春闘 集中回答日 自動車や電機などの大手では満額回答も

ことしの春闘は16日が集中回答日です。業績の回復を受けて経営側からは去年を上回る水準の回答が相次ぎ、自動車や電機などの大手では労働組合の要求通りの満額回答が出ています。
ただ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などで経済の先行きへの不透明感が強まっていて、賃上げの動きがどこまで広がるのかが焦点です。

自動車や電機などの製造業を中心におよそ200万人の労働者が加盟する東京・中央区の「金属労協」では大手企業の回答の金額が次々と報告されました。

このうち自動車業界では、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車工業、マツダがそれぞれ組合の要求どおり満額で回答しました。
このうちベースアップに相当する賃上げについては、ホンダが平均で月額3000円、三菱が平均で月額1000円となっています。

電機業界も、ベースアップ相当分として3000円の要求に対し、日立製作所と東芝、NECが満額で回答しました。

2年に1度、交渉を行う鉄鋼業界では、ベースアップ相当分として2年間で合わせて7000円の要求に対し、日本製鉄とJFEスチール、神戸製鋼所が、2022年度は月額3000円、23年度は月額2000円の賃上げを行うと回答しました。
賃上げを行うと回答したのは2018年以来、4年ぶりです。

牛丼チェーンの「すき家」などを運営する外食大手のゼンショーホールディングスはベースアップを含めた賃上げの総額として、1人あたり月額1万1000円余り、率にして3.5%の引き上げで妥結しました。
上げ幅は過去最高になるということです。

ことしの春闘をめぐっては、岸田総理大臣が業績がコロナ前の水準に回復した企業は、3%を超える賃上げを実現するよう協力を呼びかけていました。

新型コロナウイルスの影響で業績が落ち込んだ状態から回復する企業が増えたほか、物価は上昇しているとして賃上げを求める動きが広がりました。

ただ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻によって原材料価格が高騰するなど経済の先行きへの不透明感が強まっていて賃上げの動きがどこまで広がるのかが焦点となっています。

松野官房長官「物価上昇する中で賃上げは重要」

松野官房長官は午前の記者会見で「まだ結果が出始めている段階であり、今後の回答状況を注視していきたい。ウクライナ情勢などを背景に、原油や食料品など物価が上昇する中では賃上げをしっかりと実現していくことが重要だ。政府としては、賃上げに向けた環境整備として賃上げ税制の拡充や価格転嫁の円滑化など、あらゆる施策を総動員し、企業が賃上げしようと思える雰囲気を醸成していく考えだ」と述べました。

これまでの賃上げは

ことしの春闘では、賃上げの動きがどこまで広がるのかが焦点となっています。

厚生労働省は、資本金10億円以上で従業員1000人の労働組合がある大手企業などを対象に春闘の妥結状況についての集計を行っています。

それによりますと、2014年からおととしまでは、定期昇給分を含めた賃上げ額の平均は7年連続で6000円以上、交渉前の賃金に対する割合「賃上げ率」はいずれも2%台となりました。

背景には、景気の回復や政府が経済界に対して賃上げを求めるいわゆる「官製春闘」が続いたことなどがありました。

しかし去年は、新型コロナウイルスの影響などで賃上げ額は平均で5854円、賃上げ率は1.86%となりました。

賃上げ率が2%を下回ったのは2013年以来です。

ことしの春闘では、新型コロナの影響で業績が落ち込んだ状態から回復傾向にある企業が増えたことなどから、労働組合には去年を上回る賃上げを要求する動きが広がっています。

一方でエネルギー価格や原材料価格の高騰などが続いていて、企業からは経営への影響を懸念する声が出ていて、賃上げの動きがどこまで広がるのかが焦点となっています。

金属労協「去年とは違う勢い」 連合「中小労使に広がり期待」

自動車や電機のメーカーなど5つの産業別労働組合でつくる「金属労協」の金子晃浩議長は記者会見し「生活者が物価の高騰などを乗り越えていくためには『人への投資』や『公正な分配』が必要だと強く訴え続けた。ここまでのところ、ほとんどの労働組合が賃上げを獲得し、平均の賃上げ額は去年はもちろん、おととしさえも上回っている。去年とは違う勢いや積極性を認識している」と話していました。

また「連合」の仁平章総合政策推進局長は「きょうの結果が交渉が続いている中小企業の労使などにも広がるよう期待している」と話していました。

そのうえでことしの賃上げ率については「全体の状況でいえば、産業ごとに賃上げに差も出てくると予想している。あさってまでに連合で回答を集計し、そこで判断したい」と述べました。

賃上げ 大企業と中小企業で差も

ことしの春闘は16日が集中回答日で企業からは新年度の賃上げなどについての回答が示されています。信用調査会社が先月調査を行った結果、新年度、賃上げを行う予定と回答した企業はおよそ71%と2年連続で前の年度を上回ったことがわかりました。

この調査は信用調査会社「東京商工リサーチ」が先月、インターネットを通じて行い、6781社から回答がありました。

それによりますと新年度、勤務年数や経験などに応じた「定期昇給」や基本給を引き上げる「ベースアップ」などの賃上げを行う予定と回答したのは4857社で率にして71.6%でした。

これは去年の同じ時期の調査より1.2ポイント増え2年連続で前の年度を上回りました。ただ、80%を超えていた新型コロナの感染拡大前の水準を依然、下回っています。

また新年度、賃上げを行う予定と回答した企業を規模別で見ると、大企業は77.2%、中小企業は70.8%で中小企業が6.4ポイント低くなりました。

「東京商工リサーチ」は「新型コロナの影響が長期化し業績が回復しない企業も多く、コロナ禍前の水準に戻るのには時間がかかる。ロシアのウクライナへの軍事侵攻や、原材料費の高騰などもあり、大企業と中小企業の間でも賃上げへの対応には差が出るとみられる。人手不足が深刻な中小企業では賃上げをせざるをえない面があるが、難しい状況が続いている」と話しています。

日商 三村会頭「従業員に対し報いプラスアルファか」

ことしの春闘で自動車や電機の大手で満額回答が示されるなど、幅広い業種で去年を上回る水準での妥結が相次いでいることについて、日本商工会議所の三村会頭は16日の定例会見で「経営側はコロナ禍を過ごしてきた従業員に対して、少しでも報いたいという気持ちがあり、収益にかかわらずプラスアルファがあったのではないかと思う」と述べました。

そのうえで中小企業の賃上げについて「大手だけ上がると賃金格差が出るので、人手不足に悩む中小は、業績がよくなくても賃金を上げざるをえない。そういう環境が押し寄せている」と述べ、大手企業は取引価格の適正化をいっそう進め、中小企業の賃上げを後押しするべきだと重ねて強調しました。

専門家「物価上昇分を賄う賃上げに至らず」

ことしの春闘で集中回答日を迎えた16日までの企業の妥結状況について、労働分野に詳しい日本総合研究所の山田久主席研究員は、大企業を中心に積極的な賃上げが行われたと評価した一方で、物価の上昇が続く中「そこそこの賃上げの動きが出てきているとはいえ、物価の上昇分をすべて賄うだけの賃上げには至っていない」と述べ、賃上げが一時的なものにとどまることなく、今後も継続されることが重要だと指摘しました。

また、中小企業の賃上げについては「大手に比べると業績が良くないところが多く、そこにエネルギー価格や資材価格の上昇が影響しているため、賃上げが十分できるのかという心配は残る。大手が適正価格でしっかりと取引を行い、中小企業に適正な利潤を行き渡らせることが重要だ」と述べました。

一方、今後も上昇が予想される物価への対応については「日本は20年、30年とデフレに苦しんできたが、物の価格というのは上がるのが普通だ。将来が見えないからといって節約一辺倒というのでは、日本経済全体が悪くなっていくことになる。価格上昇に過剰に反応して消費を控えるとか、企業がコスト削減のため給料を減らすということではなく、むしろこれを契機に、『物の価格も上がる、でも賃金も上がる』という捉え方で冷静に将来を見据え対応することが重要だ」と指摘しました。

経団連 十倉会長 “賃上げの勢いは力強い”

自動車や電機、鉄鋼など大手メーカー各社の労使交渉が妥結したことを受けて、経団連の十倉会長は記者団の取材に応じ、「業績が良い企業を中心に期待を上回る回答で非常にうれしく思っている。働き手に成果を還元するのは企業の責務であると訴えてきたことが実現されたものだ」と述べ、賃上げの勢いは力強いという認識を示しました。

また、岸田総理大臣が呼びかけていた業績が回復した企業の3%を超える賃上げは実現されそうかと問われると、「妥結内容をすべて知っている訳ではないが3%を超えた企業もあったのではないかと思うし、いい出だしではないか。業績の良い企業の賃上げの状況について、集計したいと考えている」と述べました。

賃上げを正社員以外にも

非正規雇用で働く人について正社員と同じ水準の賃上げを求めた労働組合もあります。

大手食品メーカー「キッコーマン」の労働組合には正社員だけでなく非正規雇用の嘱託社員とパートタイムあわせて30人あまりが加入しています。

労働組合はことしの春闘で期待することについて組合員の嘱託社員とパートタイムにアンケートを行いました。

その結果、ほとんどが基本給を引き上げる「ベースアップ」で賃金を引き上げてほしいと回答しました。

アンケートに答えた嘱託社員として働く40代の女性は「物価やガソリン価格などの上昇で出費も目に見えて上がってきているという実感があります。それにあわせて給与も上げてもらえたら本当に助かります」と話していましたまた、同じく嘱託社員の50代の女性は「正社員と同じような形でベースアップや賞与の増額を実現してもらえれば、自分のいままでの頑張りが認めてもらえたような気がして働きがいもさらに増すと思います」と話していました。

労働組合では非正規雇用で働く人について正社員と同じ水準の賃上げを求める要求書を先月(2月)、経営側に提出しました。

具体的には▽嘱託社員は月額6000円のベースアップを▽パートタイムには時給40円の引き上げを求めています。

交渉の結果、ベースアップについて▽正社員は月額2000円、▽嘱託社員は月額1000円で16日妥結しました。

この会社で嘱託社員を対象にベースアップが行われるのは初めてだということです。

またパートタイムの時給は20円引き上げられることになりました。

「キッコーマン労働組合」の津崎暁洋中央執行委員長は「原材料価格が高騰する中、経営側が初めて嘱託社員にベースアップを行うと回答したことは評価したいと思います。頑張っていることが会社からきちんと認められるように今後も組合員と対話を重ねながら改善に努めていきたい」と話していました。