ビジネス特集

15分以内に届けます! 超速宅配の世界

牛乳を切らしてしまったけれど、それだけのためにお店に行くのはちょっと…。そう感じる時もあるかもしれません。アメリカでは、牛乳1本からでも15分以内に、しかも無料で配達するサービスが登場。さらにスーパーをまるごと家に呼べるアプリも。次々と広がる新しい宅配スタイルを体験しました。
(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

注文から15分以内!

2月中旬、スタートアップ企業が展開する宅配サービスが人気を集めていると聞き、ニューヨークで取材しました。最大の特徴は、注文から商品の配達完了まで15分以内という“超速宅配”です。
百聞は一見にしかずということで、まずは自分のスマホに専用のアプリをダウンロード。水やジュース、パンに冷凍ピザ、肉や果物、お菓子などさまざまな種類の商品を閲覧し、ネット通販と同じ感覚でカートに入れていきます。あとは、クレジットカード情報を入力し、注文ボタンを押すだけです。

ストップウォッチをスタートさせて外を見ていると、まもなく、濃いピンク色のユニフォーム姿の人が乗った自転車が遠くから近づいてくるのが見えました。配達員です。
比較的利用者が少ない午前中とはいえ、注文から商品の受け取りまでにかかった時間は、3分54秒という速さでした。

秘密は“ダークストア”の中に

どうしてここまで速く配達できるのか。それを探るため、会社を訪ねました。
担当者に案内されたのが「ダークストア」と呼ばれる配送拠点です。さまざまな種類の食べ物や飲み物が棚に所狭しと並べられている普通の倉庫ですが、規模はコンビニ2つくらいと、かなり小さめです。

速さの秘密は商品の集め方にありました。

注文が入ると、まず従業員がスマホで通知を受け取ります。スマホには、注文された商品が、棚から一筆書きで収集できる順番に自動的に並べられて表示されます。このため倉庫内を行ったり来たりする必要がありません。
紙袋がセットされたカートを押して足早に棚を回り、商品を専用の機械でスキャン。誤った商品はブザー音が鳴り効率的に確認できます。

紙袋に入れ終わると専用のリュックに詰め、待っている配達員に手渡します。

コスト削減で配達料タダを実現

こうした拠点はニューヨークだけで30あり、配達の範囲はそれぞれの半径1.5~2マイル以内(2.4キロ~3.2キロ以内)に限定しています。自転車で動ける距離に限っていることも速く配達する工夫なのです。

この配達員、ピンク色のユニフォームで街中を走り回ることで広告も兼ねています。広告費を削減することなどで、配達料を無料にしたということです。
この会社は現在、ニューヨークやシカゴで事業を展開していて、今後アメリカ各地の主要都市への進出を検討しています。
バイク ニューヨーク担当マネージャー アリーナ・ペドラサさん
アリーナ・ペドラサさん
「街中を走る配達員を見て、本当に15分以内に届けてくれるのか、興味を持って試しに使ってみるという人が多いです。使ってみて便利だと思った人が家族や友人に勧めるなど口コミで広がっていきました」

お店がご自宅まで伺います!

一方、ロサンゼルスで注目を集めているのは、ほしい商品を届けてもらう従来のスタイルとはひと味違ったサービス。
同じくスマホのアプリを使いますが、商品を注文するためではありません。ライドシェアのように、「走る無人スーパー」をまるごと呼ぶのです。

現在展開しているのは、飲み物やお菓子などの食品を乗せた車と、薬やトイレットペーパー、洗剤などの日用品を乗せた車の2種類です。
私も実際に自分のスマホで配車してみました。アプリの地図上で、いま車がどこを走っているのか、あと何分で到着するのかが表示されます。配車から到着までは最短で2分以内、平均でも9分ほどという速さです。

コロナで非接触も重要に

このサービスの売りは速さだけではありません。人との接触がゼロであることも大きな特徴です。
車の運転手は接客にはあたりません。ドアの開閉は客がアプリの画面をスワイプして操作。すべての商品には、センサーがついていて、ほしい商品を棚から取り出すだけで、車内に取り付けられたシステムで商品を識別します。

アプリで車のドアを閉じると、買い物が終わったと認識し、登録しておいたクレジットカードで自動的に決済が行われる仕組みです。このとき配車の代金として2ドル(約230円)も支払われます。
この会社は近く、食べ物や日用品だけでなく、アイスクリーム専用車やドーナツやコーヒーなどを販売するカフェのような車なども展開する計画です。車を自動運転車に切り替えることも検討しているということです。
ロボマート アリ・アーメドCEO
アリ・アーメドCEO
「商品を配達するとなると、アプリで商品を選んでもらう作業に時間がかかりますし、配達を誰かに任せなければならない。自宅のドアの前に店が行けば、普通の宅配サービスより時間を短縮でき、しかもお客は自分で商品を選ぶことができます。商品を届けるのではなく、お店そのものを届けるのです」

飛行機型ドローンで1時間以内に

スタートアップ企業の参入が相次ぐ新たな宅配ビジネス。大手も黙って見ているわけではありません。

アメリカの小売り最大手ウォルマートは小型の飛行機型のドローンを展開する企業と提携。オンラインでの注文から1時間以内に、ドローンを使って薬などのヘルスケア製品を配達するサービスの展開を南部アーカンソー州の一部で始めました。
商品が入った箱にはパラシュートが取り付けられていて、小型飛行機の機体の中に収納されます。目的地まで到着すると、パラシュートを使って荷物が地上に落下していく仕組みです。

現在はアーカンソー州の特定の店舗から半径50マイル以内の場所に限られていますが、小型の飛行機型のドローンは、すでに遠隔地への医療物資の長距離配送などにも使われている実績があるため、過疎化が進んだ地域に住むお年寄りなどの買い物にも役立つのではないかと期待されています。

コロナでピンチをチャンスに

取材したいずれのサービスも、コロナ禍の去年から始まったサービスです。感染対策でスーパーやコンビニなど人が集まる場所をなるべく避けたいという人が増えたことが、ビジネス拡大を後押ししたのです。

アメリカの調査会社によると、食品や生活雑貨などの宅配サービスの国内での市場規模は、2019年は88億ドル(約1兆円)でしたが、感染が拡大した2020年には3倍以上の278億ドル(約3兆1000億円)に急成長。今後も市場は拡大し、2025年には682億ドル(約7兆8000億円)にのぼると予測されています。

コロナ禍で既存のネット通販の需要も増えましたが、“超速”そして“非接触”という付加価値を付けた新たなサービスが広がり始めているのは、変わることを恐れず、新しいことを常に取り入れるオープンな気風があるアメリカらしいと感じます。

コロナというピンチをチャンスに変えたとも言える超速宅配サービス。コロナの感染が収束した後も進化していくのか、見続けていきます。
ロサンゼルス支局 記者
山田 奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て2021年夏から現所属

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