【詳しく】ウクライナ 住民の避難は?「人道回廊」なぜ難航?

ウクライナから国外に避難した人の数は、6日の時点で173万人以上。
ロシアによる侵攻で、幼い子どもたちも含めた避難が続いています。
戦闘地域の住民のため、ロシアとウクライナは「人道回廊」と呼ばれる避難ルートを設置しようと協議していますが、住民が安全に避難できるルートは、いまだ確保できていません。
避難の現状について、わかりやすく解説します。

「人道回廊」とは?

戦闘が続く中、一時停戦して住民を避難させようと、ロシアとウクライナが協議している「戦闘地域の避難ルート」のことです。

過去にプーチン政権が軍事介入したシリアの内戦でも、敵の拠点を陥落させる前に繰り返していた方法で、このときは、本格的に攻勢を強める前、一時的に停戦したうえで、今回と同じように「人道回廊」と名付けた避難ルートを設けました。
国際社会からの批判が高まらないよう、人道的な配慮として「避難のチャンスを与えた」と強調するねらいがあったとみられます。

ロシアとウクライナは「人道回廊」を設置することで合意したものの、最初に試みられた5日以降、3日連続で失敗しています。
ロシア国防省は8日も首都キエフなど5つの都市で、市民のための避難ルートを設置するとしていて、このうち1つのルートでは避難が始まったと伝えられています。
しかし、ウクライナ側は複数の都市で避難ルートが合意できていないとしていて、どこまで市民の避難につながるかは不透明です。

「人道回廊」の設置はなぜ難航しているのか?

ロシア側とウクライナ側がそれぞれ、相手が攻撃を行ったと批判して避難のための一時的な停戦が実現していないことが理由の一つです。
ウクライナとロシアの代表団は、3月3日に行われた交渉で「人道回廊」を設置する方針について合意。
これをもとにロシア国防省はマリウポリと周辺の町で5日から一時的に停戦し、避難ルートを設置すると発表しました。
しかし、マリウポリ市などはロシア軍が停戦措置を守らずに砲撃を続けていて、安全上の理由から住民の避難を延期せざるを得なくなったと明らかにしました。
これに対して、ロシア国防省は、攻撃を仕掛けてきたのはウクライナ側だと主張しています。

「人道回廊」の具体的なルートは?

また、ロシアが設定しようとしたルートが、ウクライナ側にとってはそもそも“人道的ではない”ことも「人道回廊」が設置できない理由だともみられています。
ロシア側が発表したルートは、キエフ、北東部のスムイ、第2の都市ハリコフ、それに東部の要衝マリウポリなどの都市から避難するルートです。
しかし、その中には、ロシアやその同盟国ベラルーシが避難先に含まれているルートもあります。
住民は、ロシアに対して強い恐怖心と敵意を抱いているため、とても受け入れられない内容でした。
戦闘地域の住民たちは、停戦の実現が見通せない中「人道回廊」に頼らず、長い道のりを命がけで避難するか、その町にとどまることを余儀なくされています。

現状にウクライナは?ロシアの主張は?

住民の避難について、ウクライナのゼレンスキー大統領は次のように述べて、ロシア側の対応を非難しています。
「避難はロシアの戦車、ロシアの地雷のせいでうまくいっていない。ロシア軍はマリウポリの人々に食料や薬を運ぶ道路に地雷を仕掛け、避難用のバスを破壊した」
一方、ロシアのプーチン大統領は、次のように主張。
「ロシア軍は市民を避難させるため何度も停戦を宣言した。しかし、ウクライナ側が住民に対する暴力や挑発行為で阻止した」

国際社会は?

激しい攻撃を受けている都市の1つマリウポリと、周辺の町から住民が避難するのを支援する予定だったICRC=赤十字国際委員会は、ロシアとウクライナの両政府の対応が不十分だったとして、次のように話しています。
「当事者間の合意に基づき、十分計画され、実施されなければならない」
また、国連の安全保障理事会の緊急会合でも、停戦につながる糸口すら見いだせない中、各国から市民の安全な避難ルートを求める訴えが高まっています。

今どれだけの人たちが避難しているのか?

こうした中でも、避難するウクライナの人たちは後を絶ちません。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所のまとめによりますと、6日の時点での避難者の数は173万人以上に上るということです。
このうち隣国のポーランドには、全体の6割近くの102万人が避難し、ハンガリーが18万人、スロバキアが12万人、モルドバが8万人、ルーマニアが7万人などとなっています。
一方、ロシア側に避難した人はおよそ5万人だということです。

UNHCRは、戦争が直ちに終わらなければ、さらに数百万人が住まいを追われることになるとして、次のように指摘しています。
「第2次世界大戦以降のヨーロッパで、もっとも速いペースで増え続けている危機だ」

住民はどんなルートで避難しているのか?

戦闘が激しい地域から、道路や鉄道が残っている都市を経由して、西側からヨーロッパ各国に避難する人が多くいるとみられます。
ロシア軍の激しい攻撃にさらされてきた首都キエフ近郊のイルピンでは、まずキエフに向かって避難する人たちの姿が見られました。

しかし、2月末の時点で、キエフでは西部のリビウに向かう列車に乗ろうと大勢の人たちが殺到。
また、リビウなどから国外に脱出したあとも、すぐに落ち着ける場所を見つけられず、数日かけてルーマニアなど複数の国を経由しながらポーランドにたどりついた人もいました。

どんな人たちが避難しているのか?

ウクライナでは、18歳から60歳の男性の出国が制限されていて、避難しているのは、子どもを連れた女性や年配の人たちがほとんどです。

このため、避難している家族の多くは、父親や夫がウクライナ国内に残ったままで、離れ離れでの避難生活を余儀なくされています。
また、入院患者の避難も課題で、キエフにある子ども病院の医師は、治療を中断できないため避難できていない子どもの病状悪化が心配だと話していました。

避難先での支援は?

避難をしてきたウクライナの人たちに向けて、各国が支援の手を差し伸べています。
このうちルーマニア政府は、ウクライナとの国境近くのスタジアムに、およそ400人が滞在できる臨時の避難所を設置しました。
ICRC=赤十字国際委員会は避難民などへの食料や水、シェルター、心理的サポートの提供のほか、そもそも避難できない人もいる医療施設への支援強化が必要だと指摘し、寄付による支援を訴えています。