米FRB ゼロ金利解除 ウクライナ情勢など先行き不透明

アメリカの中央銀行に当たるFRB=連邦準備制度理事会は、記録的なインフレを抑え込むため、ゼロ金利政策を解除して利上げすることを決めました。
次の会合以降も連続で利上げを進める見通しですが、ウクライナ情勢の影響をはじめ経済の先行きに不透明さも多く、手腕が問われることになります。

年内にあと6回の利上げを行う見通し

FRBは16日まで開いた会合で、コロナ禍の2年間続けてきたゼロ金利政策を解除し、政策金利を0.25%引き上げることを決めました。

アメリカは、供給網の混乱や人手不足、エネルギー価格の上昇などが相まって消費者物価の上昇率が40年ぶりの高い水準になっていて、利上げによってインフレを抑え込むねらいです。

さらに今回の会合では、年内にあと6回の利上げを行う見通しが示され、次の会合以降も連続で利上げを進め、金融の引き締めを急ぐ姿勢を鮮明にしました。
一方、パウエル議長は記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が経済に及ぼす影響について「不透明だ。原油や原材料の価格上昇による直接的な影響に加えて、供給網をさらに混乱させる可能性もある」と述べ、強い警戒感を示しました。

軍事侵攻をきっかけにインフレが一段と加速する可能性がある一方で、経済の先行きが不透明な中で金融の引き締めを急ぎすぎるとかえって景気を冷やすおそれもあるためFRBの手腕が問われることになります。

“ゼロ金利”解除背景に経済回復と物価高騰

FRBがゼロ金利政策の解除を決めたのは経済活動と雇用が順調な回復軌道にあると判断したことに加え、これに伴う40年ぶりの記録的なインフレを抑制する必要が生じているためです。

FRBがゼロ金利政策を導入したのは、新型コロナの感染が急拡大し、国家非常事態宣言が出された、ちょうど2年前のおととし3月でした。

アメリカはこの年、失業率が一時、統計開始以降で最悪となる14%台に跳ね上がり、GDP=国内総生産の伸び率はマイナス3.4%と、74年ぶりの低い水準となりました。

ただ、ゼロ金利政策や国の大規模な財政出動による経済の下支えや去年春以降のワクチンの普及などを受けて企業活動の再開が進み、GDPの規模は、去年半ばには感染拡大前の水準に回復。年間の伸び率もプラス5.7%でした。
また、失業率は先月、3.8%まで改善。消費も回復を続けています。
アメリカ南部の観光都市、ルイジアナ州ニューオーリンズでは観光客が感染拡大前の8割程度まで回復。今月上旬の週末、繁華街は大勢の人であふれ、海外からの観光客の姿も見られました。

アメリカはオミクロン株の感染者数が減少傾向にあり、今月中に全米50州すべてでマスクの着用義務がなくなることになりました。
観光客の男性は「新型コロナはなくなりはしないけど、日常を取り戻したい」と話していました。

一方で、こうした景気回復に伴って顕著になってきたのが物価の上昇です。
消費者物価は去年の春先からFRBの想定を超えてみるみる上昇し、先月は7.9%と、40年ぶりの高い水準を記録。インフレに歯止めがかかっていません。
ニューオーリンズのシーフードレストランでも、人気メニューの焼きガキの料理を、2年前の19ドルから26ドルに値上げしました。オーナーの男性は「人件費、光熱費、賃料も、すべての経費が上がっているので、転嫁せざるをえない」と話していました。

こうした物価上昇の背景には、強い需要の回復に対して、物流網や工場などの混乱で供給が追いつかず、原材料や製品が不足していることがあります。さらに、深刻な人手不足に直面した企業が賃金の引き上げによって生じたコストを商品やサービスに転嫁する事態も重なり、インフレが長期化しています。

FRBはこうした景気と物価の状況を踏まえ、金融の引き締めに当たる利上げを進めていくことを決めました。

ウクライナ軍事侵攻きっかけにインフレに拍車懸念

金融の引き締めに当たる利上げを進めることでインフレの抑制を目指すFRB。
しかし、思うように抑制できるか、不透明な情勢になっています。

先月下旬に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻をきっかけに、インフレに拍車がかかる懸念が強まっているためです。

市場では、国際的な原油の先物価格が一時13年8か月ぶりの高値をつけ、アメリカではガソリンの小売価格が、2008年に記録した水準を超えて過去最高値まで上昇しています。

さらに、欧米各国などによるロシアへの厳しい経済制裁によって、インフレの大きな要因となっているサプライチェーン=供給網の混乱が悪化すると言ったいわば跳ね返りの影響も懸念されています。
自動車産業が集積する中西部ミシガン州の機械メーカーでは、製品の一部にロシア産の鋼材を使っています。制裁を科されたロシアからの供給が激減するという懸念から、鋼材の価格は1か月前と比べて30%上昇しているということです。
機械メーカーのボブ・ロスCEOは「すでに経験しているインフレに加えて、さらにインフレが進むだろう」と述べ、先行きに不安を抱いていました。

世界各国でも利上げラッシュ

インフレが世界的な課題になる中、アメリカ以外でも、政策金利を引き上げ、金融の引き締めを進める動きが広がっています。

G20=主要20か国の国や地域のうち、ことしに入ってこれまでに、イギリス、カナダ、ブラジル、韓国、メキシコなど合わせて10か国の中央銀行が利上げを行いました。
また、ヨーロッパ中央銀行も量的緩和の縮小のペースを速め、金融政策の正常化を急ぐことを決めています。

このうち、経済規模が南米で最も大きいブラジルの中央銀行は、インフレを抑えようと去年3月以降、9回の会合連続で利上げを行い、現在の政策金利は11.75%に上昇しています。通貨レアルの下落や世界的なエネルギー価格の高騰、それに記録的な天候不順などを背景に去年、インフレ率が6年ぶりに10%を超えたことが背景にあります。しかし、景気回復が遅れる中での利上げはブラジル経済に悪影響を及ぼす面も出ています。
最大都市サンパウロのビジネス街で飲食店を経営するクラウジーニ・ジビティスさん。コロナ禍の影響で客足が大きく減ったことから、1年半前に店の運転資金の借り入れを行いました。当時の金利は5%程度でしたが、その後の金利の引き上げで現在は15%程度にまで上昇。それに伴って毎月の返済額も大幅に増えているということで、「コストの増加と金利の上昇に加えてお客さんも減っています。経営はとても厳しい」と話していました。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響でインフレに拍車がかかると見込まれる一方、金利の引き上げを続ければ景気の悪化を招くリスクもあり、ブラジルの中央銀行は影響を注視していく構えです。

松野官房長官「日本経済への影響を緊張感持って注視」

松野官房長官は午前の記者会見で「為替の安定は重要であり、急速な変動は望ましくない。政府としては、特に最近の円安の進行を含め、為替市場の動向や日本経済への影響を緊張感を持って注視していきたい」と述べました。

そのうえで、今後の日銀の金融政策について「黒田総裁は引き続き、2%の物価安定目標の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針であると発言している。引き続き、物価安定目標の達成に向けて努力されていくことを期待している」と述べました。