【現地は今・キエフ】戦時下の高齢者に薬を 20歳女性の戦い

「薬がないと生きていけない人もいます」

ウクライナの首都キエフで「領土防衛部隊」として活動する20歳の音楽教師アナスタシア・グリゴルチュクさん。
彼女が戦時下のキエフにとどまる理由とは?
3月17日にオンラインで話を聞くことができました。

今の生活は?

キエフ市内を流れるドニエプル川の右岸に母と一緒に住んでいます。
近くの川沿いは、散歩やバーベキューが楽しめる静かな場所です。

私は音楽の学校を卒業し、芸術学校に就職する予定でしたが、その2日前にロシアが侵攻しました。
この通話をしている間も、爆発音が3回聞こえました。
足が不自由な祖父をサポートするために父は郊外の実家に避難していますが、近所にミサイルが飛んできて隣の家の一階はなくなったそうです。
大きな駅や橋など重要拠点はいつ攻撃されてもおかしくないので近づかないようにしています。

サイレンが鳴ると駅の地下通路に避難しないといけないんですが、ロシア軍があえて市民が避難している場所を攻撃する可能性もあります。
今のキエフに安全な場所など一つもないのです。

体調はいかがですか?

戦争が怖いのは当たり前ですが、毎朝起きて国や周りの人たちは安全か、みんな生きているのかということが心配です。
朝の始まりは心配な気持ちでいっぱいなんです。

ポジティブな、強い気持ちを持っていないと精神的につらくなり、私の周りにも不安定になっている人がいます。
自分も限界が近づいているのを感じていて、メンタル面は本当につらいです。

それでも諦めないのはこれまでに命を落としたウクライナ人の死をむだにしたくないという思いからです。
自由のために戦っている、代償なんだとも思っています。

日中はどんな活動をしていますか

今は「領土防衛部隊」に入り、買い物に行けないお年寄りなどにじゃがいもなどの食料品や薬を配達しています。
薬局は混雑していて、薬を買うだけで2時間かかることもあり、その後、徒歩で配達します。
多い日は1日30人くらいに届けています。
薬がないと生きていけない人もいます。
本当に危ない体調の人もいて、このあいだも、糖尿病のおばあちゃんに薬を届けましたがもう少し遅れたら亡くなっていたかもしれない状況でした。

ウクライナ兵のために、タバコや鎮痛剤を届けることもあります。
兵士たちにとって、タバコや鎮痛剤は必需品なんです。

食料や日用品は足りていますか

侵攻の直後は、パニックで穀物などが不足していましたが今のところ、食料は足りています。
大規模にものが売られているわけではないですが、スーパーが持っている各地の食糧倉庫から週に1回くらい店舗に補給されていて、企業からの寄付で無料で提供されるものもあります。
農家の人たちもキエフの市場で野菜を売ったりしているので比較的、ふだんどおり食べることはできています。
ひとつ問題なのはタバコで、兵士はすぐに吸い切ってしまうので、不足しています。

電気・ガス・水道、それにインターネットもふだんどおりです。

なぜ避難せず、キエフにとどまるのですか

ここに残ることが危険でも、若い世代の中には、私の周りにも、ウクライナが勝つまでは、力になれることは何でもやろうという強い意志がある人がいます。
キエフに残ってボランティアをしたかったのに親が心配して安全な場所に避難せざるを得なかった友達もいます。

私には健康な体があるので、危険は分かっているけど、できるかぎり国のために戦ってくれる兵士をサポートしたい。
食料や薬が足りない人に届けるボランティアをしたいと思っています。
国外に避難した人たちの中には海外で稼いだお金を寄付してくれる人もいます。
避難した人も、残った人も、全員が国のために戦っています。

日本を含めた国際社会に伝えたいことは?

ほかの国は、ウクライナを支持しているけど、巻き込まれることを恐れて直接的な介入はしていません。

介入できないのは第3次世界大戦を起こさないためなのでそれは合理的だと思いますが、ウクライナが盾のようになり、この戦争を終わらせようとしていることは分かってほしいです。

ウクライナ人が諦めずに戦っているのは自由を失わないためです。
ウクライナは真実のために戦い、私たちは自分たちの勝利を信じています。

取材を終えて

ウクライナを守るため危険を覚悟でキエフにとどまる決断をしたグリゴルチュクさん。
日々、刻々と変わる戦況の中で、キエフの人々の生活はどうなっていくのか。
その実情と思いを引き続き伝えていきたいと思います。
(社会部 山田沙耶花 高橋歩唯)