「プーチン政権が終われば…」ロシア出身の男性が思うこと

日本で暮らすロシア人は9000人余り(2021年6月末時点)。

こうしたロシアにゆかりのある人たちは、ウクライナへの軍事侵攻をどう受け止めているのか。また、自分たちの家族や知人への影響はあるのか。

ロシアで生まれ育ち、ことし日本国籍を取得した30代の男性が、匿名を条件に今の心境や国内にいる家族の状況などについて話を聞かせてくれました。

ロシア軍の軍事侵攻、どう受け止めていますか

正直に言って、希望がないというか、よくなる道がわかりません。

ロシアへの経済制裁をやめることはよいことだとは思いませんし、戦争の状況が悪化すれば、何らかの意味で、今のロシアは崩壊することになるのだと思います。

プーチン政権が終われば、そこから立て直すことができます。

ただ、希望はありません。

ロシアで暮らす家族は、どんな状況ですか

ロシアにいる家族は、今の生活を考えればロシアにいるほかありません。

すべてを失ったウクライナの人たちとは比べものになりませんが、ロシアへの経済制裁が続けば、数か月先には場所によって、食料が不足したり買えなくなったりして、人が死ぬかもしれません。

ウクライナの人たちのためにできることは何でもしたいと思うと同時に、ロシアにいる家族には、なんとか助かってほしいと思っています。

たとえ、ロシアが崩壊したとしても。

ロシア国内の情報は得られていますか

動画投稿サイト「ユーチューブ」で情報を集めています。

国内でもまだ遮断されていなくて(3月17日に取材した時点)、モスクワ大学の教授、中央銀行の元幹部、政府の職員だったという人などが話すチャンネルがあります。

ほかにも、最近、放送を停止した政権に批判的なラジオ局のジャーナリストたちが、動画投稿サイトで発信しています。

ほかにも情報を入手する手段はありますか

ほかには、ロシアのSNS「VK(フコンタクテ)」や「テレグラム」があります。

直接の知り合いでなくても、さまざまな人たちの状況を知ることができますし、テレグラムでは、ロシアの独立系のメディアも情報を発信しています。

国営メディアはどんな報じ方をしているのですか

国営メディアは、「ウクライナは核を準備していた」「プーチン大統領は、ほかの手段がなかったと発言している」といった情報を発信しています。

市民に情報が流れていくことを禁止することができないので、「ノイズ」となる偽情報を流すことで、事実を隠そうとしているのだと思います。

実際、2014年にウクライナ東部でマレーシアの航空機が撃墜された事件の時は、国営メディアは「アメリカが航空機に死体を積んで飛ばしていた」という信じられないことを言っていました。

ロシア国内にいる人たちは、現状をどう感じているのでしょうか

私の個人的な感覚ではありますが、ロシア国内は、大きく3つのグループに分けられると思います。

1、ロシアがしていることに、大反対、ショックを受けている
2、特に政治に興味がない、状況がわかっていない
3、戦争を支持している、応援している

【1、ロシアがしていることに、大反対、ショックを受けている】
政治に詳しいロシアのユーチューバーが言っていたところによると、全体の3割くらいのロシア人がこのグループに含まれるとみられます。

こうした人たちは、世界情勢をある程度理解していて、ロシア経済が将来的に崩壊するだろうと、考えつつあると思います。

【2、特に政治に興味がない、状況がわかっていない】
このグループが一番多いと思います。

若い人も含まれますが、中年から年配の人が多くいて、人口の半分くらいを占めているのではないでしょうか。こうした人たちは、ロシアの国営メディアの情報にしか触れていないと思います。

必ずしも戦争を支持しているということはありませんが、戦争があるとも信じていません。「プーチン大統領が正しい」という考えを持っているようです。

【3、戦争を支持している、応援している】
このグループには、1割強くらいの人たちが含まれると思います。

ただ、なぜ支持しているのか、明確な理由はわかりません。私がそうした人たちとのつながりがないからです。関わりたいとも思いませんが。

もし理由を尋ねたら「ウクライナにも責任がある」「プーチン大統領にはほかの選択肢はなかった」といった、国営メディアと同じ主張を繰り返すのだと思います。

2や3の人たちは本当に戦争が起きていないと考えているのですか

国営メディアだけを見ている人は、今回の軍事侵攻について、ロシア側が言っている「スペシャルオペレーション(特別な軍事作戦)として、ロシア語を話すドンバス民族を守る」という名目を信じています。

「ウクライナで爆弾が落ちている」と聞いても「フェイクニュース」だと考えています。

もしくは、そもそも情報が入ってきていない。

「世界では何も起きていない」という感覚なのだと思います。

現地の生活の様子については知っていますか

家族や友人に聞くと、スーパーには通常どおり商品があって、パニックは起きていないということでした。

ただ、海外から輸入されている食品を中心に、毎日少しずつ、値上がりしていると聞きました。

医薬品も不足していて、難病や重い病気があって、多くの薬を必要とする人たちの中には、薬局などで多めに買っておこうという動きが出ているようです。

私の母親も、長く飲み続けている薬があり、備えていると話していました。

懸念していることはありますか

経済制裁がかなり高いレベルになっていることです。

それによって、国営メディアだけを見ている人たちが「食料が足りないのは、アメリカのせいだ」と扇動され、プーチン大統領の支持が高まりかねません。

プーチン大統領の「好き嫌い」とは別に、経済的に「自分たちの国が攻撃された」というイメージを持ってしまうことが恐ろしいことだと思います。

ロシア国内では、現在はまだ、必要な情報をある程度知ることができますが、情報統制が厳しくなり、経済制裁で市民の生活が苦しくなったときに、国内の状況がどうなるのか、心配です。

周囲のロシアの人たちに変化はありますか

私の知り合いでも影響を受けている人がいます。

日本への留学を考えていた知人は、新型コロナウイルスの影響で入国できずにいましたが、ようやくビザがおりました。

しかし、ロシア国内の銀行に対する経済制裁の影響で現金を下ろせなくなり、飛行機のチケットが買えないのだそうです。

ほかにも、日本で暮らすロシア人の知人たちからは「日本国籍を得るためにはどうしたらいいのか」という相談をたくさん受けています。

以前は、ロシアにいる家族を心配して「永住権」の取得でよいと考えていた知人たちですが「日本のデモに参加したらもう戻れない」と話しています。

日本のデモに参加して、もしロシアに戻れば、拘束されてしまうという心配が広がっているのです。