反戦訴える在日ロシア人女性 母国の両親は「侵攻は正しい」

ロシアでの情報統制が強まる中、日本で暮らすロシア人の中には、ウクライナへの軍事侵攻をめぐって母国ロシアで暮らす家族や知人との間の認識の違いに思い悩む人もいます。

19年前に来日し、現在は兵庫県内で日本人の夫と移動式の販売車両を使ったロシア料理店を営んでいる40代のロシア人女性は、軍事侵攻に反対する立場から店を出す際にロシア語と日本語で「戦争はいらない」と書かれた立て札を掲げるなど、強い抗議の意思を示しています。

女性はこうした意思表示をしている理由について「今回の軍事侵攻はロシア人でも受け止めが分かれるが、どんな理由があるにせよ武力での解決はよくないです。それを口にすることは大きな危険がともなうが、それでも反対の声をあげなければいけない」と話しています。

両親はロシア国内のメディアしか信じず…

この女性によりますと、ロシアで暮らす両親は、軍事侵攻は「正しい行動だ」などと真逆の受け止めをしているということです。

日本で得た情報を伝えているといいますが、両親はロシア国内のメディアが伝える限られた情報しか信じようとしないように映ると言います。伝えた情報について「フェイクニュースだ」と反論されることもあり口論になってしまうため、現在は両親とあまり連絡を取らなくなったということです。

一方で、連絡を取っているロシア国内の若い世代の人達はインターネットやSNSなどを通じてさまざまな情報を得ていて、軍事侵攻には否定的な考えを持つ人も多いということです。

女性は「ロシア国内ではさまざまな品物の物価が日を追うごとに上がり続け、SNSなどへの規制も強まっていて、母国がどうなってしまうのか本当に心配です。大好きな両親の状況は寂しいと言うしかないですが、自分たちにできるのは戦争反対の声を上げ続け、一日も早くこの無謀な行為をやめさせることしかないと思っています」と話していました。

専門家「得る情報異なり 国民の間に亀裂」

国際政治学が専門でロシアに詳しく、青山学院大学などで名誉教授を務める袴田茂樹さんはウクライナへの軍事侵攻をめぐり「ロシアの人も世代や地域によって接触するメディアや情報が異なり、国民の間に亀裂ができている」と指摘しました。

袴田名誉教授は「ロシアではテレビが最も政権によってコントロールされた媒体だといえ、高齢の世代や地方に住む人はテレビから情報を得ることが多い。一方で若い世代はYouTubeなどを通じてウクライナのメディアなど海外のニュースに触れる機会もあり、異なる情報に触れている」と、世代によって接触するメディアや得ている情報が異なると指摘しました。

そのうえで「テレビから情報を得ている高齢世代や地方に住む人はプーチンの行動を支持する人が多い。一方でネットなどで情報を得ている人は体制に対して批判的な意見を持つ人もいる。国民の間でも得ている情報によって軍事侵攻に対する考え方が異なり亀裂ができている」と分析しました。

プーチン大統領が情報統制を強めていることについては「これまでロシアでは政権に批判的な新聞なども存在していた。しかし批判的な意見を報じた場合、虚偽の情報だとして処罰の対象になり、自由な報道が難しい状況となっている。そういったメディアの報道が見られなくなったり発信できなくなったりする状況も生じている。ただ、若い人たちがインターネットを通じて海外のメディアに触れる機会は完全には封じられておらず、すべての人をコントロールすることは難しいのではないか」と述べました。