SMAP「Triangle」ウクライナ侵攻で再注目 広がる反戦への思い

SMAP「Triangle」ウクライナ侵攻で再注目 広がる反戦への思い
「この歌がこんなに痛く強く心に響く日がくるなんて」「とりあえず今聴いてほしい。私の言いたいこと詰まってる」

「この歌」とはSMAPの「Triangle」のことです。

ウクライナの人たちの厳しい状況が刻一刻と伝えられる中で、SNS上では17年前にリリースされたこの曲についての投稿が相次いでいます。

広がる共感の声と、制作者が歌に込めた思いを取材しました。

(おはよう日本 河野公平 ネットワーク報道部 大窪奈緒子 金澤志江)
言わずと知れた国民的人気アイドルグループ「SMAP」。
2016年12月に解散しました。
しかし今、17年前にリリースした曲「Triangle」が再び注目されています。

今月、国内の音楽ソフトの売り上げを調べているオリコンのデジタルシングル部門で3位に急浮上しました。

共感を呼んでいるのはその歌詞です。

「破壊でしか見出せない 未来の世界を愛せないよ」
「大国の英雄(ヒーロー)や戦火の少女 それぞれ重さの同じ 尊ぶべき 生命だから」
戦争による破壊への批判や命の大切さがつづられています。

お寺の掲示板にも

広島市にある超覚寺では今月、引用した歌詞をお寺の前に掲示しました。

SMAPのメンバーと同年代で、青春時代はよくSMAPの歌を歌っていたという住職の和田隆恩さん(55)は、歌詞を掲示した思いをこう話してくれました。
和田住職
「かたくるしいことばではなく、話題になっている歌のことばを引用することで、お寺に縁遠い人にも思いが伝わっていくのではないかと思って、歌詞のことばを掲示しました」
和田さんは歌詞のうち特に「精悍な顔つきで 構えた銃は 他でもなく 僕らの心に 突きつけられてる」という部分が強く心に残ったといいます。
「人をあやめることに正義も何もないと思っています。引用した歌詞の『突きつけられている』という部分は、私たちに『戦争は対岸の火事ではないよ』『ひと事ではないよ』と教えてくれているような気がします」

歌への再注目は“複雑”

歌詞にどんな思いを込めたのか。
作詞作曲を手がけた音楽家の市川喜康さん(45)に聞きました。
市川さんはまず、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて今再び注目されていることについては複雑な思いだと話しました。
市川さん
「聴いてもらえるのはすごいうれしいなと思うんですけど、一方で不幸な戦争が起きてしまっている中で、この歌に注目が集まっている現状というのは、すごく複雑な思いで捉えています。本来なら戦争なんてない世の中で、そういったことが起きないようにリマインドしていく、引き継いでいくための歌としてあってほしいなと思っているので」

「これは自分で歌っちゃダメだな」

市川さんがこの曲を制作していたのは2004年。

ニューヨークでの同時多発テロ事件のあと「テロとの戦い」が続いていたアフガニスタンの状況をテレビで見ていて、「何か伝えなくては」と感じたのがきっかけだったといいます。

シンガーソングライターでもあった市川さんは、当初は自分で歌うことも頭にありましたが、楽曲を作っていく過程で考えが変わりました。
「ニュースを見て芽生えた反戦への思いみたいなものを作れないかなと(マネージャーと)話したりしていて、「Triangle」の原型ができあがったときに、メッセージ性が強すぎてなんか自分で歌っちゃダメだなというか、おこがましい話なんですけどこれはSMAPに歌ってほしいなと思った」

「傍観者」であることの恥ずかしさ

そして、タイトルの“Triangle”に込められた意味についても聞きました。

Triangle=トライアングルとは三角形のこと。
そこで表しているのは「銃を構える人」と「向けられる人」、そして「それを見ている自分」の三者による三角関係だというのです。
「どっちが正義かみたいなところってすごく難しい。銃を構えている人ももしかしたら自分の命を守るためだめだったり、自分の大切な人を守るためかもしれないし、どっちが被害者でどっちが加害者かは分からない。

そうやって争っている2人がいて、それを見ている自分がいて。自分は傍観者なんですよね。その2人に対して何もできなくていいのかなって。「Triangle」って両方と辺はつながっているんですよね」
「傍観者」であることについては、歌詞の中にも表現されています。

「小さなこの部屋からどんなに目を凝らせど 見えないものばかりだ」というフレーズ。ニュースが伝える情報を見ているだけではわからない、現地にいる人たちが置かれた現実に思いをはせることができていないことに気付いた、その時の思いを表したものです。
「今まで目をそらしてきたのかもしれないことが少し恥ずかしいなっていう部分もあって、実は見えていない不幸とかが戦争にはいっぱいあるんだよな、いろんなことが世界で行われているんだよなってところから膨らんでいった詞なんです」

「もしかしたら不可能じゃない」

さらに歌の2番は、自分の祖父から戦争の話を聞いた実体験がもとになっています。

市川さんはこの曲ができたあと、祖父と一緒に曲を聴いたそうです。
その時、何もできていない「傍観者」だった自分も、バトンをつなぐ役割を1つ果たせたという思いがあったといいます。

市川さんは大きい小さいにかかわらず、自分ができることをやろうとみんなが思えるようになれば世界は少しずつ変わっていくのではないかと感じています。
市川さん
「もちろん『戦争反対』ってSNSで書いたところで根本的な解決にはならないんですけど、みんな分かっていると思う。『#NOWAR』と書いている人がこの声だけでどうにかなるなんて思っていないと思う。だけど、その一つ一つのメッセージが集まって世界中の声になって、世界各国のリーダーとか政治家の意識、価値観に変化をもたらすっていうことは、もしかしたら不可能じゃないんじゃないかって」

広がる思い

まさか今の時代に先進国が別の国を攻撃し、その国の住民が数多く犠牲になる「戦争」が行われるなんて。
衝撃が続く中で、市川さんが歌詞に乗せた思いは今、静かに広がっています。

「ウクライナのこと安易に言えないから、とりあえず今聴いてほしい」とSNSに投稿した30代の女性。

女性がこの曲を最初に聴いたのは2005年のSMAPのツアーでした。
「当時は正直、あいまいな思いのままで『戦争は絶対だめ』と漠然と思っていた」ということです。

でも今改めて曲を聴くと、人の命が平等であることがまっすぐに書かれている歌詞に心が動かされるといいます。
女性
「『大国の英雄や戦火の少女 それぞれ重さの同じ尊ぶべき命だから』という歌詞に注目しました。命は平等でどんな理由があっても奪ってはいけないもの。自国のためだとか、利益が出るからとかそんな欲のために奪ってよい命がある訳が無いと思います」
女性は、自分だけでなく多くの人がこの曲を聴くことでウクライナで起きていることに思いをはせる機会になればと話しています。
「ウクライナでの問題を見過ごすことができる訳はないし、どうにかして皆が考えるきっかけをと思った時に、この曲を聴けばことばにしなくても理解してもらえるのではないかと思います」

「みんなトライアングルでつながってる」

「Triangle」は17年前の2005年に発売され、その年の紅白歌合戦ではSMAPが大トリでこの曲を歌い話題となったほか、2008年には高校の音楽の教科書にも掲載されるなどこれまで多くの人に親しまれてきました。

曲を制作した市川さんは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた再注目には複雑な思いが続いていますが、多くの人が今起きていることをひと事にしないきっかけになればと願っています。
市川さん
「傍観者になっちゃいけない。同じ地球上に住む人間が銃を突きつけられていたり、銃を構えていたりするわけで、どこからどこが僕らじゃなくて、どこからどこが僕らということはなくて、みんながトライアングルでつながっている中で、同じように僕らの心に突きつけられていると感じないと変えられないということだと思います」