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「戦争とは何か」 ウクライナ侵攻で再注目の映画「ひまわり」

地平線のかなたまで続く一面のひまわり畑に、流れ出す哀愁のメロディ。

52年前公開のイタリア映画「ひまわり」の冒頭のシーンです。戦争で引き裂かれた男女の悲しみを描いた名作として映画史に刻まれています。

「ひまわり畑の下にはたくさんの兵士や農民が埋まっている」

ロシアによるウクライナ侵攻の中で「戦争とは何か」を伝える映画として再び注目され、今静かに共感が広がっています。

(ネットワーク報道部 金澤志江)
「生きてるの?」
「行方不明の扱いです」
「生きてるのよ」
オープニングクレジットのあと、イタリアを代表する女優、ソフィア・ローレン演じるヒロインのジョバンナが第2次世界大戦で兵士として送られ終戦後も帰国しない夫のアントニオを探すシーンです。
戦争のさなかに出会った2人は結婚してすぐに離れ離れになり、アントニオはソ連、現在のロシアの過酷な雪の東部戦線に送られていました。

映画の公開は1970年。

当時日本でも大ヒットとなり、何度も劇場公開され映画ファンの心をつかんできました。

「過去の物語」が「今の物語」に

映画の公開から52年がたちましたが、ウクライナ情勢を受けて今月から全国の劇場などで相次いで再上映が決まっています。

きっかけは映画配給会社の池田祐里枝さん(34)でした。

ロシアによるウクライナ侵攻を伝えるニュースに「こんなに明確な形で戦争が始まってしまい、リアルタイムで実際に起こりうるとは」とショックを受けたという池田さん。

映画「ひまわり」のあるシーンを思い出して「今こそ上映すべきではないか」と思い立ったといいます。

思い出したのは、夫を探しにひとり当時のソ連に向かったジョバンナが広大なひまわり畑の中を歩くシーンです。
ジョバンナに、地元の人が語りかけます。

「イタリア兵と
 ロシア人捕虜が埋まっています

 ドイツ軍の命令で穴まで掘らされて
 ご覧なさい
 ひまわりやどの木の下にも
 麦畑にも
 イタリア兵やロシアの捕虜が
 埋まっています

 そして無数のロシア農民も
 老人 女 子ども」


美しく風に揺れる一面のひまわりの中で、残酷な戦争の現実が鮮やかなコントラストで突きつけられる、この映画のハイライトの1つです。

池田さんによりますと、実はこのひまわり畑の撮影は現在のウクライナの首都キエフから南へ500kmほど離れたヘルソン州で行われたということです。

ヘルソン州は現在、ロシア軍の侵攻を受けていて、市民の犠牲も伝えられている地域です。
アンプラグド 池田祐里枝さん
「第2次世界大戦の悲しみを描いた作品なんですけど、今起きていることとまさにリンクするなと驚きました。
映画史に名を残す名画として『過去に起きた物語』として見ていたんですけど、実際にまた戦争が始まってしまって『今の物語』でもあるのではと非常に思いました」

“いてもたってもいられない”

池田さんは上映で得た収益の一部をウクライナの人道支援への寄付にあてることにしました。

そのうえで思い当たるいくつかの映画館に上映の呼びかけをしたところ「ぜひやらせてほしい」と各地の映画館から反響がありました。

このうち3月28日からの上映を決めた新潟県上越市の「高田世界館」は110年以上の歴史がある映画館です。

支配人の上野迪音さん(34)は池田さんからの呼びかけに「そういうこともできるのか」とすぐに「上映させてほしい」と回答したということです。
高田世界館 上野迪音 支配人
「映画館は何か情報を発信する場ではありたいと常々思っているので、お声がけいただいてすぐに動いたという感じなんです。とにかく“いてもたってもいられない”というのがありました」

普通の人たちの「日常」が奪われる

上野さんも、映画の中にはウクライナで今起きていることと重なる場面があると感じています。

ジョバンナと出征前のアントニオが2人で川辺を散歩するシーンでは、近くの橋が突然爆撃を受ける様子が描かれます。
上野さん
「散歩するという日常の中で急に爆撃が近くであるというのは、今のウクライナと重なります。ウクライナでも人の住んでいる場所で爆撃があり、この場面は今の状況とシンクロして見るのがつらかったです」
さらに上野さんが印象的だと感じたのは、駅のシーンです。

ジョバンナがアントニオを戦地に送り出し、戦争が終わると帰還する兵士の中にその姿を探す場所です。
別れを象徴的に表現する舞台として駅が使われ、自分にとってかけがえのない存在が手の届かない遠いところに行ってしまう、戦争の実相を伝えている場面だといいます。

一方で上野さんは、映画「ひまわり」は戦争という大きなテーマを描くとともに、世界の片隅の普通の人たちの日常やそれが奪われた悲しみを見つめているものでもあると感じています。

そのため、あえて今のウクライナや戦争のことだけにこだわるのではなく、むしろ素直な思いで見てほしいと考えています。
上野さん
「本筋としては男女の恋愛と、戦争によって引き裂かれた悲劇が描かれていると思いますが、細かなところでは普通の人たちのありのままの日常も描かれています。見る人それぞれの感性で、この映画を感じ取ってほしいです」

伝えきれない現実 取り戻せない時間

さて、記事の冒頭でご紹介した映画配給会社の池田祐里枝さんの話に戻ります。

映画の終盤、ずぶぬれのアントニオがジョバンナの自宅を訪れた際の2人のやり取りに、戦争が人の人生に与える、目には見えない現実が描かれています。
「ジョバンナ、事情を何もかも話す」と、戦地ロシアから帰国せず現地で生活を築いた経緯を説明しようとするアントニオ。

「あの時ぼくは死んだ
 そして別人に

 あれほど死を間近にすると
 人間は感情さえ変わってしまう

 確かにぼくはそこで暮らした
 小さな平和の中に

 理解しろと言ってもムリだな
 戦争は残酷なものだ
 どうしてこんな事に」


ことばでは伝えきれない過酷な現実と、取り戻すことのできない時間の長さ。

戦争の犠牲になるものが、数多くの人の命や財産のほかにも、生き抜いた人たちの人生にもあるのだということを、まっすぐに伝えています。
池田さん
「一貫してこの映画で描かれているのは、戦争がもたらす悲劇の大きさ、人々の人生を狂わせるという現実です。戦争によって思い描いていた人生や平穏な暮らしなどの理想が崩れていくさまが描かれています。
特にこのシーンの2人のやり取りは、取り戻せないものがあるということを受け入れていることがとても印象的な場面です」

戦争とは何か

52年前公開で、再注目されている映画「ひまわり」。

すでに再上映が始まった館で映画を見た人からは反響の声が上がっています。
千葉・柏市の映画館で見た50代の女性は「戦争は心が通じ合っている人が別れ別れになってしまい犠牲になると感じた。映画を見ることで少しでも役に立てれば」と話していました。
上映予定の映画館は当初池田さんが呼びかけた横浜や大阪、新潟の劇場と自主上映の計6か所だけでしたが、その後ほかの映画館からも問い合わせが相次ぎ全国30か所を超えています。

池田さんは思わぬ反響に戸惑う一方で、改めて今上映する意義を感じていると言います。
池田さん
「反響の大きさに非常に驚いているとともに、この連帯感があることがとても尊いことだと思っています。
描かれているのは第2次世界大戦のことになりますが、今改めて本作をご覧いただいて『戦争とは何か』ということについて今一度皆様に考えていただけたら意義があるのかなと思っています」
映画「ひまわり」(107分)
監督 ヴィットリオ・デ・シーカ
音楽 ヘンリー・マンシー二
出演 ソフィア・ローレン マルチェロ・マストロヤンニ リュドミラ・サベーリエワ

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