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試験問題にルビ? 学習障害に“合理的配慮”広がる

試験問題に一人だけルビが振ってある生徒がいたら、ずるいと思いますか?

でもこれは文字の読み書きが難しいディスレクシアという学習障害がある生徒への「合理的配慮」なんです。

知的発達に遅れはないものの、漢字の読み書きや計算など、学習面でさまざまな困難がある学習障害。

いま障害者差別解消法に定められた「合理的配慮」という考えに基づいて、様々な支援の取り組みが広がりはじめています。

学習障害に悩みながらも、学校の理解や支援によって高校に合格することができた鹿児島県の中学生を取材しました。
(鹿児島放送局記者 堀川雄太郎)

“読み書きが難しい” 学習障害の中学生

鹿児島県薩摩川内市の中学3年生、福山心大さん。

去年5月、クラスメートに、自身の学習障害を打ち明けました。
読み書きに時間がかかり、教科書の音読にはタブレットなども使っている心大さんは、数字の6とアルファベットの小文字のbや、ひらがなの“き”と“ち”など、形の似た文字の見分けがつきにくいと言います。
福山心大さん
「黒板に書いていることをノートに写すのに時間がかかり、写している間に黒板が次のところにいってしまいます。授業を受けてもよく分からなかったことがあります」
母親の雅美さんは、なぜ息子が勉強が苦手なのか分からずに悩んでいました。

小学5年生のときに学習障害と診断されたときには、むしろほっとしたと言います。
母親の雅美さん
母親の雅美さん
「漢字を書かせても書けなくて、書いていてもますにはまらなかったです。何度も消してやり直してを繰り返していましたが、全然できなくて、何でだろうと思っていました。変な話、すっきりしたというか、“あ、学習障害だったんだ”という感じでした」

柔道を続ける心大さんを支えるために

一時は、支援学級に入るかどうか尋ねられたという心大さんですが、通常の学級に入りたい理由がありました。

それは、小学4年生のときに始め、県大会では4位に入るほど力をつけた柔道の存在です。
心大さん
「相手との駆け引きや自分がどんどん強くなるというのが分かるので、楽しいです」
柔道部のある地元の中学校で練習に打ち込みたいと、勉強にも必死に取り組みました。

そんな心大さんを支えたのが、担任の堀友花先生です。

学習障害の苦しみに気づかされたのは、意外な場面でした。
堀友花先生
堀先生
「1年生の最初にリラックスやコミュニケーションの部分で早口ことばをさせました。みんな比較的とっつきやすいので楽しんでやるような教材だったのですが、彼はぼろぼろ泣いていたんです。そこで初めて実感したというか、こういうところが苦手なんだというのが分かった場面でした」

広がり始めた心大さんへの支援

堀先生をはじめ学校の教員たちは、心大さんのサポートに動き始めました。

授業中は療育施設のスタッフが教室に入り、ノートの取り方などを専門的な立ち場からきめ細かにアドバイス。
さらに授業そのものも変わりました。

板書の文字にはルビが振ってあるほか、心大さんのプリントは、ほかの生徒のものよりも拡大され、手書きでルビも振ってあります。
当初は「前例がない」などと懸念する声もありましたが、母親の雅美さんの働きかけもあり、徐々に理解が広がっていったと言います。
母親の雅美さん
「ルビがふられたテストを見て、ここまでしていただけることに涙が出そうでした。中学校の朝読書があるのですが、その読書の本に私がずっと読みがなを振っていました。それがとても大変なんです。それをこの子のために先生たちがしてくださる」
このルビには、高校でも柔道を続けたいという心大さんの進路を見据えた狙いがあったと言います。
堀先生
「中学校で例えば定期テストへのルビを振るとかそういう配慮をしていった実績があれば、彼の入試への突破口になるというか、そういう配慮をしてもらえる1つの要素になるのではないかという思いが学年としてありました」

関係者の声に高校も動いた

中学校の思いに答えたのが、薩摩川内市のれいめい高校でした。

相談を受けて、問題用紙や答案用紙を拡大。

さらに図の中など細かいところにルビを振り、別室での受験も許可しました。
れいめい高校 桐木平拓也教務部長
「これまで本校ではこういった形で配慮したことはなかったので、どういうふうに対応すればいいか、いろいろな協議をしました。入試に限らず、このような生徒の将来の目標や夢が閉ざされてはならないと思い、取り組みました」
無事に高校に合格した心大さん。

春からの高校生活を前に、自分に自信を持てたと言います。
心大さん
「先生たちの対応や自分の努力で自信がついたと思います。いつでも笑顔でいられる高校生活を送りたいと思いますし、柔道では上の方を目指して頑張りたいです」

学校での配慮 実情は

外見だけでは分からない学習障害。

特に文字の読み書きが難しい「ディスレクシア」を抱える子どもたちは多くいます。

著名人でもハリウッド俳優のトム・クルーズさんや、映画監督のスピルバーグさんも公表していて、障害を乗り越えて活躍しています。

学習障害のある生徒には、小さなルビでも大きな支援となり、こうした配慮は「合理的配慮」と言われています。

平成28年に施行された障害者差別解消法にも定められ、国や自治体は、障害のある子どもたちが教育を受けるうえで直面する壁をできるだけなくすよう、ルールの変更など、個人に応じた対応を工夫をするよう義務づけられています。

鹿児島県教育委員会によりますと、ことしの県内の公立高校の入試の学力検査でも、様々な障害がある受験生のために64件の配慮が実施され、この数年間では最も多かったということです。

個々のケースは公表されていませんが、補聴器の使用や別室での受験など、在学中の中学校で日頃行われている配慮を参考に、対応が行われたと言います。

取材を終えて

今回の取材のきっかけは、心大さんの支援に入っている療育施設の担当者からの「ぜひこうした事例を紹介してほしい」と連絡をもらったことでした。

母親の雅美さんはもちろん、中学校の先生や高校の先生など、関係する全員がそれぞれに思いを持って“配慮”に取り組んでいる様子が印象的でした。

国や県によると、こうした“ルビ振り”などの事例はあるものの、入試の現場でどのぐらい実践されているのか、詳しい状況は把握していないということです。

先生たちにとっては細かくルビを振ることは大変であるのは間違いありませんが、ICT技術や、施設の専門のスタッフによるサポートなども活用しながら、効果的に取り組みが広がっていけばいいと思います。

子どもたちが将来への夢をつなげられるように、一人一人に向き合ったサポートが進んでほしいと思います。
鹿児島放送局記者
堀川雄太郎
2014年入局
山形局や薩摩川内支局を経て現在は調査報道班のキャップ
種子島のロケットや原発など科学文化も担当

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