東日本大震災と福島第一原発事故11年 ~廃炉は 処理水は~

11年前の3月11日、東日本大震災の津波の影響で、東京電力福島第一原子力発電所では、電源を失うなどして核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が発生し史上最悪レベルの事故に至りました。
溶け落ちた核燃料の取り出しにことし中に着手できるか、廃炉の過程でたまり続ける「処理水」の海洋放出に地元などの理解が得られるかが焦点となっています。

【今も続く注水による冷却】

福島第一原発では、「メルトダウン」を起こした1号機から3号機の原子炉内部に溶け落ちたあと、固まった核燃料が今も残っていて、注水による冷却が続いています。

これに加えて、地下水や雨水が建屋内に流れ込んでいるため、放射性物質を含む汚染水が現在も一日およそ150トンのペースで発生しています。

汚染水に含まれる放射性物質は大半が専用の設備で除去されますが、取り除くのが難しい「トリチウム」など一部の放射性物質を含む水、いわゆる「処理水」はたまり続けています。

処理水は今月3日現在でおよそ128万トンとなり、敷地内のタンクで保管されていますが、ことし秋以降には満杯になる見通しで、東京電力は国の方針に従い、基準以下の濃度に薄めたうえで来年春ごろから海に放出する考えです。

ただ、処理水の放出をめぐっては、海外では中国や韓国が反発や懸念を表明しているほか、国内では、漁業者を中心に新たな風評被害を懸念する声が根強くあり、国と東京電力が関係者から理解を得られるかは不透明です。

【燃料デブリの取り出し】

一方、福島第一原発の廃炉に向けて、国と東京電力は事故が起きた2011年を起点に最長40年かかるとしていますが、強い放射線に阻まれ、当初の見通しより作業が遅れています。

メルトダウンを起こした結果、溶け落ちた核燃料と周囲の金属製の構造物などが混ざり合った「燃料デブリ」は、1号機から3号機の原子炉内部や原子炉を覆う格納容器の中に堆積しているとみられ、3基合計で880トンに上ると推定されています。

廃炉最大の難関、「燃料デブリ」取り出しに向けて国と東京電力は、最も調査が進んでいる2号機から着手する方針で、遠隔で操作できる大型のロボットアームを導入し、作業員の訓練を行うなど準備を進めています。

1号機では、先月から水がたまった格納容器の中にロボットを入れる調査が始まり、原子炉の下にある構造物付近で撮影された映像から塊状の堆積物が確認され、燃料デブリの可能性もあるとみて詳しく分析しています。

3号機では、5年前、2017年の調査で燃料デブリの可能性が高い塊が確認されましたが、多くが水につかっている状態にあることなどから、今後10年程度かけて取り出し開始を目指す計画です。

【廃炉で出る放射性廃棄物】

福島第一原発では、廃炉に伴って発生する大量の放射性廃棄物をどのように管理し処分するかが新たな課題として浮き彫りになっています。

廃炉に伴い、がれきなどの放射性廃棄物がことし1月末現在でおよそ48万立方メートル発生し敷地内で保管していますが、年々、その総量は増え続けています。

放射性廃棄物の多くは敷地内のコンテナなど屋外で保管されていますが、中には腐食が進み、内容物が漏れ出すケースもあり、原子力規制委員会が東京電力に対し保管方法を見直すよう求めています。

【まとめ】

原発事故から11年。
廃炉最大の難関とされる「燃料デブリ」取り出しに着手できるのか。

国や東京電力が進める処理水の海洋放出が地元などからの根強い反発の中、計画どおりに進むのか。

そして、新たに浮上した放射性廃棄物の管理や処分をどのように進めるのかなど、課題が山積しています。

事故前後の各号機

《福島第一原発とは》

福島第一原子力発電所は、東京電力が初めて建設した原発で、
▽1号機から4号機は福島県の大熊町に、
▽5号機と6号機は双葉町にそれぞれ立地しています。

原子炉は6基あり、
▽この中で最も古い1号機は1971年に運転を開始。
▽2号機は1974年、
▽3号機は1976年、
▽4号機は1978年、
▽5号機は1978年、
▽6号機は1979年にそれぞれ運転を開始しました。

6基はいずれも「沸騰水型」と呼ばれる型式で原子炉に挿入した核燃料の熱で炉内の水を直接沸騰させ、発生した蒸気の力でタービンを回して発電します。

《東日本大震災当日》

今から11年前の2011年3月11日、福島第一原発の6基は、1号機から3号機の3基が運転中で、残りの3基は定期検査のため運転を停止していました。

そして、この日の午後2時46分ごろ、東北沖でマグニチュード9.0の巨大地震が発生。

運転中だった1号機から3号機の原子炉はすべて緊急停止しました。

ただ、原子炉の中にある核燃料は、運転を停止したあとも熱を発し続けるため、継続して冷却する必要があります。

緊急停止した場合、核燃料の冷却には、ポンプを使って原子炉に水を入れる方法や、高温となった蒸気を専用の配管に送り出し、外から取り込んだ冷たい海水を利用して間接的に熱を逃がす方法などがありますがいずれも電気が不可欠です。

巨大地震の影響で、送電線の鉄塔が倒れるなどしたため、外部からの電気の供給は絶たれましたが、非常用の発電機が稼働し、この時点では原子炉の冷却は続いていました。

しかし、午後3時半前後、津波が相次いで押し寄せ、非常用発電機などの入ったタービン建屋がある高さ10メートルの敷地が浸水。

津波の影響で、地下にあった非常用発電機のほか設備に電気を送るための配電盤やバッテリーなども、ほとんどが水につかり、原子炉の冷却に必要な電源がすべて失われました。

《各号機の事故概要》

原子炉を冷やせなくなった結果、1号機では津波の襲来からわずか数時間後には核燃料が溶け出す「メルトダウン」に至ったとみられています。

1号機は、翌12日の午後3時半ごろ、核燃料を覆う被覆管などがメルトダウンによる高熱で溶け、水と反応して発生した水素の影響で大規模な爆発が起き、建物の上部が吹き飛びました。

その後、2号機と3号機が相次いでメルトダウン。

2号機では、格納容器が壊れるのを防ぐため内部の圧力を外に逃がす最終手段「ベント」を実施できず、圧力が高まり続けました。

結果的に水素爆発こそしませんでしたが、格納容器が大きく損傷した可能性があり、大量の放射性物質が外部に放出したと考えられています。

3号機では「ベント」が実施できたものの、メルトダウンに伴って発生した水素が原子炉建屋に充満。

3月14日の午前11時すぎに水素爆発を起こしました。

4号機は、点検のため運転を停止していましたが、3号機とつながった排気用の配管から水素が流れ込み翌15日の午前6時すぎに爆発しました。

こうして福島第一原発では、1号機から3号機がメルトダウンしたほか、1号機・3号機・4号機が水素爆発を起こし、当時の規制当局、原子力安全・保安院の調査などによりますと、およそ1.5京ベクレル※という大量の放射性物質を周囲の環境に放出する極めて深刻な事故となりました。
(※京は「兆」の1万倍※)。

事故の深刻さを示す国際的な基準による評価では、最も深刻な「レベル7」。

1986年に起きた旧ソビエトのチェルノブイリでの事故と並ぶ史上最悪レベルの原発事故となりました。

《冷温停止状態へ》

「メルトダウン」を起こした1号機から3号機は原子炉に水を入れることで、徐々に温度は低下。

政府は2011年12月、原子炉がおおむね100℃以下に下がるなどして冷温停止状態に達し、安定状態に至ったと発表。

しかし、溶け落ちた核燃料を冷やすための注水は事故から11年がたった今も続くなど、事故が完全に収束するのはいつになるのか、見通せない状況です。

廃炉の現状と今後

《ことしの動きは》

福島第一原発で続く廃炉に向けた作業。
国と東京電力は、事故が起きた2011年を起点に30年から40年後に完了する工程を示しています。

ことしは、溶け落ちた核燃料いわゆる「燃料デブリ」の取り出しを始める計画で、廃炉最大の難関とされるこの作業が着実に進むのか注目されます。

《燃料デブリとは》

「燃料デブリ」とは、事故で溶け落ちた核燃料と、その周囲にあった金属製の構造物などが混ざり合ったものを指します。

事故から11年がたった今も熱を発し続けているため、絶えず水を注いで冷却していますが、「燃料デブリ」から出される非常に強い放射線のため原子炉建屋の中では人が長時間立ち入って作業することはできません。

「燃料デブリ」は、原子炉の中や原子炉を覆っている格納容器の底部にたまっているとみられ、「メルトダウン」が起きた1号機から3号機まであわせるとその量は880トンにも及ぶと推定されています。

《“廃炉”の全体工程》

「燃料デブリ」が大量に残る中、どのように廃炉を進めるのか。
国と東京電力は、「中長期ロードマップ」という廃炉の道筋を示す工程表を策定。

廃炉にかかる期間を最長40年としたうえで3つの時期に分けて作業を進めます。

第1期は、原子炉建屋の使用済み燃料プールに残された核燃料の取り出しに着手するまでの期間。

第2期は、1号機から3号機でメルトダウンによって発生した「燃料デブリ」の取り出しに着手するまでの期間。

第3期は、燃料デブリの取り出しのほか事故で汚染した建屋の解体などすべての廃炉作業が終わるまでの期間で、作業がもっとも難しく長期間かかると見込まれています。

このうち第1期は、水素爆発が起きた4号機で2013年11月に使用済み燃料プールの核燃料取り出しが始まったため終了しています。

現在は、「燃料デブリ」の取り出しに向けた準備が続いている状況で、第2期の終盤を迎えています。

ただ、高い放射線量に阻まれる中、予期せぬトラブルで工程の見直しを余儀なくされるケースも多く、実際の取り出しに着手できる具体的なタイミングは見通せていません。

《デブリ取り出し着手は》

国と東京電力は、「燃料デブリ」の取り出しをメルトダウンが起きた2号機からことし中に始めたいとしています。

「中長期ロードマップ」では、当初、去年までに始まる計画でしたが、取り出しに使うロボットの開発が新型コロナウイルスの影響で遅れるなどしたため1年程度遅らせることを明らかにしています。

《2号機から取り出しへ》

なぜ2号機から始めるのか。
メルトダウンが起きた3基のうち2号機は、格納容器の側面にある貫通部の周辺に障害となるものが少なくロボットなどを投入した調査が進んだことから格納容器内部の調査がこの間、もっとも進みました。

2018年の調査では「燃料デブリ」とみられる堆積物を初めて確認し、2019年にはロボットで堆積物に触れて、粒状の塊をつかんだり動かしたりできることを確認しています。

初めての取り出しは、イギリスで開発されたアーム型のロボットを遠隔で操作して行う予定で、先月から福島県楢葉町にある現場を模擬した施設で作業員による操作訓練などが行われています。

ただ、初期の取り出しは試験的なものと位置づけられ、ロボットの先端に取り付けた金属製のブラシで堆積物をこすり取って採取する予定で、数グラム程度にとどまる見通しです。

国と東京電力は、取り出す量の規模を段階的に拡大するとしていますが、金属製の構造物などが混ざり合った燃料デブリの化学的な特性や状態の詳しい分析はこれからで、必要な技術開発などにどのくらいの時間を要するかなど「試験的な取り出し」に続く先の見通しは立っていません。

《1号機と3号機は調査段階》

また、1号機と3号機では、2号機よりも内部の調査が遅れ、燃料デブリの取り出しに着手できる見通しは立っていません。

1号機では、先月8日からロボットを使って原子炉を覆う格納容器内部の調査に着手し、塊状の堆積物が映像などで確認されました。

映像では、原子炉を支える構造物「ペデスタル」の開口部の内側に塊状の堆積物が写っているのが確認され、東京電力は、「原子炉の真下で見つかったため『燃料デブリ』の可能性もある」と説明しています。

1号機では、核燃料が周辺の構造物と複雑に絡み合って溶け落ちているとみられ、まずは堆積物の広がりや状態を把握するための調査を半年程度継続するとしています。

3号機では、5年前、2017年の調査で燃料デブリの可能性が高い塊が確認されましたが、多くが水につかっている状態にあることなどから、2号機とは違ったアプローチで準備を進める必要があるとして、今後10年程度かけて取り出し開始を目指す計画です。

《使用済み燃料プールの核燃料搬出は道半ば》

冷却を続ける必要があるものが「燃料デブリ」以外にもあります。
使用済み燃料プールにある核燃料です。

使用済み核燃料は、原子炉から取り出された後も、熱や放射線を発し続けるため原子炉建屋の最上階にあるプールで保管され、水を循環させることで高温にならないよう冷やします。

災害やトラブルなどの影響で、冷却が維持できなくなると事故につながるおそれがあります。

福島第一原発は、1号機から3号機でメルトダウンが起きたほか、1号機、3号機、4号機で水素爆発が起きた影響で、原子炉建屋内の放射線量が高く建屋の損傷も激しいことから、人が立ち入って作業するのは難しい状況にあります。

事故が起きた当時、核燃料は▽1号機のプールに392体、▽2号機のプールに615体、▽3号機のプールに1535体、▽4号機のプールに566体、合わせて3108体あり、国と東京電力は2031年までに専用の施設に移す計画です。

このうち、▽4号機では2014年12月までに、▽3号機では去年2月までにそれぞれすべて搬出されました。

1号機と2号機のそれぞれのプールに残る1000体余りの核燃料は、搬出作業の準備が続いていて特に1号機では、水素爆発で壊れた原子炉建屋の屋根などのがれきがプールを覆うなどしているため、慎重な作業が求められています。

《廃炉「最終形」まだ見えず》

廃炉作業の完了はいつ、どのような形になるのか。

国と東京電力は、廃炉の工程を示した「中長期ロードマップ」では、完了の時期を2011年を起点に30年から40年後と示していますが、完了した状態がどのような姿になるのかは記載がありません。

福島県や福島第一原発の周辺の市町村は、取り出した燃料デブリや使用済み核燃料などを含め、放射性廃棄物をすべて県外で処分するよう求めています。

一方で、東京電力は「燃料デブリを含めた廃棄物の処理について議論するために必要な技術的なデータがまだ得られていない」として、「さら地」にするかを含め、現段階では議論すら難しいとしています。

東京電力は、福島第一原発の1号機から4号機に加え、敷地の北側にある5号機と6号機、福島第一原発の南にある福島第二原発の1号機から4号機も廃炉を決めています。

これらの原発は、東日本大震災では大きな被害を受けずに停止した状態が続きましたが、原発事故によって多くの住民が避難した周辺自治体からの強い要望などを受けて、廃炉が決定。

この結果、東京電力が福島に設置した10基の原発はすべて廃炉が決まりました。

史上最悪レベルの原発事故から11年。

東京電力は、事故を起こした4基を含む10基の廃炉作業を並行して進めるという世界でも例のない取り組みが長期にわたって続くことになります。

処理水放出

《汚染水とは》

福島第一原子力発電所では、「メルトダウン」を起こした1号機から3号機の原子炉内部に溶け落ちた後固まった核燃料が今も残ったままです。

この核燃料を冷やすために注水が継続していることに加え、建屋内に地下水や雨水の流入が続いているため、放射性物質を含む汚染水が1日およそ150トンのペースで発生しています。

《処理水発生のメカニズム》

これらの汚染水は、「ALPS(アルプス)」=多核種除去設備に送られ、薬液による沈殿処理や活性炭など放射性物質を吸着する素材により大半が取り除かれます。

ただ、水の中に残ってしまうのが「トリチウム」です。

「トリチウム」は日本語で「三重水素」と呼ばれる水素の一種で化学的な方法で分離して除去するのが難しい放射性物質です。

汚染水からALPSなどで大半の放射性物質を基準値以下まで浄化処理した水が「トリチウムなどの放射性物質を含む処理水」、いわゆる「処理水」となります。

《処理水の保管は》

「処理水」は、福島第一原発構内の大型タンクで保管されています。

現在、敷地内に大型タンクは1000基余り設置され、容量はおよそ137万トンありますが、すでに9割以上が処理水で満たされ、ことしの秋以降に満杯になる見通しです。

敷地内には空きスペースもありますが、政府や東京電力は、今後、溶け落ちた核燃料や使用済み燃料の一時保管施設などを建設する必要があるためタンクを増やし続けることはできないとしています。

《海洋放出決定までの流れ》

このため政府は、処理水の処分方法について2013年から検討を行い、
▽加熱して蒸発させ、大気中に放出する案や、
▽地中深くの地層に注入する案なども議論されましたが、
去年4月、基準以下に薄めるなどして海に放出する方針を決めました。

海への放出にあたって、政府は、処理水を海に放出する際のトリチウムの濃度について、基準の40分の1となる1リットル当たり1500ベクレルを下回る水準まで薄めることにしています。

また、1年間に放出するトリチウムの量は、事故の前、福島第一原発が通常の運転をしていたときに目安とされていた、22兆ベクレルを下回る水準になるようにしています。

《放出向けた準備着々と》

政府は、来年春をめどに処理水を海に放出する方針で、東京電力は海底トンネルを通して原発の1キロほど沖合から放出する計画を示しています。

東京電力は、去年暮れから海底トンネルの建設に向けたボーリング調査の実施や、処理水を放出前にためておく立て坑の建設工事を開始するなど来年春のスケジュールを見据え、準備を着々と進めています。

また、去年12月には、原子力規制委員会に処理水を海に放出するための設備の設計や緊急時の対策などを記載した実施計画を提出。

実施計画では、処理水を海水で薄める手順や、薄めた処理水を沖合1キロから放出するために建設する海底トンネルの設計などが記載され、現在、規制委員会が計画が妥当か審査しています。

東京電力は、規制委員会から認可を受け、地元や関係者の理解を得たうえで、ことし6月ごろから、処理水を海水で薄める設備や海底トンネルなどの工事に着手したいとしていて、国の方針に従って、来年4月中旬ごろの工事完了を目指しています。

《東電“影響は軽微”》

処理水を海に放出した場合の人や環境に与える影響について東京電力は「極めて軽微」としています。

理由として挙げているのが、東京電力が実施したシミュレーションです。

「処理水」を海に放出した場合の被ばくによる影響について海水中のトリチウムの濃度が今より高い1リットル当たり1ベクレル以上になるのは原発周辺の2キロから3キロの海域にとどまったということです。

また、処理水を放出する海底トンネルの出口付近では1リットル当たり30ベクレル程度の場所がありましたが、濃度は周辺に広がる過程で、速やかに低下したとしています。

この結果を踏まえて、沿岸で暮らす漁業者の年間の被ばく量を試算。

成人のうち一日当たり80グラム程度海産物を摂取すると仮定した場合、1年間に浴びても差し支えないとされる1ミリシーベルトの6万分の1から1万分の1程度だったほか、海水中に生息する動植物の被ばく量の試算結果も国際基準を大きく下回ったということです。

《海洋放出には反発も》

しかし、処理水の放出は、地元の漁連などを中心に風評被害を懸念する声が根強くあるほか、中国や韓国が反発や懸念を表明しています。

全漁連=全国漁業協同組合連合会は去年12月、政府の方針に対して「一方的に進められようとしていることは極めて遺憾だ。漁業者や国民の理解を得られない処理水の海洋放出に断固反対だと改めて表明する」とする声明を出して抗議しています。

政府は、処理水の海洋放出にあたって、放射性物質の濃度を測定するモニタリング体制を強化する方針で、原子力規制委員会や環境省がトリチウムを計測する地点を現在の12地点からおよそ50地点に増やすことにしています。

また、設備の審査やモニタリングの結果については、第三者の視点からIAEA=国際原子力機関から助言を求めることにしています。

先月にはIAEAの調査団が処理水を海に流す場合の安全性や環境への影響を検証する目的で福島第一原発を訪問。

IAEAは海洋放出が始まるまでに検証結果を取りまとめることにしています。

一方で、東京電力は処理水の海洋放出に向けた工事の着工前に、福島県や立地する大熊町と双葉町から事前了解を得ることにしていますが、漁業関係者については「丁寧に説明する」という表現にとどまっています。

2015年には政府と東京電力が福島県漁連に対し、処理水について「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」と約束しました。

しかし、海洋放出の方針は去年、漁業者の理解が得られないまま決定されました。

政府と東京電力は、来年春の海洋放出まで福島県漁連や全漁連などに対して理解を得られるよう説明を続けるとしていますが漁業関係者からは強い反発が続いています。

政府と東京電力はどのように対応するのか注目されます。

全国の原発は

福島第一原発の事故のあと、事故の教訓を踏まえた新しい規制基準の審査に10原発17基が合格し、これまでに6原発10基が再稼働しました。

《再稼働はすべて加圧水型》

国内には現在、廃炉が決まった原発を除くと、建設中を含め17原発36基の原発があり、このうち27基で、再稼働の前提となる審査が原子力規制委員会に申請されました。

審査は、事故の教訓を踏まえた新しい規制基準に基づいて行われ、原発で想定される地震や津波、火山などの自然災害への対策や、電源の喪失などで核燃料が冷却できなくなるような重大事故への対策が厳しく求められました。

審査が先行したのは「PWR」、「加圧水型」の原発です。

原子炉内部の水を高温にして高い圧力を加え、別の配管を流れる水に熱を伝えて蒸気を作り、タービンを回して発電する型式で事故を起こしたタイプとは異なります。

これまでに6原発12基が審査に合格し、このうち、
▽鹿児島県にある川内原発1号機と2号機、
▽佐賀県にある玄海原発3号機と4号機、
▽愛媛県にある伊方原発3号機、
それに、
▽福井県にある高浜原発3号機と4号機、大飯原発3号機と4号機、美浜原発3号機の合わせて6原発10基が再稼働しました。

《福島第一原発と同型は再稼働進まず》

一方、原子炉に挿入した核燃料の熱で炉内の水を直接沸騰させ、発生した蒸気の力でタービンを回して発電する、福島第一原発と同じ「BWR」、「沸騰水型」の原発は、
▼新潟県にある柏崎刈羽原発6号機と7号機、
▼茨城県にある東海第二原発、
▼宮城県にある女川原発2号機、
それに、
▼島根県にある島根原発2号機の4原発5基が審査に合格しました。

このうち、新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発では去年、テロ対策をめぐる重大な不備が相次いで明らかになり、規制委員会は核燃料の移動を禁止する是正措置の行政処分を決定。

現在、東京電力が提出した再発防止策などを確認するための検査が行われています。

このほかの原発でも地元自治体の了解が得られていなかったり、安全対策工事が終わっていなかったりして、現時点で再稼働したものはありません。

《40年超運転も》

また去年は原発の長期運転をめぐって大きな動きがありました。

去年6月、福井県にある関西電力美浜原発3号機が福島第一原発の事故のあと全国で初めて運転開始から40年を超えて再稼働しました。

原発事故のあと国内の原発の運転期間は原則40年に制限されていますが、規制委員会の認可を得られれば最長で60年まで運転できることになっています。

これまでに美浜原発3号機を含めて4基が規制委員会の認可を得ているほか、去年10月には、九州電力が鹿児島県にある川内原発1号機と2号機で40年を超えた運転に必要な「特別点検」を行うことを発表し今ある原発をできるだけ長く利用しようとする動きが出ています。

《「廃炉の時代」》

一方、多額の安全対策費用などを理由に電力会社が十分な利益が見込めない古い原発や発電量が少ない原発を廃炉にするケースも相次いでいます。

原発事故後に廃炉を決めたのは、東京電力の福島第一原発と福島第二原発を除くと、福井県にある▽敦賀原発1号機▽美浜原発1号機、2号機、▽大飯原発1号機、2号機、佐賀県にある▽玄海原発1号機、2号機、島根県にある▽島根原発1号機、愛媛県にある▽伊方原発1号機、2号機、宮城県にある▽女川原発1号機の7原発11基です。

(東海発電所と、浜岡原発1号機と2号機は震災前に廃炉がすでに決定)。

規制委の最新調査

《規制委が調査・分析》

福島第一原子力発電所で起きた史上最悪レベルの原発事故。

その原因を詳しく分析するため、原子力規制委員会は3年前の秋から現地調査を本格的に始めました。

規制委員会が主体的に調査を始めた背景には、時間の経過によって現場の放射線量が少しずつ下がっていることに加えて、廃炉作業に伴う設備の解体や撤去などによって事故を分析するための現場が失われるおそれがあるという大きく2つの点がありました。

これまでも政府や東京電力などが事故直後から原因を分析してきましたが、規制委員会による最新の調査で事故に至った状況を知る「手がかり」が見えてきました。

《1、高い汚染が意外な場所に》

規制委員会が着目したのは、「メルトダウン」を起こした1号機から3号機の核燃料に含まれていた大量の放射性物質の“行方”です。

1号機から3号機の3基の原子炉にあった放射性物質の量は、すべてあわせるとおよそ※70京ベクレルあったと言われています。
(※京は「兆」の1万倍※)

当時の規制当局、原子力安全・保安院などが調べたところ、このうち64%余りは、事故直後に外部に放出されたほか、核燃料を冷やしたあとに出る汚染水に含まれ、処理設備で回収されるなどしましたが、残るおよそ36%の行方が分かっていません。

そこで規制委員会は、原子炉建屋の内部の調査や、過去に実施されてきた放射線量の測定結果を収集して放射性物質がとどまっている場所がないか、探りました。

詳細に分析した結果、2号機と3号機の原子炉建屋の上部にある3枚重ねのコンクリート製のふた「シールドプラグ」の裏側から強い放射線が出ていることが判明。

大量の放射性物質が付着している可能性があることをつかみました。

その量は、合わせて最大※7京ベクレル、全体のおよそ10%に当たるということです。

一方で、汚染が予想以上に激しく、仮に廃炉に向けてこれらのふたを取り外す場合、人が近寄って安全に作業するには放射線量が高いため、極めて困難になると指摘しています。

《2、「ベント」でガス逆流か》

また、「メルトダウン」した3基では、原子炉がある格納容器を守るため中の気体を外に放出させて圧力を下げる「ベント」という操作を試みました。

「ベント」は、格納容器内にある放射性物質を含んだ気体を外に出すことで、格納容器が内側からの強い圧力で壊れないようにするねらいがあります。

さらに、「メルトダウン」に伴って生じる水素も排出できることから水素爆発による放射性物質の大量拡散を防ぐいわば「最終手段」です。

ところが「ベント」用の配管は、構造上、直接外につながっておらず、別の配管と接続されていて、「ベント」を実施した1号機と3号機は気体の一部が別の配管を経由して建屋に逆流していたことも判明。

これによって、建屋の中にも「ベント」したガスが流れ込み、内部の汚染を広げた可能性があるほか逆流した気体には水素も含まれ、水素爆発につながったおそれもあることが分かりました。

《3、爆発には水素以外のガスの混在か》

さらに、水素爆発を起こした当時の映像を取り寄せて検証。
中でも3号機の爆発では、爆発の火炎の色や黒煙が上昇する様子などを詳しく分析しました。

その結果、爆発の主な原因となった水素とは異なる、可燃性ガスも混ざっていた可能性が高いと推測しました。

《最新調査と今後の見通し》

規制委員会は、調査で判明した新たな「手がかり」について今後、原発の規制基準に取り入れて追加の対策を求めるべきか、議論することにしています。

また、電力各社も規制委員会の調査に協力する意向を示していて、調査で新たな安全対策が必要と判断された場合、各社の原発に反映する方針です。

史上最悪レベルの原発事故の原因の解明に向けた調査は、廃炉作業の進捗(しんちょく)に伴って当時の現場が徐々に取り除かれています。

事故から11年がたち、限られた時間の中で調査がどの程度進むのか、注目されます。

放射性廃棄物

《廃炉で増える放射性廃棄物》

福島第一原発の廃炉作業に伴って増えるのが、放射性物質が付着したコンクリートや金属のがれきなどといった、解体作業などで出る放射性廃棄物です。

放射性廃棄物の総量は年々増え続けていて、ことし1月末の時点でおよそ48万立方メートルに上り、10年後には79万立方メートルになる見通しです。

これらの多くは屋外の決まった場所で一時的に保管していますが、すぐに運び込めないがれきなどは原則1年を上限に仮設の集積場に置いています。

《不適切管理も》

これらの放射性廃棄物の管理が、不適切だったことが去年相次いで明らかになりました。

去年3月には、がれきを保管していたコンテナが腐食し、ゲル状の塊が流出。

表面の放射線量は、1時間当たり13ミリシーベルトと比較的高い値で、コンテナにたまっていた紙、布、樹脂製の配管などさまざまな放射性廃棄物が混ざり合って漏れ出し、塊になっていたことが東京電力の調査で分かりました。

このほか、コンテナからの水漏れも発生し、放射性廃棄物を保管しているコンテナ、5300基余りを点検した結果、およそ1割に当たる540基余りで腐食やへこみが確認されました。

また、事故直後など比較的早い時期に廃棄物を入れたコンテナには詳細な中身が把握できていないものもあり、所有者や中身が表記されていないコンテナなどに入った放射性廃棄物が合わせて800か所余りで確認されました。

《新たな課題も》

東京電力は、こうした放射性廃棄物の不適切な管理を受けて、目視によるパトロールやコンテナの定期的な点検など対策を講じています。

しかし、こうした作業に時間がかかり、結果として一時保管エリアでの放射性廃棄物の保管の受け入れが滞る事態も発生して、仮設の集積場で保管する廃棄物が急増しました。

仮設の集積場では、一時保管エリアに比べてコンテナの管理が不適切だという指摘もあるため、東京電力は、一時保管エリアを増やすほか集積場の運用方法を見直すことで仮設した集積場の削減を目指しています。

こうした事態に原子力規制委員会は、放射性廃棄物の管理について、敷地内で保管する場合は、安全かつ円滑に廃炉を進めるうえで一時的に埋める方法も検討すべきだとする考えを示しています。

東京電力は、がれきに含まれる木材や紙、伐採した木などを焼却する施設を3月から稼働させる計画で、焼却などによる処理を進めて2028年度までには放射性廃棄物の保管場所をすべて屋内で行うとしています。

一方で、焼却できない廃棄物は切断したり粉砕したりしたうえで容器に入れて保管する必要がありますが、こうした放射性廃棄物を廃炉作業の完了後にどのように保管するのかは決まっていません。

また、国は、廃炉の工程表の中で廃棄物を「搬出する」としていて、福島県や地元自治体は県外での処分を求めていますが、これまでのところ、国や東京電力からの明確な回答はありません。

国や東京電力は、新たに出た放射性廃棄物の処分を含め、廃炉作業がどのような形で完了するのか、地元など関係者とともに具体的に進めることが求められています。