ウクライナ危機で変わる食、生活は?小麦価格高騰で広がる不安

政府は輸入した小麦を製粉会社などに売り渡す価格を来月から17%余り引き上げることを決めました。この価格は過去2番目に高い水準。ウクライナ情勢の緊迫化は、私たちの食や生活にも大きな影響を及ぼし始めています。

「値上げしかないか…」

葛藤する現場を取材しました。

輸入小麦過去2番目の高値に

国内で消費される小麦のうちおよそ9割は輸入で、安定的に確保するため政府は一括して調達し製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直しています。

来月から9月までの売り渡し価格について、農林水産省は主な5つの銘柄の平均で1トン当たり7万2530円と前の半年間と比べて17.3%引き上げることを決めました。この価格は2008年10月期以来、過去2番目に高い水準となります。

要因としては主な産地であるアメリカやカナダでの去年夏の高温や乾燥による不作が大きく影響しました。さらにウクライナ情勢の緊迫化でロシアやウクライナからの小麦の供給不安が広がり、国際価格を押し上げたことも要因になっています。

農林水産省は食品の価格への影響を試算し
▽家庭用薄力粉が1キロ当たり12.1円、率にして4.4%の値上がり
▽食パンが1斤当たり2.6円、1.5%値上がりするとしています。

製粉会社が実際に小麦粉の価格を改定するのは、過去の例ではおよそ3か月後だと農林水産省では説明しています。

お好み焼きが…

広島市中区八丁堀にあるお好み焼店では小麦価格が14年ぶりの高値水準となる中、お好み焼きの生地に使う小麦や小麦を使ったそばやうどんの仕入れ価格が一段と値上がりすることを懸念しています。

さらに鉄板で焼くために使うガスのほか電気といった燃料費の上昇も重なり、コスト負担が重くのしかかっています。

このため店では今後コスト負担が増えれば、お好み焼きの価格やメニューの見直しの検討もせざるをえないということです。

お好み焼き店の運営会社の担当者は「原材料が1円でも2円でも上がると全体的な利益が損なわれる。今は急激なコスト高になっていて企業努力は行いたいが、今後は値上げも考えないといけない時期に来ている」と話していました。

ラーメン店の葛藤

札幌市内を中心に全国で28のラーメン店を展開する会社も不安を募らせています。

この会社はラーメンのめんを自社の工場で製造していますが、このめんの原料の価格が先月、小麦粉の価格上昇で1玉当たり3円から5円値上がりしたということです。

さらに取り引きしている製粉会社からことし6月にも「10%程度、小麦粉の価格を上げる」という連絡があったということです。

ラーメン店を経営する「時計台観光」の鴨田誓一社長は「上げられるものなら上げたいですが、現在のところ原価上昇に伴ってラーメンの値上げをすることは考えていません。お客さんに喜んでもらえることを優先したい。ただ2月に小麦が値上がりしたほかのりなど食材のほとんどが高くなっています。これから小麦がどれくらい値上げされるかも分かりません。今でも結構厳しい」と話していました。

値上げに踏み切る和食店

名古屋市に本社を置く和食チェーンでは、来月から一部のメニューを値上げすることを決めました。

うどんやそばなど小麦を使ったメニューを提供していますが、小麦や食用油などの原材料価格の高騰によって来月からの1年間で2億円から4億円程度の損失が出ると試算していて、値上げはうどんやそばなどが対象で20円から30円ほどの値上げになるということです。

和食チェーンの担当者は「社内努力で値上げしないよう努めてきたが今回の小麦の上昇は相当大きなものがあり悩んだ結果、値上げに踏み切らざるをえないと判断した。ウクライナ情勢はわれわれではどうすることもできないが、早く落ち着いてほしい」と話していました。

コンビニのサンドイッチも

大手コンビニエンスストアではサンドイッチや麺類などを値上げする動きが相次いでいます。

このうち
▽セブン‐イレブン・ジャパンはサンドイッチの一部の商品について、具材やパッケージのリニューアルに合わせる形で今月2日から税抜きで5%から12%程度値上げしました。

また
▽ファミリーマートはパスタの一部商品をリニューアルに合わせて先月末から、税込みでおよそ5%値上げしました。

さらに
▽ローソンはサンドイッチや焼きそばのほか、おにぎりなどおよそ50の商品について8日から税込みで2%から14%程度値上げしました。

理由について各社では小麦をはじめ、食用油などの原材料価格が高騰したことに加え、包材や輸送のコストが上昇したためなどと説明しています。

コンビニ各社では小麦の原材料価格の動向も踏まえながら、必要に応じ引き続き商品価格の見直しを検討するとしています。

逆境でも「う・く・ら・い・な」定食で支援を

小麦価格が値上がりする中でもウクライナの人たちを支援しようと、愛媛県今治市のうどん店では募金に協力した客にうどんの定食を無料で提供するサービスを始めました。

今治市のうどん店が始めた特別メニュー「ウクライナ支援の定食」は
▽うどん
▽黒ごま
▽ライス
▽イベリコ豚、そして
▽生野菜サラダのセットです。

頭文字を縦読みすると…
通常ならば800円相当のメニューになるということですが、利用客1組につき1食限定で金額を問わず募金に協力すれば無料で提供されます。

今月5日からサービスを始め、9日も昼時には家族連れなどが訪れて次々と注文していました。

2人の子どもと募金した40代の女性は「ウクライナで多くの子どもがつらい思いをしているのをテレビで見ると、ひと事ではないと感じます。募金したお金は苦しむ子どもや若者の支援に役立ててほしいです」と話していました。

一方で気がかりなのがうどんの原材料となる小麦の値上がりです。

この店で使う小麦はオーストラリア産ですが、国際的な小麦価格の上昇が仕入れ価格に影響して経営を圧迫することを懸念しています。

それでもウクライナを支援しようと、今月25日までは特別メニューを続けることにしています。
店主の中西裕二さんは「阪神・淡路大震災や東日本大震災では世界の人たちが日本を支えてくれたので、今度は私たちが支援する番だと思います。小麦価格が値上がりし逆境もありますが、支援をできるかぎり続けたい」と話していました。

小麦だけでなく…

ロシアによるウクライナ侵攻を背景にエネルギーや穀物、金属など幅広いものの価格高騰が続いていて、世界経済の先行きへの影響が懸念されます。

ニューヨーク原油市場では8日、原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格が一時、1バレル=129ドル台をつけるなど、高止まりが続いています。アメリカとイギリスがロシア産の原油の輸入の禁止や段階的な停止を相次いで打ち出したことなどが背景です。

またシカゴ商品取引所では7日夜の取り引きで小麦の先物価格が一時、1ブッシェル当たり13ドル63セントまで上昇し、2008年2月以来、およそ14年ぶりに最高値を更新しました。

ロシアとウクライナからの輸出が滞る懸念が続いていて、市場関係者は「ウクライナの港からの輸出にはすでに支障が出ていると伝えられている」と話しています。
ロンドン金属取引所では8日、ニッケルの先物価格が一時、1トン当たり10万1365ドルと前日のおよそ2倍に急騰して最高値をつけ、取引所は取り引きを一時停止する異例の措置をとりました。

ニッケルはステンレスや電気自動車のバッテリーなどに使われ、生産国であるロシアからの供給が滞る懸念から価格が高騰しています。

さらにニューヨーク商品取引所では8日、安全資産とされる金の先物価格が一時、1オンス当たり2078ドル80セントまで上昇し、1年7か月ぶりに最高値を更新しました。

幅広いものの価格高騰が続けば世界的にインフレを加速させることが避けられず、景気に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

国内のガソリン価格も高騰続く

国の委託を受けてガソリン価格を調査している石油情報センターによりますと、今月7日時点のレギュラーガソリンの小売価格は全国平均で1リットル当たり174.6円で先週より1.8円値上がりしました。

また灯油の店頭価格は全国平均で18リットル当たり2060円と、先週より27円値上がりしました。

値上がりはいずれも9週連続で、およそ13年ぶりの高値水準です。

これはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化したことなどで供給不足への警戒感が一段と高まり、原油価格が上昇したことが主な要因です。

政府は小売価格の上昇を抑えるため石油元売り会社への補助金の上限を現在の1リットル当たり5円から25円に引き上げることを決めていて、10日以降は17.7円を元売り会社に支給します。

石油情報センターは「原油価格の上昇分が補助金によって相殺される形になり、来週は今週と同じ価格水準になると見込まれる」と話しています。