ロシアにエネルギー依存の欧州各国 影響が広がる懸念も

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、エネルギーの多くをロシアに依存するヨーロッパ各国に大きな課題を突きつけています。
EU=ヨーロッパ連合は、天然ガスの輸入の4割をロシアに依存していて、欧米による経済制裁に対抗してロシア側が供給を絞るなどして影響が広がる懸念が出ています。

ユーロ圏の消費者物価が2月に5.8%と過去最大の伸び率になるなど、ヨーロッパではすでに物価の上昇が大きな課題になっていて、エネルギー価格が一段と上昇すれば、電気代などの値上がりを通じて人々の暮らしや景気にさらなる打撃になるおそれがあります。

EUは軍事侵攻が始まったあと、先月28日に閣僚らによる緊急の会議を開き、エネルギーの供給をめぐる現状や今後の見通しなどについて協議。

短期的に天然ガスが足りなくなる事態は起きないとしつつ、エネルギーの調達先を多様化する必要性を指摘する声などが上がりました。

また、IEA=国際エネルギー機関は、次の冬がくるまでにロシアのガスへの依存を減らすべきだとして、今後、ロシアとの新規の契約を交わさないことや、ロシア以外の調達先を見つけることなど、10項目にわたる提言を発表しました。

提言には、省エネや再生可能エネルギーの普及の加速、それに、原子力発電を最大限活用することなども盛り込んでおり、こうした取り組みでロシアからの輸入を3分の1以上減らすことができるとしています。

欧州各国 ロシア以外からガスを調達する動き加速

ヨーロッパ各国は、エネルギー安全保障の観点からロシア以外からガスを調達する動きを加速させていて、ウクライナ情勢の緊張が高まったことし1月には、アメリカからのLNG=液化天然ガスの輸入が前年に比べておよそ4倍に急増しました。

ヨーロッパ最大規模のオランダのロッテルダム港では、LNGを積んだタンカーの出入りが増えていて、先月半ばまでの2か月でおよそ60隻と、去年1年間の半分に相当するタンカーが入港したということです。

港を管理する公社の担当者は「これまでにない忙しさだ」と話していました。

また、天然ガスの多くをパイプラインによるロシアからの輸入に頼ってきたドイツは「脱ロシア」を加速させるため、これまで国内になかったLNGの受け入れ基地の建設を決めるなど、対応を急いでいます。

ヨーロッパの天然ガスの備蓄は、現在、備蓄できる容量全体の30%を切っていますが、ヨーロッパにおよそ20か所あるLNGの受け入れ基地の多くはほぼフル稼働の状態で、備蓄を一気に増やせる状況ではないことも課題になっています。

パリでの農業関係イベントでは穀物価格などの上昇を懸念

フランス・パリで開かれた農業関係のイベントでは、ウクライナへの軍事侵攻によるエネルギーや穀物価格などの上昇を懸念する声が聞かれました。

ウクライナは、小麦やトウモロコシ、さらに牛や豚などのタンパク源となる配合飼料の生産国で、豚肉の生産団体によりますと、フランスの生産者の多くが依存しているということです。

しかし、軍事侵攻を受けて、小麦の1トン当たりの価格が1.3倍近く値上がりしたほか、供給不安から飼料の価格も上がり、コストの増加が生産者の負担になっているということです。

豚肉の生産団体のティエリ・メイエール会長は「去年から小麦やとうもろこしの価格は高くなっていて、ウクライナ情勢はさらにそれを押し上げて生産者を圧迫している」と話していました。

エネルギー価格の高騰も農業生産のコストの増加に拍車をかけていて、マクロン政権は、農家の負担を減らすため、農業をはじめ関係産業の支援に乗り出す方針です。

専門家 欧州全体で15%程度のガスが不足する可能性も

ブリューゲル研究所のゲオルグ・ザックマン氏は、ロシアからのガスの供給が長期にわたって途絶えた場合、次の冬に、ヨーロッパ全体で需要のおよそ15%程度のガスが不足する可能性があるという見方を示しています。

ゲオルグ・ザックマン氏は「15%分の穴埋めを持続的な形でどう行うのかは、EUにとって重要な問題だ。需要面では、産業界や家庭でのガスの利用削減が必要になるだろう。また、ヨーロッパ各国の間や異なる産業の間で、いかに公平に負担を分かち合い、ガスを分配できるかが大きな政治課題になる」と指摘しています。

ドイツ首相 ロシアからエネルギー調達継続に理解求める

ドイツのショルツ首相は7日、声明を発表し、暖房や電力供給、それに産業向けなどのエネルギーについて「現時点でほかの手段で確保する方法がない」と指摘し当面、ロシアからエネルギーの調達を続けることに理解を求めました。

ドイツ政府はEU=ヨーロッパ連合などのパートナーとともに、ロシア以外からエネルギーを確保するため全力を上げているとしながらも、「一朝一夕にできるものではない」としています。

ドイツは天然ガスの輸入でおよそ55%をロシアに依存するなどエネルギー面で強い結び付きがあります。