に関わっていた疑いがあるとして、金融商品取引法違反の相場操縦の疑いで逮捕しました。
また、幹部5人と、法人としてのSMBC日興証券を相場操縦の罪で起訴しました。大手証券会社が、株の売買をめぐる不正で起訴されるのは極めて異例です。
逮捕されたのは、SMBC日興証券の副社長、佐藤俊弘容疑者(59)です。
東京地検特捜部によりますと、佐藤副社長は去年4月、特定の銘柄の下落を防ぐため、大量に株を買い付けるなど不正な取り引きをしたとして、金融商品取引法違反の相場操縦の疑いが持たれています。
特捜部は今月4日、佐藤副社長が統括するエクイティ本部の前本部長トレボー・ヒル被告(51)ら、幹部4人を相場操縦の疑いで逮捕し、佐藤副社長からも任意で事情を聴くなど捜査を進めた結果、副社長本人が不正な取引きに関わっていた疑いがあることが分かったということです。
一連の事件は、現職の副社長の逮捕に発展しました。
特捜部は、大手証券会社の社内で、上層部も関与する形で不正が行われていたとみて、さらに実態解明を進める方針です。
関係者によりますと、佐藤副社長は特捜部の逮捕前の調べに対して「取り引きの報告は受けていたが、違法という認識はなかった」などと説明していたということです。
佐藤副社長は3年前、同じ三井住友フィナンシャルグループの三井住友銀行の常務執行役員からSMBC日興証券に移り、去年3月から副社長を務めていました。
また、特捜部は、法人としてのSMBC日興証券のほか、ヒル前本部長や、エクイティ部の前部長山田誠被告(44)ら、幹部5人を金融商品取引法違反の相場操縦の罪で起訴しました。
大手証券会社が、株の売買をめぐる不正で起訴されるのは極めて異例です。
佐藤副社長 前部長と共謀し大量の株 買い付けたか
関係者によりますと、佐藤副社長は不正とされた取り引きのあと、起訴された幹部の1人で自己資金で株を売買する部署のトップだった山田前部長から「SMBC日興証券のために買い支えを行った」などとメールで報告を受けていた疑いがあるということです。
また、一部の取り引きは、社内の株取引を監視するシステムに不審な取り引きとして検知され、山田前部長はコンプライアンスを担当する部署から指摘を受けていたほか、佐藤副社長も把握していた疑いがあるということです。
特捜部は、逮捕容疑となった去年4月の取り引きについて、佐藤副社長が山田前部長と共謀して特定の銘柄の下落を防ぐため大量の株を買い付けたとみて、詳しい経緯を調べるものとみられます。
佐藤副社長は、逮捕前の特捜部の任意の事情聴取に対し「取り引きの報告は受けていたが、違法という認識はなかった」などと説明していたということです。
「ブロックオファー」めぐる不正とは
「ブロックオファー」は、証券会社が、大株主から特定の銘柄の株を大量に買い取ったうえで、取引所の時間外で、市場価格より低い価格で個人投資家に売却する取り引きで、日常的に行われています。
大株主にとっては、大量の株を値崩れさせることなく、一気に売却できるメリットがあるほか、買い取る個人投資家の側も、株を安く購入することができます。
また、証券会社も大量の株を転売することで、利益を得ることができます。
一方、証券会社の買い取り価格は、大株主が売却を依頼したあと、基準となる日の終値をもとに決められるため、株価が大きく値下がりすれば、大株主が売却自体を見送るおそれがあります。
さらに「ブロックオファー」で取り引きされる銘柄は、証券会社の営業担当が個人投資家に購入を打診したあと「空売り」の対象になるケースもあるということです。
「空売り」では、株価が下落すれば利益を得られます。
関係者によりますと、起訴された事件の取り引きでは、投資家から「空売り」の注文が相次ぎ、さらに株価が値下がりするおそれがあったため、幹部らが、これに対抗して株価を維持しようと、証券会社の自己資金で大量の株を買い付けていた疑いがあるということです。
また、証券会社は顧客の株取引の動向に関する情報をもとに、自己資金で株を売買することは法令で禁止されていますが、今回の事件では、大株主がブロックオファーで売却を希望する株価の目安が、大株主を担当する部署から株を売買する別の部署に伝えられていた疑いもあるということです。
SMBC日興証券の近藤雄一郎社長は、今月5日の記者会見で「ブロックオファーの価格が決まる時間帯に自社で買い付けを行う行為は、市場の公平性と公正性に疑問を生じさせる行為であることは明らかであり、自社の行動規範に反する行為として、控えるべきだった」などと説明し、再発防止に努める考えを示しています。
専門家「日本の証券市場の信用が失われかねない行為」
また「ブロックオファー」に関連した株の売買で不正があったとされていることについて、今川教授は「『ブロックオファー』に相場操縦につながる要素があるのであれば、業界団体や金融庁は『ブロックオファー』が行われている間は、証券会社の自己資金による対象の銘柄の取り引きを禁止するなど、一定のルールを設ける必要がある」と指摘しています。