ウクライナ 戦禍の子ども病院 過酷な環境で起きていること…

「病院の地下に避難しているため、赤ちゃんが床で寝ています。とても悲惨な環境です」

ウクライナの首都、キエフの子ども病院で働く医師はこう話します。ロシア軍からの攻撃が続く過酷な環境で子どもたちの医療を続けています。病院では今、何が起きているのでしょうか…

■キエフの病院で働く医師

キエフにある子ども病院で働くレシア・リシツァ医師は8日、オンラインで取材に応じてくれました。

1. 現在の病院の様子は?

私が働いているのはウクライナ国内最大規模の子ども病院で、がんや臓器移植などさまざまな治療を行っています。私は目のがんを専門とする医師で現在、夫と2人の娘とともに病院に避難しています。

病院にいても爆発音がひっきりなしに聞こえます。ほとんどの患者は病院の地下に避難し、そこで治療を受けています。また子どもたちの家族も地下に避難しています。

2. 子どもたちの様子は?

とてもストレスを感じています。特に10代の患者は今、戦争が起きていることを認識していて、それによって自分たちの治療が中断されてしまうのではないかと不安を抱いています。

またずっと地下にいるので感染症にかかるのではないかと心配しています。厳しい環境なのでストレスでパニックの発作を起こす子どももいます。スペースも限られているため、生まれて間もない赤ちゃんがほかの患者と一緒に床で寝ているなど、とても悲惨な環境です。

3. 治療にどのような影響が?

私たちの病院では現時点で薬などの医療資源は確保できて大体2か月から3か月分の備蓄はあります。しかし新しい物資が補充されないので患者の治療計画を変更するなどしています。限られた物資をどう活用するのか常に難しい判断を迫られています。この状況が長期化すると今後も治療が継続できるかが心配です。

また新しい患者を受け入れることが難しい状態で、たくさんの子どもたちが治療を受けられなくとても心が痛みます。

4. 特に心配なことは?

子どもたちが安全なところに避難し、治療が滞らずにちゃんと受けられるかが不安です。今の状況が長引けば患者への負担は大きくなってしまい、病気が悪化するおそれがあります。

また戦争が終わったとしても子どもたちの精神的ダメージは大きく、長期的な心のケアが必要となります。子どもたちにとってはこの体験が一生のトラウマになってしまうのではないかと心配しています。

5. 避難する予定は?

この病院は通常およそ600人の患者が入院していますが、先月末時点でおよそ200人の患者が治療を受けています。今どれくらいの患者がいるかは安全管理上、話すことができませんが、8日にはほとんどの患者がウクライナ西部の病院に搬送される予定です。そこで数日、治療を受けたあとポーランドなど海外の病院に移される予定です。

今は海外の医師と連絡をとりながら、具体的にどうやって患者を搬送するかなどについて調整をしています。無料で治療をすると申し出てくれている病院もあるためとても感謝しています。

一方で治療を中断できない患者は引き続きこの病院で治療を受けることになりますが、子どもたちが安全な場所で治療を続けられないか検討しています。

6. 病院の医師 スタッフは?

医療スタッフの避難については、まだはっきりとはわかっていません。例えば小児科医は子どもたちと一緒に西部の病院に向かうかもしれませんが、外科医は病院に残るかもしれません。

私の患者がポーランドやドイツなどの病院に搬送されるかもしれませんので、もしかしたらここを離れるかもしれません。娘2人にとってもキエフから離れたほうがいいとは思っていますが、自分の患者がとても心配なので今は何とも言えません。

私も含めて医療スタッフは10日間以上、ずっと病院の地下で働いています。とても疲弊していますが子どもたちが戦争、そして病気と闘っているのを見て自分も頑張らなければいけないと思っています。このあとこのまま病院に残るのかウクライナ西部の病院に行くのはわかりませんが、どこに行っても医師として子どもたちを救いたいと思います。

■ウクライナ北西部に住む女性は…

一方、ロシア軍による爆撃で死者も出ているウクライナ北西部の都市、ジトーミルに住む女性は、現地の人々の間で医薬品の不足などが深刻になっていると話します。
ジトーミルでチェルノブイリ原発事故の被害者の医療支援などに取り組む団体の理事を務めるイェヴヘーニヤ・ドンチェヴァさんが、オンラインでNHKの取材に応じてくれました。

1. ロシア軍の爆撃続く

●今月4日 学校が爆撃で半壊
ドンチェヴァさんによりますと、今月4日の朝、職場から100メートルほどの場所にある4階建ての学校が爆撃で半壊したということです。
(ドンチェヴァさん)
「朝、自宅にいたらすごい大きな音がしました。友人たちから連絡があり学校に爆撃があったことがわかりました。職場の建物の窓ガラスも吹き飛んでいて今は建物が封鎖されています」
●今月7日 石油の備蓄タンクが爆撃され火災
今月7日の夜には近郊にある石油の備蓄タンクが爆撃されて火災が発生し、今も煙が出ているということです。

2. 医薬品が不足…

また現在、生活面で最も困っているのは医薬品の不足だということで、市内の病院が閉鎖され、救急の患者以外は自宅に帰されている状況だということです。
(ドンチェヴァさん)
「糖尿病の知人はインスリンが手に入らず困っています。別の町に住む知人は甲状腺ホルモンの薬が手に入らず、ボランティアの救援センターに申請しても連絡がなかったので薬があと4日分しかないという状態になって町を出て行きました。薬がなくなるかもしれない、あすは救急車が来なくなるかもしれないと思うとそれだけでパニックになります」

「世界の平和は、とてもとても壊れやすい…」

現在ドンチェヴァさんは外出を最低限に抑えて自宅で生活していますが、精神的に大きな負担を感じているということです。
(ドンチェヴァさん)
「ニュースで悲惨な情景を見るとあすはわが身と思い、非常に恐ろしくなります。みんなもともとはとても社交的な人たちですが、今は誰もが押し黙っています。近所の人や友人とでさえも『大丈夫だった?』『生きているわ』というとても短いやり取りを交わすだけです。きょうを生き延びることができても、あすはどうなるか分かりません。世界の平和というのはとてもとても壊れやすいということを皆さんにお伝えしたい」と話していました。

■私たちにできること

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本国内でもさまざまな団体が募金などを通じて支援を呼びかけています。主な団体は以下のとおりです。

1. 日本赤十字社

日本赤十字社は人道危機に対する救援金を募っています。現地に必要な支援物資を送るために活用されるということで、ホームページで銀行からの振り込みなどによる送金を受け付けていて詳しい内容も案内しています。連絡先は03-3437-7081です。

2. 日本ユニセフ協会

日本ユニセフ協会は緊急募金を受け付けています。募金は水や食料などの物資の供給や、子どもたちの避難シェルターの設置などに役立てられるということです。ホームページからクレジットカードによる送金などを受け付けていて、詳しい内容についての連絡先は0120-88-1052です。

3. 国連UNHCR協会

国連UNHCR協会は避難者支援のための寄付を受け付けています。避難者の保護や食料などの支援物資の確保に活用される見通しです。連絡先は0120-540-732で、ホームページでも問い合わせを受け付けています。

4. セーブ・ザ・チルドレン

国際的なNGO「セーブ・ザ・チルドレン」は子どもたちを支援するための寄付を受け付けています。マスクや歯ブラシなど衛生用品の配布や子どもの心のケアの対応などに活用するということで、ホームページを通じてクレジットカードでの送金や銀行振り込みなどを呼びかけています。連絡先は0120-317-502です。

5. アドラ・ジャパン

国際NGOの「アドラ・ジャパン」は緊急支援の募金を受け付けています。募金は食料や衛生用品など生活必需品の支援や、避難した人たちが滞在するホームステイ先の調整などに充てられるということです。連絡先は03-5410-0045で、ホームページでも問い合わせを受け付けています。

6. 難民を助ける会

NGOの「難民を助ける会」は緊急支援のための寄付を受け付けています。現地で支援活動を行うスタッフを派遣する費用や、近隣国での人道支援などに活用されるということです。ホームページから申請してクレジットカードや銀行振り込みなどで送金することができます。連絡先は03-5423-4511です。

7. ピースウィンズ・ジャパン

NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」は緊急支援の寄付を受け付けています。病院への医療物資の支援などに活用されるということで、ホームページからクレジットカードなどによる送金を受け付けています。連絡先は0120-252-176です。

8. 国境なき医師団

国際NGOの「国境なき医師団」は緊急支援のための寄付を受け付けています。医療援助や避難する人への日用品や医療物資の支援などに活用されるということで、ホームページからクレジットカードによる送金や銀行での振り込みなどを受け付けています。詳しい内容についての連絡先は0120-999-199です。