パナソニックの勝算は?EV電池 投資競争

世界の自動車メーカーの間で、EV=電気自動車へのシフトが加速しています。そんな中、いま需要が急速に伸びているのが、EV向けのリチウムイオン電池。中国や韓国をはじめとする各国のメーカーは、性能が高い電池を少しでも価格を抑えて生産しようと、投資を加速させています。激しい国際競争の中、この分野の日本最大手、パナソニックはどのような戦略を描いているのか、迫ります。(大阪放送局記者 甲木智和)
パナソニック“4680”への期待
「4680」(ヨンロクハチマル)記号のような無機質な名前ですが、実は、パナソニックが開発した新型の車載電池の名前です。

直径46ミリ、長さ80ミリの円筒形で、従来のものと比べると直径は2倍以上。EVの航続距離を大幅に(従来の電池よりおよそ2割)伸ばすことが見込めるとしています。仮に1回の充電で600キロ走ったとすると、同じ容量でも720キロに伸びる計算です。
ことし2月。パナソニックの梅田博和CFOは会見で、この「4680」について、まずは和歌山県の工場で量産に向けて生産ラインを新設することを明らかにしました。
ことし2月。パナソニックの梅田博和CFOは会見で、この「4680」について、まずは和歌山県の工場で量産に向けて生産ラインを新設することを明らかにしました。

投資額は700億円から800億円程度とみられ、2023年度の後半には検証作業を進めながら量産に入りたい考えです。
ただ、こうした投資の規模やスピード感は、EVシフトの波に乗ろうとするライバル企業に比べると見劣りすると言わざるをえないのが現状です。
ただ、こうした投資の規模やスピード感は、EVシフトの波に乗ろうとするライバル企業に比べると見劣りすると言わざるをえないのが現状です。
開発競争をリード、巨額投資を続ける中韓勢
世界的にEVシフトが加速する中、EV向けリチウムイオン電池の開発競争をけん引するのが中国と韓国勢です。
巨額の投資でビジネスを加速させ、そのシェアも大きく伸ばしています。
巨額の投資でビジネスを加速させ、そのシェアも大きく伸ばしています。

とりわけ勢いがあるのが、車載電池の世界トップメーカーである中国のCATL(寧徳時代)。まだ中国の自動車メーカー関連の売り上げが8割を占めますが、アメリカのテスラやドイツのBMW、それに日本のホンダなどにも電池を供給するまでに成長しました。工場建設のため、数千億円規模の投資を相次いで打ち出しています。

2位の韓国・LGエナジーソリューションも追随する動きを見せています。韓国のLG化学の傘下にある電池メーカーで、ことし1月に韓国の証券取引所に上場。それによって、日本円にして約1兆2000億円以上を調達し、その多くをアメリカなどでの工場建設に充てて、首位の座を奪う勢いです。

車載電池分野に詳しい関係者は、「パナソニックは海外勢に、投資の規模、そしてスピードでも差をつけられている」と指摘します。
巨額の投資を行った末、赤字が膨らみ撤退することになった、かつてのプラズマテレビのように、巨額投資は、そのタイミングを見誤ると経営悪化に直結するリスクもはらんでいます。
ただ、リスクを恐れて慎重な投資を続けている間に、中韓勢の背中は遠ざかりつつあるようにも見えます。
巨額の投資を行った末、赤字が膨らみ撤退することになった、かつてのプラズマテレビのように、巨額投資は、そのタイミングを見誤ると経営悪化に直結するリスクもはらんでいます。
ただ、リスクを恐れて慎重な投資を続けている間に、中韓勢の背中は遠ざかりつつあるようにも見えます。
パナソニックの戦略は
競争が一段と激しさを増す電池の分野。かつて世界一の座を快走していたパナソニックは巻き返しに向けて、どのような戦略を描いているのでしょうか。
冒頭に挙げた記者会見で、梅田CFOは和歌山での生産ラインの新設について、「テスラから非常に強い要請がある」と発言。
決断の裏側に、EVの販売台数で世界シェア1位のテスラの存在があったことを明らかにしました。
冒頭に挙げた記者会見で、梅田CFOは和歌山での生産ラインの新設について、「テスラから非常に強い要請がある」と発言。
決断の裏側に、EVの販売台数で世界シェア1位のテスラの存在があったことを明らかにしました。

“テスラの言われるがまま”苦い経験
両社が提携するきっかけとなったのは2006年。現在はパナソニックの子会社となった三洋電機が、当時まだベンチャー企業だったテスラの初代EVに電池の供給を始めたのです。
2010年にはパナソニックとしてテスラに出資(株はすでに売却済み)。その後、テスラと共同運営するアメリカ・ネバダ州の「ギガファクトリー」に、2020年までに2000億円を超えるとも言われる大規模な投資を行ってきました。
2010年にはパナソニックとしてテスラに出資(株はすでに売却済み)。その後、テスラと共同運営するアメリカ・ネバダ州の「ギガファクトリー」に、2020年までに2000億円を超えるとも言われる大規模な投資を行ってきました。

しかし、現地での技術者の確保や安定した生産体制の確立など、課題は山積。投資の決定から事業の黒字化までおよそ5年を要しました。
「ネバダでは、テスラの言われるがままだった」
ある幹部がこう振り返るほど苦い経験として刻まれ、今もなお、巨額の投資をためらわせる一因になっています。
「ネバダでは、テスラの言われるがままだった」
ある幹部がこう振り返るほど苦い経験として刻まれ、今もなお、巨額の投資をためらわせる一因になっています。
次の巨額投資に踏み切るか… カギ握る和歌山工場
こうした中、新たに生産ラインが設けられる和歌山県の工場は、次の巨額投資に向けて大きなカギを握るとみられています。
テスラは現在、テキサス州で新たな生産拠点の建設を進めています。去年秋ごろから、関係者の間では、ここに電池を供給するため、パナソニックが数千億円規模の投資に踏み切るのではないかという見方が広がっていました。
私もここ数か月、このテーマを追いかけてきました。
今、パナソニックが下そうとしている決断は、テキサスにアクセスしやすい南部のオクラホマ州や中西部のカンザス州で、工場用地を確保するため、数十億円規模の投資を行うというものでした。
ただ、工場建設という巨額の投資には、社内でも依然としてためらう声が多いのも実情なようです。
テスラは現在、テキサス州で新たな生産拠点の建設を進めています。去年秋ごろから、関係者の間では、ここに電池を供給するため、パナソニックが数千億円規模の投資に踏み切るのではないかという見方が広がっていました。
私もここ数か月、このテーマを追いかけてきました。
今、パナソニックが下そうとしている決断は、テキサスにアクセスしやすい南部のオクラホマ州や中西部のカンザス州で、工場用地を確保するため、数十億円規模の投資を行うというものでした。
ただ、工場建設という巨額の投資には、社内でも依然としてためらう声が多いのも実情なようです。
パナソニックの幹部
「工場建設のような巨額の投資は、和歌山工場での検証で見極めてからだ。取締役会でも巨額投資への厳しい意見は多い」
「工場建設のような巨額の投資は、和歌山工場での検証で見極めてからだ。取締役会でも巨額投資への厳しい意見は多い」

このため、まずは同じ電池の生産を先行して開始する和歌山の工場でコストを抑える方法や量産技術などを確立を目指します。
次の段階として、工場用地がある地元の州政府などの補助金も活用しながら、数千億円規模の投資に踏み切るかどうかを決断する、二段構えの戦略を取ることになったのです。
次の段階として、工場用地がある地元の州政府などの補助金も活用しながら、数千億円規模の投資に踏み切るかどうかを決断する、二段構えの戦略を取ることになったのです。
テスラとの関係は強みか?リスクか?
一方で、テスラとの関係は今後どうなっていくのでしょうか。

テスラとの関係の深さは、パナソニックの強みですが、同時に、弱みにもなり得ます。
中国・CATLは中国工場でテスラと連携。
韓国・LGエナジーソリューションも新型電池「4680」の量産に注力し、テスラへのアプローチを強めています。
業界に詳しい関係者からは「アメリカへの投資に踏み切らなければ、テスラから『もう君(パナソニック)じゃなくていい』と言われかねない」と懸念する声もあります。
ただ、パナソニックにとって、テスラとの協業関係を保つために、投資資金をどう捻出するのかは大きな課題です。
というのも、去年、7700億円余りで、アメリカのソフトウエア会社を買収したところで、投資の余力が減っているという事情もあるからです。
一方で、「テスラ依存」からの脱却を進めていくことも重要な課題です。
現在、パナソニックが生産する車載用の円筒型の電池は、ほぼすべてテスラ向けです。
トヨタとは、テスラに供給する円筒型とは異なる、角型の電池を生産する合弁会社を立ち上げたほか、新型電池「4680」を、他の自動車メーカーに販売していくことも視野に入れていますが、テスラ以外との取り引きがどこまで広がるかはまだ明確には見通せていません。
中国・CATLは中国工場でテスラと連携。
韓国・LGエナジーソリューションも新型電池「4680」の量産に注力し、テスラへのアプローチを強めています。
業界に詳しい関係者からは「アメリカへの投資に踏み切らなければ、テスラから『もう君(パナソニック)じゃなくていい』と言われかねない」と懸念する声もあります。
ただ、パナソニックにとって、テスラとの協業関係を保つために、投資資金をどう捻出するのかは大きな課題です。
というのも、去年、7700億円余りで、アメリカのソフトウエア会社を買収したところで、投資の余力が減っているという事情もあるからです。
一方で、「テスラ依存」からの脱却を進めていくことも重要な課題です。
現在、パナソニックが生産する車載用の円筒型の電池は、ほぼすべてテスラ向けです。
トヨタとは、テスラに供給する円筒型とは異なる、角型の電池を生産する合弁会社を立ち上げたほか、新型電池「4680」を、他の自動車メーカーに販売していくことも視野に入れていますが、テスラ以外との取り引きがどこまで広がるかはまだ明確には見通せていません。
競争力を保っている数少ない分野だからこそ
ことし4月には持ち株会社制に移行し、電池事業は、独立した事業会社としてスタートすることになります。
この組織改革には、それぞれの事業のスピード感や競争力を高めていくというねらいがあります。
電池事業を担う新たな会社は、どのようなビジョンを描き、国際競争に勝ち抜いていこうとしているのか、いま、まさに議論が本格化しているところです。
電池事業は日本企業が競争力を保っている数少ない分野でもあります。パナソニックが成長に向かって挑戦を続けることができるのか、今後の発信に期待したいと思います。
この組織改革には、それぞれの事業のスピード感や競争力を高めていくというねらいがあります。
電池事業を担う新たな会社は、どのようなビジョンを描き、国際競争に勝ち抜いていこうとしているのか、いま、まさに議論が本格化しているところです。
電池事業は日本企業が競争力を保っている数少ない分野でもあります。パナソニックが成長に向かって挑戦を続けることができるのか、今後の発信に期待したいと思います。

大阪放送局
甲木智和
2007年入局
経済部で金融業界などを取材し、現在、大阪局で経済担当
甲木智和
2007年入局
経済部で金融業界などを取材し、現在、大阪局で経済担当