チェルノブイリ原発 電源喪失 IAEA「安全性に致命的影響なし」

ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所について、ウクライナのクレバ外相は9日午後、電源が失われたとツイッターに投稿しました。

IAEA=国際原子力機関はツイッターへの投稿でウクライナ側から報告を受けたとしたうえで「安全性への致命的な影響はない」としています。

ロシア軍が占拠しているウクライナ北部にあるチェルノブイリ原子力発電所について、ウクライナのクレバ外相は現地時間の9日午後2時ごろツイッターでの投稿で、外部からの電源供給が失われたと投稿しました。

このなかでクレバ外相は「ロシア軍に占拠されているチェルノブイリ原子力発電所への唯一の送電設備が損傷して、すべての電力供給が途絶えた。電力供給を復旧させるためロシアがただちに攻撃をやめるよう国際社会は求めてほしい」としています。

また「予備のディーゼル発電機で48時間は電力が維持できるが、その後は使用済み核燃料の冷却システムがストップするだろう」としています。

IAEA「安全性に致命的影響なし」

IAEA=国際原子力機関は日本時間の午後10時すぎにツイッターに投稿し、ウクライナからの報告として、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所について電力供給が停止されたことを明らかにしたほか、現時点で「安全性への致命的な影響はない」とする見解を示しました。

ツイッターでIAEAのグロッシ事務局長は、今回の事態について声明を出し「原発に電力供給を続けるという安全性の担保を揺るがすものだ」としています。

また、その直後の投稿でこれまでの情報を更新し、チェルノブイリ原発にある使用済み核燃料は保管している専用のプールに冷却用の水が十分にあるため、電力供給が停止しているが冷却機能を十分維持しているとしています。

ウクライナ原子力規制機関“キエフの高圧電線の停電が影響”

ウクライナの原子力規制機関は、現地時間9日午前11時20分すぎに起きた首都キエフにある高圧電線の停電による影響で、チェルノブイリ原子力発電所にあるすべての施設への電力の供給が停止したと発表しました。

このため、チェルノブイリ原発では、非常用のディーゼル発電機で原発の安全上重要な設備に電力を供給しているということです。

また、非常用のディーゼル発電機は48時間稼働できるとしています。

一方で、ウクライナ国営の電力会社の情報として「周辺地域で戦闘が行われているため、電力供給網の復旧作業が実施できない」としています。

専門家「すぐに大事故考えにくい」

原子力委員会の元委員長代理で長崎大学の鈴木達治郎教授は「廃炉となってから長時間経過していることから使用済み核燃料から出る熱の量は低く、電力が復旧できないとしてもすぐに大事故につながるとは考えにくい」と指摘しました。

そのうえで「電力供給の遮断が意図的かどうかは分からないが、戦争状態であることを考えるとロシアがさらに攻撃を仕掛けてくることも考えられ、非常用電源がもつ48時間以内に復旧できずに事態が悪化することも懸念される。まずは復旧できるかどうかを注視する必要がある」と話していました。
また、原子力発電所の構造に詳しい日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野廣委員長は、チェルノブイリ原発で保管されている使用済み核燃料について「使用済み核燃料は原子炉から取り出されたあとも熱を発するため、専用のプールで保管する。その後も、水を循環させて冷却している使用済み核燃料は一定程度残されている。廃炉になって数十年がたち、冷却はかなり進んでいて、電源が必要ない空冷式の保管方法に変更されたものもある。状況を注視する必要はあるが、すぐに大事故が起きることはないと考える」と指摘しています。

チェルノブイリ原発とは

チェルノブイリ原子力発電所は1978年から1984年にかけて4基が営業運転を開始し、1986年に事故を起こした4号機は、コンクリートなどで覆う「石棺」と外側を覆う巨大なシェルターで、放射性物質の飛散を防ぐための対策が行われています。

また、1号機から3号機は2000年までに順次閉鎖され、世界原子力協会によりますと、この間に発生した2万体あまりの使用済み核燃料が、水で冷やすタイプと空気で冷やすタイプの設備で保管されているということです。