“ロシア 化学兵器を証拠残さない形で使用する可能性” 専門家

ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアが生物兵器や化学兵器の使用に踏み切るおそれがあるという懸念が広がっています。
専門家は、ロシアが実際に使うとすれば、サリンや塩素ガスといったその場にとどまりにくい性質をもつ化学兵器をみずからが使った証拠を残さない形で使用する可能性があると指摘しています。

4年前まで3年間、「陸上自衛隊化学学校」の学校長を務め、生物・化学兵器に詳しい元陸将補の吉野俊二さんによりますと、目に見えず、匂いもしないうえに殺傷能力の高い化学兵器は心理的に大きな苦痛を与えることから、相手のえん戦気分を高める効果などをねらって使われるということです。

吉野さんは「化学兵器を使うとすれば、ウクライナ国民の戦意を喪失させ、早期に講和に持ち込んでみずからに有利な停戦の条件を引き出すことがねらいだろう。ただ、国際社会からこれまで以上の非難を浴びることは避けられずロシアにとっても使用のハードルは高い」と話しています。

そのうえで「ロシアが仮に化学兵器を使うとしても、ミサイルや砲弾に充填(じゅうてん)して大規模に撃ち込むような証拠が残る使い方はしないと考えられる。シリアの内戦のように誰が使ったか特定できない形をとるか、工場や研究施設を破壊し、そこから化学物質が広がったという形を装う可能性がある」と指摘しています。

また、使用される可能性のある化学兵器の種類について、吉野さんは、その場に化学物質が残存すれば自分たちも被害を受けかねず、証拠にもなりかねないことから、その場にとどまりにくい性質を持つサリンや塩素ガスといった「一時性ガス」が使われる可能性が高いのではないかとしています。

一方、吉野さんは、生物兵器については「気象条件によっては数十キロ離れた地域にまで拡散するおそれがあり、その場にとどまりやすい性質も踏まえるとロシアが使う可能性は低いのではないか」と指摘しています。