人気ネット漫画からみるコロナ禍の子育て事情

人気ネット漫画からみるコロナ禍の子育て事情
コロナ禍となって2年がたついま、子育てを取り上げたSNS上のネット漫画が人気を集めています。子育てに取り組む作者自身が感じた苦労や悩み、ときには怒りや落胆をコミカルに描いていて、読者からは共感の声が多く寄せられています。
「外出できず誰にも悩みを相談できない」「在宅時間が増えても夫が育児をしない」
共感を集める背景には、こうしたコロナ禍での子育ての「もやもや」がありました。(つながれ!チエノワ取材班)

パパの子育て奮闘マンガ SNSで話題に

いまSNSで広くシェアされて話題になっているのが、男性の作者が子育てする日常を描いた2コマ漫画です。
「お風呂に入れようとしたら、まさかの大泣きで大苦戦した」
「在宅勤務をしていても子どもに呼ばれると反応してしまう」などの日常が軽快なタッチで描かれています。

去年からSNSのツイッターにほぼ毎日投稿されていて、アカウントのフォロワー数が14万に上る人気漫画になっています。
作者の「犬犬」さんは38歳。

デザイン関係の仕事をしていて、在宅勤務の休憩時間などに漫画を書いてツイッターで発信しています。

育休中の妻、1歳の息子とともにほとんどの時間を家で過ごしていて、初めての子育てや仕事と育児の両立に苦労することも多いといいます。
そうしたなかで感じた苦労や悩みを作品にして投稿すると、多くの共感の声や励ましが寄せられ、なかには具体的なアドバイスを寄せてくれる人もいるということで、犬犬さんの心の支えになっているといいます。
犬犬さん
「コロナ禍で同じ年ぐらいの子どもや親と交流することもなく、情報が入ってこないんです。『同じようなことがあるんだ』ってコメントで気付かされることも本当に多くて、『うちもあります』と言っていただけると『ああよかった』『安心していいんだな』と思えるんです」
いまの悩みは、仕事と育児を今後どう両立するかです。

妻がまもなく育休を終えて職場に復帰する予定で、応募した保育園に相次いで落選した経緯も漫画にして発信しています。
犬犬さん
「今後どうなるんだろうって本当に不安です。どうすればいいのかわからないので探り探りやっていくしかないと思っています」
犬犬さんの妻
「いまは2人とも家にいるので育児メインですが、職場復帰したら仕事と育児をどうするのか不満になってきてもめることもあるかなと思います」

“パパ育児”ネット記事 注目が急上昇

こうした「男性の育児」への関心が着実に高まっているという分析があります。

ニュースやコラム記事をアプリで配信しているIT企業「スマートニュース」が、過去2年間での記事の閲読傾向の変化を調べたところ、記事のタイトルに「子育て」と「パパ」を含む記事の本数は1.7倍、記事の滞在時間は8倍以上に急増していて、男性の読者の割合も5割から6割以上に変化していました。
また、人気の記事のタイトルをみていくと「イクメン」「夫」「怒り」といった、父親と母親の間で生じる子育てへの意識のズレに関することばが多くなっていました。

担当者は、コロナ禍を通して夫と妻が家でともに過ごす時間が増える中で、「イクメンぶる夫へのイライラ」など新たな悩みが定着しつつあるのではないかと分析しています。
スマートニュースの担当者
「父親側はまずは育児をしないと怒られる状況になったのだけれど、やったらやったで、やってるって主張しても怒られるみたいな戸惑いのようなものが反映されていると思います。記事のタイトルをみて私自身も言われている感じがしましたね」

夫の言動に妻が“白目”?

「父親と母親の意識のズレ」を描いたネット漫画もいま人気となっています。

子育てをめぐる夫の言動に妻が「白目」になってしまうイラストは、主にインスタグラムでほぼ毎日投稿されていて、フォロワーが9万に上る人気アカウントです。
作者の「白目みさえ」さんは、臨床心理士の仕事をしながら、夫や子どもとの日常や悩みを漫画にして投稿しています。

なかでも「夫との認識のズレ」は人気のテーマで、夫婦で思いつく家事の種類を書き出したこの作品では、白目さんが200種類を書き出したのに対して、夫は10種類でした。
白目さん
「夫にとっては自分がやっている家事がすべてだという認識ですけど、私にとってはそのほかの残りの家事を私がやっているという認識で、そもそもの家事の総数の認識がお互いにずれていました」
こうした夫への怒りや落胆といった感情を、ユーモアを交えて描く白目さんのもとには、「わかるわかる」「私もそんな気持ちだった」といった共感の声が寄せられています。

臨床心理士でもある白目さんに知ってもらいたいと深刻な悩みも寄せられていて、なかには「なんで子どもを生んでしまったんだろう」「離婚を考えるくらい苦痛です」といった声もあったといいます。
白目さん
「孤独感って、その人が物理的に一緒にいるいないではなくて、同じ気持ちでいてくれる人がいないということがすごく大きいと思います。すごく大変な状況なのに、一緒にいる人が同じ気持ちではないと、孤独感をむしろより強く感じるんじゃないかなと思います」

ビッグデータからみる「コロナ禍の子育ての悩み」

コロナ禍での子育ての悩みの広がりはSNSのビッグデータからも見えてきました。
ツイッターの投稿を分析したところ、コロナ禍となったこの2年で「ワンオペ」「育児」「子育て」を含む投稿が増加する傾向になっていました。

ほかにもこの2年で投稿が増えたキーワードを分析すると、「子育て」とともに「パパ」「悩み」「不安」などが増加する傾向にありました。
東京都が未就学の子どもをもつ男女に対して子育てにかける時間をインターネットで尋ねたところ、2019年の調査では、女性が平均で1日当たりおよそ6時間と男性の3倍近くとなっていましたがコロナ禍となった去年6月の調査でも男女ともに大きく変わっておらず、依然として子育ての多くを女性が担っている現状がうかがえます。

専門家「コロナ禍で問題浮き彫りに」

「ワンオペ育児」の研究をしている明治大学の藤田結子教授は、コロナ禍で、育児をめぐるジェンダー意識や勤務時間の柔軟性など、根深い問題が浮き彫りになったと指摘します。
藤田結子教授
「学校や保育園の休校で、食事の準備や片づけ、掃除など家事の量が増えた一方で、高齢者に病気をうつしてはいけないというので、おばあちゃん、親族のサポートが減ってしまった。日本では子育てが母親の役割という意識が強いので、もう少し社会で子育てをするような場をつくっていかないと、結局なにかあった場合に同じような状況になってしまう。母親か、母親の母親に頼るっていうような子育ての仕組みは変えていく必要があると思います」

「つながれ!チエノワ」立ち上げました

こうしたコロナ禍での子育てをめぐる「もやもや」にどう向き合えばいいのでしょうか?NHKではみなさんの抱える悩みを、みなさんから寄せられた知恵で解決しようと、「つながれ!チエノワ」というプロジェクトを立ち上げました。

同じ悩みをもった人や思いのある人がつながって、知恵を出し合いながらいっしょに解決を目指す取り組みで、今後、番組やウェブ記事、NHKのnoteでご紹介していきます。

みなさんが感じているコロナ禍での子育ての悩みや意見を、下記のアンケートフォームのほか、「#コロナ禍のもやもや子育て」をつけたツイートなどで募集しています。

アンケートではこれまでに、「共働きなのに保育園や小学校で子どもが発熱したら、お迎えはいつも私」といった悩みや、「幼稚園がコロナで休みになってずっと子供が家に居て自由がない。掃除ができない。心の限界が来ている」などの声が寄せられています。

また、「支援センターや児童館で親子の知り合いをつくって話すと1人ではないと思えるようになりました」といった経験談も寄せられています。

ぜひみなさんの声をお寄せください。