ロシア ウクライナ侵攻 暮らしへの影響は

ロシア ウクライナ侵攻 暮らしへの影響は
ロシアによるウクライナ侵攻から3週間。緊迫の情勢が続く中で、わたしたちの身の回りの暮らしにも、その影響が広がっています。

立ち食いそばにも懸念が

「ロシアのウクライナ侵攻の影響で、そば粉の値段が上がるそうです」

こう話すのは、東京・荒川区の立ち食いそば店の店長、佐久間昇さんです。

かけそば1杯200円台の値ごろ感と、豊富なトッピングがこだわりの店ですが、今、懸念しているのが、ウクライナ情勢の緊迫化や各国によるロシアの経済制裁に伴う原材料価格のさらなる上昇です。
日本人になじみの「そば」ですが、実は、そばの実の生産量はロシアが世界一。

日本の去年の輸入量も、中国、アメリカに次いで3番目に多く、全体の10%余りがロシア産とされています。

店に欠かせない「ゆでそば」の仕入れ値は、ことし1月におよそ5%上昇したばかり。

その時は、コロナ禍で物流費が上昇していることなどが理由でした。

そこに追い打ちをかけるように今月、卸売業者から「この5月以降、ゆでそばをさらに値上げせざるをえない」と伝えられました。
佐久間店長
「業者によると、ロシアのウクライナ侵攻の影響でロシア産のそばの供給がストップし始めていて、今後思うようにそばが入ってこない可能性があるということです」
実はこの店では、天ぷらに使う食用油や小麦粉など、多くの原材料の価格が高騰したことなどを受け、去年12月にすべての商品を一律10円値上げしたばかり。

220円だったかけそばも、230円に値上げしています。
常連客
「ずっと通っています。値上がりはしかたないのではと思います」
コロナ禍で時短営業が続く今でも、1日500食以上は売れるというそば。

そこに突如のしかかる新たなコストアップの懸念に、店長も頭を抱えています。
佐久間店長
「戦争で悲惨な状況になっているので大きなことは言えないが、うちの経営も大変な死活問題になっています」

ロシア産が入らない

ロシア産の原料は今、一体どうなっているのか。

都内にある国内有数のそばの専門商社に話を聞くと、3月以降、ロシアでは、そば粉に使われる殻付きの「玄そば」と殻をむいた「むき実そば」の物流網が滞っているというのです。
会社によりますと、ロシア産のものは極東のウラジオストクから船で輸入していますが、そばを積んだコンテナが港で滞留したまま、日本に運べていない状況だということです。

ロシアの軍事侵攻による欧米の経済制裁の一環で、欧米からのコンテナ船の入港が滞っていることが要因の1つだといいます。

今は、2月中に出港した貨物がかろうじて入ってきていますが、早晩、その入荷もストップするとみています。

さらに、新たな注文をしようにも、欧米などがロシアの金融機関を国際的な決済ネットワークのSWIFTから締め出した影響で送金ができないため、取り引きができない状況だといいます。
輸入ものの15%をロシアに依存しているというこの商社では、ウズベキスタンやモンゴルなど、別な国の取引先を開拓するなどして対応しようとしていますが、ロシア産が市場からなくなって需給がひっ迫する分、取引価格は上がるだろうと予想しています。
そば専門商社 駒板社長
「そばは小腹がすいた時に食べられる大衆の食べ物なので、こういうものが値上がりするのはよくない。日本の食文化に影響が出ているのは心苦しいし、早く平和になってほしい」

ロシア産「でない」サーモンも欠品

ロシアによる軍事侵攻の影響は、なじみの寿司ネタ「サーモン」にも広がっています。

千葉市に本社がある寿司チェーンでは、今月4日からノルウェー産の生サーモンが入荷できなくなりました。

ウクライナ情勢の緊迫化の影響で物流網が乱れているためとしていて、国内産の銀ザケなどほかのサケを急きょ仕入れて対応しています。

「でも、こちらもおいしいです」
「遠く離れた土地のウクライナでも日本に影響があるんだって」
ノルウェー水産物審議会によりますと、日本がノルウェーから輸入する生サーモンの空輸のうちおよそ8割が、ロシア領空を経由する最短距離のルートを利用しています。

ところが、2月末にロシア当局が発表した、ノルウェーなど36か国に対するロシア領空の飛行禁止措置のほか、航空各社によるルート変更や欠航により、最短ルートでの輸送ができなくなっているというのです。
審議会では、ロシア上空を避ける、う回ルートの便を確保し日本への輸入は続けているものの、供給量は従来より減っていて、供給が元の状態に戻るまでにはなお時間がかかるとしています。
この寿司チェーンでも、早ければ今月19日にもノルウェー産サーモンの提供を再開する予定ですが、輸送費が上がる分、値上げすることも検討しているということです。

ロシアから何を輸入しているの?

ジェトロ=日本貿易振興機構によりますと、日本の去年のロシアからの輸入額は、およそ140億ドル。

「石油ガス類(24.1%)、石炭(18%)、原油・粗油(16.6%)」とエネルギー資源が半数以上を占め、自動車の排ガス抑制や銀歯に使われる「パラジウム」を含む「銀・白金族(10%)」、ズワイガニなどの「魚介類(8.9%)」などが続きます。

また「そば」のように、国内の輸入品の中で一定のシェアを持つものはほかにもあり、例えば住宅用の木材は、ロシア産が輸入材全体の10%弱を占めるともいわれています。

さらに、こうした日ロ間の貿易にとどまらず、例えば小麦は輸出量でロシアが世界1位など、世界的なシェアの高さから、国際的な取り引きに影響を及ぼす商品も少なくありません。

ウクライナ情勢で供給不安・値上げへの警戒感

ウクライナ情勢の緊迫が長引く中で、暮らしに身近な製品の値上がりが今後も続くのではないかという見方が広がっています。
例えば原油は、国際的な指標・WTIの先物価格が一時、1バレル130ドルを超え、13年8か月ぶりの高値となりました。

ウクライナ情勢をめぐり原油の供給不足への警戒感が強まっているためで、直近も100ドル前後の高い水準が続いています。

エネルギー価格の上昇に伴い、ガソリンや灯油などの燃料代のほか、電気代や包材・輸送のコストが上昇しています。
小麦もロシアやウクライナからの供給不安が広がり、シカゴ商品取引所で今月、先物価格がおよそ14年ぶりに最高値を更新。

政府が今月9日に決定した輸入小麦の製粉会社などへの売り渡し価格は、4月から17%余り引き上げられ、過去2番目に高い水準となります。

このため小麦粉や、小麦粉を原料に使うパンや麺類などの販売価格に転嫁されることも予想されます。
冒頭で紹介した立ち食いそば店でも、そばだけでなく、うどんの仕入れ値が4月からさらに5%引き上げられ、小麦粉も5月から値上げされると卸売業者から伝えられています。

安さが売りの商品ですが、去年暮れに値上げしたばかりだけに、店長は、今後の原材料価格の動向が気が気でないといいます。
佐久間店長
「またすぐ(販売価格を)上げると、お客さんの足も遠のいてしまうのではないか。どう運営していくか、まさに考えているところです」

今後 どうなるの?

ウクライナ情勢の緊迫化がもたらす、身近な暮らしへの影響。

専門家は長期化も見据えて対応する必要があると指摘します。
榎本裕洋 所長代理
「ロシアは経済規模では世界のGDP全体の3%ほどにとどまるが、非常に大きな国土、広大な陸と空と海を抱えていて、そこから産出されるモノやサービスの面での影響は大きい。なかなかこの問題がすぐに解決するとは考えられず、一定期間長期化すると考えていて、全体的に価格が上がることは避けられない」
その上で榎本さんは、▽例えば小麦粉を原料に使った製品の値上がりに対応するため、主食のパンや麺の一部をコメに置き換えるなど代替品を探してみることや、▽代替品がないエネルギーについては、大規模災害時などと同様の心がけで、企業も消費者も節電の努力が求められるのではないかと話しています。
原材料価格の高騰にコロナ禍での物流網の混乱も相まって、去年以来、多くのモノが値上がりしています。

さらに、このところの円安による輸入価格の上昇も気になるところです。

こうした中、ロシアの軍事侵攻の行方が、もう1つの「値上げ要因」として、家計にじわりと迫りつつあるようです。
経済部 記者
山根力
2007年入局
松江局、神戸局、経済部、鳥取局を経て経済部
現在、商社業界を担当
経済部 記者
保井美聡
2014年入局
仙台局、長崎局を経て、流通業界などを担当
おはよう日本 記者
小國 博史
2016年入局
戦争体験や地方の文化・民俗に関心
1歳の娘とのドライブが楽しみ