ロシア ウクライナへの軍事侵攻から1か月 2人の大統領の発言は

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから24日で1か月となりました。アメリカとイギリスの国防当局は首都キエフの近郊で、ウクライナ側が反撃に転じ、ロシア軍が後退する動きが見られるとする分析を相次いで示しました。
一方、東部マリウポリなどではロシア軍が激しい攻撃を続けていて、戦闘がさらに長期化する懸念が強まっています。

この1か月、ウクライナとロシアの2人の大統領が、何を語ってきたのかを見ていきます。

戦況 ロシア圧倒的優勢と思われたがウクライナ反撃か

侵攻当初は軍事大国ロシアの圧倒的優勢かとも思われたが、現実はまったく違いました。

ウクライナは対戦車砲などの武器を最大限に活用し、多大な犠牲を払いながらも、抵抗を続け、降伏する兆しはありません。

首都キエフ近郊では、ウクライナ軍がロシア軍を押し返し、最近は反撃に転じているという分析もあります。

プーチン大統領 発言に一貫性欠く

ウクライナへの軍事侵攻を巡るロシアのプーチン大統領の発言は、この1か月、侵攻の名目を変えるなど、一貫性を欠いてきました。

侵攻前の2月21日、プーチン大統領は「ウクライナ政府は、東部の問題を軍事的に解決しようとしている」と主張し、東部2州の親ロシア派が事実上支配している地域を独立国家として一方的に承認するとともに「平和維持」の名目でロシア軍の部隊を送り込む構えを見せました。

軍事侵攻に踏み切った24日もプーチン大統領は、国民向けのテレビ演説で「ウクライナ政府によって8年間虐げられてきた人々を保護するためだ」と述べ、ロシアとゆかりが深い東部の住民を保護するための軍事作戦だと主張しました。

ただ、「ウクライナ領土の占領は計画にない。武力で押さえつけるつもりはない」と強調しました。

ところが翌25日に開かれた安全保障会議でプーチン大統領は、「民族主義者やネオナチは、キエフやハリコフなどの主要都市で複数の重火器を配備しているのが確認された。 民間人の犠牲の責任をロシアになすりつけようとしている」と述べ、東部の親ロシア派の支配地域を越えた都市部への攻撃を正当化しました。

そして、ウクライナ軍に対してゼレンスキー政権を見限り権力を奪取することまで促しました。今月5日、ロシアの大手航空会社の客室乗務員たちとの会合でプーチン大統領は、「厳しい決断だった」と述べ理解を求めました。

その上で「欧米が民族主義者や過激派を無条件に支援している以上、武器弾薬や装備が際限なく供給されることになる」と主張した上で「わが軍は別の道をとることにした。軍事インフラをすべて破壊する」と述べウクライナ各地の軍事施設などを攻撃する理由を説明しました。

そして今月16日、プーチン大統領は、「ウクライナが外国の技術援助を受けて大量破壊兵器を手に入れればロシアが標的となるのは明らかだ」としてウクライナ政府が核兵器を開発しようとしているなどと、一方的に主張します。

さらに「ウクライナで生物兵器がつくられたと信じる理由が十分にある」と強調し、アメリカなどは、ロシア軍が虚偽の主張をもとに生物兵器や化学兵器を使用する恐れがあるとして警戒を強めています。

この1か月間のプーチン大統領の発言の変遷を見ると、軍事侵攻の計画が想定通り進んでいないとされることへの焦りのほか、ロシア国内で反戦の声が上がる中、国民への理解を求めたい思惑などもうかがえます。

ゼレンスキー大統領 各国でオンライン演説 共感得る狙いか

ウクライナのゼレンスキー大統領は、これまでイギリスやアメリカなど各国の議会でオンラインで演説を行い、ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定や防空システムの供与などさらなる軍事的支援を訴えてきました。

その際、各国の歴史に言及したり、著名人の言葉を引用したりするなどしていて、ウクライナが置かれた厳しい状況への共感を得ようという狙いもあるとみられます。

【イギリス】
今月8日のイギリス議会でのオンライン演説では、まず、イギリスの劇作家、シェークスピアの「ハムレット」の有名な一節を引用する形で、ウクライナの状況について「生きるべきか、死ぬべきか。返事は明らかに生きるべきだ」と強調しました。そのうえで、第2次世界大戦中の1940年に当時のチャーチル首相が議会で行った演説になぞらえて「われわれは決して降伏せず、決して敗北しない。どんな犠牲を払おうとも海で戦い、空で戦い、国のために戦い続ける」と訴えました。

【アメリカ】
さらに、アメリカ連邦議会で16日、オンライン演説を行った際には、人種差別の撤廃を訴えたキング牧師の「私には夢がある」という歴史的な演説の一節に触れ「私には必要がある、それは、私たちの空を守ってくれること。あなた方の決意、あなた方の支援です」と述べ、ロシア軍機による攻撃から国土を防衛するため、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定することなどを求めました。

【イスラエル・ドイツ】
また、20日のイスラエル議会の演説では、ロシアの軍事侵攻を、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人の大量虐殺、ホロコーストになぞらえ「ロシアはいまナチスと同じことをしようとしている」と非難したほか、ドイツの連邦議会では17日、「ヨーロッパには、ベルリンの壁ではない、自由と不自由を分かつ壁があり、われわれは隔てられている。私たちを助けるはずの平和のための決断がなされないたびに、この壁は大きくなっている」と訴えました。

【日本】
23日夜、日本の国会でオンライン形式の演説を行い「日本はアジアで初めて平和を取り戻すためロシアに圧力をかけてくれた」と日本の対応を評価したうえで、「侵略の“津波”を止めるためにロシアとの貿易を禁止し、ロシア市場から企業を撤退させなければなりません」と述べ、ロシアに対する制裁の継続を呼びかけました。

【フランス】
23日はフランス議会でもオンライン形式の演説を行いました。
この中でロシア軍が住宅地や病院、学校などを無差別に攻撃していると非難しました。そのうえで、フランスの理念を表した「自由、平等、友愛」を引きあいに「あなたたちは自由、平等、友愛とは何かを知っている。ロシアが平和を求め、この精神に反する戦争をやめるよう、フランスのリーダーシップを期待している」と述べました。

専門家 “停戦交渉 長期化のおそれ”

ロシア軍がウクライナに侵攻して1か月となりました。双方の停戦交渉の見通しについてNHKのインタビューに応じたウクライナの政治ジャーナリストは長期化するおそれがあると指摘しました。

インタビューに応じたのはウクライナのテレビなどで解説をしている政治ジャーナリストのビタリ・ポルトニコフさんです。

ロシア軍の侵攻についてポルトニコフさんは「ゼレンスキー大統領は、当初はほかの多くのウクライナ人と同じようにロシアが実際に軍事侵攻するとは考えていなかったはずだ」と指摘しました。

そして侵攻から1か月がたった現在の政府内の受け止めについて「ウクライナ側が徹底抗戦を続けていて、ゼレンスキー大統領は兵士や国民の行動を誇りに思っているだろう」と述べ、高い士気を維持していると分析しました。

停戦交渉の見通しについては士気の高いウクライナ側がロシア側と安易な妥協をする必要がないとして、「ロシア側とは平和な関係は築けず、ありえるのは一時的な停戦だろう。ただ交渉は困難で長期化するだろう」との見方を示しました。

その上で「何よりもNATO=北大西洋条約機構の行動にかかっている。それに加えて、日本やオーストラリアのように戦争の惨禍を理解している国の連帯にかかっている」と述べ、国際社会がどれだけ一致してロシアに向き合えるかが鍵を握っているとの考えを示しました。