外環道トンネル工事 一部区間の工事中止命じる決定 東京地裁

首都圏の環状道路の1つ「東京外かく環状道路」のトンネル掘削工事の影響で陥没した道路の周辺の住民が申し立てた仮処分について、東京地方裁判所は「具体的な再発防止策が示されていない」などとして国と東日本高速道路などに一部区間の工事の中止を命じる決定をしました。陥没が見つかった地域では工事が中断されていますが、陥没した現場を含む一部の区間は同じ工法では再開できなくなりました。

工事の中止が命じられたのは、東京外かく環状道路=通称「外環道」の東名ジャンクションから中央ジャンクション付近までのおよそ9キロの区間です。

外環道では東京 世田谷区と練馬区を結ぶ16キロの区間で地下の掘削工事が進められていましたが、おととし10月に東京 調布市で道路の陥没が見つかり東日本高速道路は工事を中断しました。

仮処分は陥没が起きる5か月前に建設予定地の周辺住民たちが申し立て「シールドマシン」という巨大な掘削機で地下深くを掘り進める方法には問題があるとして、国と東日本高速道路などにトンネル工事そのものの中止を求めていました。

東日本高速道路は掘削工事が陥没の要因の1つと推定されるという分析結果を公表しましたが「工法に問題はなく再発防止策も講じる」として争っていました。

28日の決定で東京地方裁判所の目代真理裁判長は「有効な対策が採られないまま同じ工法で工事が再開されれば住民が住んでいる場所に地盤の緩みを生じさせ陥没などを起こし、身体や生命に危険が生じるおそれがある」と指摘しました。

そのうえで「具体的な再発防止策は示されておらず交通混雑の緩和などの公共性を考慮しても工事は中止するべきだ」と判断して、陥没した地域を含む一部の区間について申し立てを認めました。

これにより、この区間での同じ工法でのトンネル工事は再開できないことになりました。

弁護団「評価できる」

仮処分の決定について弁護団の武内更一弁護士は「工事を行えば陥没が起きる可能性があり違法だと指摘したことと、事業者が示した再発防止策では不十分だと認定したのは評価できる」と述べたうえで「現在工事が再開しているエリアについても再発防止対策が有効でないことは同じはずだ」と述べて、高等裁判所の判断を仰ぐか検討する考えを示しました。

また道路が陥没した住宅街に住み、申し立てが認められた丸山重威さん(80)は「工事の中止が決まって一応はほっとしたが今の土地にこのまま住めるかどうかが問題だ。事業者は決定をきっかけにすべての工事を止めて、事業の必要性を改めて検討してほしい」と話していました。

国交省・東日本高速道路コメント

裁判所の決定について国土交通省は「決定内容を精査し、対応について検討していきたい」とコメントしています。

また東日本高速道路は「現在、東京地方裁判所の決定内容を確認中で、対応について検討中です」とコメントしています。

調布市「丁寧な説明と対応を求めたい」

東京地方裁判所の決定について調布市は「今回の決定を受け事業者や国はその内容に沿って適切な対応をとると思うので今後の状況を見守っていきたい。これまでも事業者や国に市として要請を出してきたが、地域の住民に対しての丁寧な説明と対応を今後も求めていきたい」としています。

東京外かく環状道路とは

「東京外かく環状道路」=「外環道」は東京・埼玉・千葉を環状に結ぶ全長85キロの高規格幹線道路です。

このうち東京 練馬区と世田谷区を結ぶおよそ16キロの区間で工事が進められています。

市街地を通過するルートのため「大深度地下」と呼ばれる地下40メートル以上の深さで作業が進められています。

これまでの経緯

東京 調布市の住宅街で陥没が見つかったのはおととし10月です。その後、地下の空洞も相次いで見つかりました。

周辺の住宅では壁や基礎の一部などに亀裂が見つかったほか、市役所には陥没が起きる前から住民から「家が揺れる」などといった連絡が相次いでいました。

地下深くでトンネル工事を進めていた東日本高速道路は工事を中断して有識者による委員会を設置し、原因を調査しました。

その結果、委員会はシールドマシンで地下を掘り進める際に施工ミスで土を取り込みすぎたことが原因となった可能性が高いなどとする報告書をまとめました。

東日本高速道路はトンネルの真上部分については工事の影響で地盤が緩んだと認めて補修を行う方針を決め、対象のおよそ30世帯について移転に向けた交渉が進められています。

一方、去年10月には住民の依頼を受けて専門家が行った調査で工事による振動でトンネルの真上以外でも地盤が緩んだ可能性が示されました。これに対し東日本高速道路は独自の調査で「工事の振動が地盤を弱めた事実は確認されなかった」とする見解を公表しています。

また東日本高速道路や国などの事業者は先月までに再発防止策をまとめ、シールドマシンによる土の取り込みすぎを防ぐため削った土の量を厳しく把握することや、騒音や振動の監視を100メートル間隔で行い結果を現地で表示するなどとする方針を公表しました。

東日本高速道路などは今月下旬に陥没が起きた場所以外の地域から工事を再開していました。

建設はシールド工法で

地下のトンネル工事は「シールドマシン」と呼ばれる直径およそ16メートルの大型機械で掘削すると同時に、コンクリート製のパーツを組み上げて壁を取り付けながら進んでいくというものです。

掘削工事は2017年2月に南側の東京 世田谷区にある東名高速道路の東名ジャンクションから北に向けて始まり狛江市や調布市の地下を堀り進めていたほか、2019年1月からは北側の東京 練馬区にある関越自動車道の大泉ジャンクションからも掘削工事が始まりました。

しかしおととし10月以降、トンネルの真上に当たる調布市の住宅街で道路の陥没や地下の空洞が相次いで見つかり、この地域での工事は中断されています。

大深度地下とは

「大深度地下」とは地表から40メートル以上の深さの地下のことで、大都市の地下空間を活用できるよう法律で定められています。

大深度地下の利用は公共の利益となる事業に限られ首都圏、中部、近畿の一部区域が対象です。

この深さの地下は通常、利用されないと考えられることから、開発に当たっては基本的に用地の買収や土地の所有者への同意は必要ありません。

国土交通省は「大深度地下」の利用で効率的なルートを設定でき工期やコストの短縮が見込めるほか、浅い地下と比べて地震に対して安全なうえ騒音や振動の減少にもつながるとしています。

「大深度地下」での工事は東京外かく環状道路のほか、品川・名古屋間で開業を目指す「リニア中央新幹線」の東京都と神奈川県、それに愛知県の一部区間で計画されています。

陥没現場近くの住民からは…

陥没現場近くの住民に聞きました。

調布市の陥没や地下の空洞が見つかった現場の近くで50年ほど暮らしてきた近田真代さん(74)は現在、事業者側に自宅を売却し別の場所に引っ越す方向で交渉を進めています。

28日の決定について、近田さんは「事業者はきちんと調査もせず工事の方法を決めたのではないかとずっと疑問に思っていたので、きょうの裁判所の決定は住民としては一歩前進したなと思います。私も含め安全に住めるかどうかを心配してここを出て行く住民も多い。それだけのことを起こしたにもかかわらず工事を続けていくことは理不尽だと思うので、今回の決定を受けて事業者にはもう一度、一歩前に立ち戻って調査をし直して考え直してほしい」と話していました。

また事業者側に対し原因の究明や被害補償などを求める活動を行っている住民グループのメンバーの河村宏さん(75)は「事前の地盤調査や陥没の原因究明も不十分で必要な情報も開示されず再発防止策もきちんとしていない中で、裁判所の決定は当然の判断だと思う」と話していました。

そのうえで「住民は1年半近く被害を受け続けていて今後も元の生活に戻れる見通しは立っていない。工事をこれから行う部分だけでなくこれまで行ってきた部分も含め総合的に調査を行い、抜本的に住民ととことん話し合ってほしい。『これだったら安心できる』というものを示してもらいたいというのがいち住民の願いです」と話していました。

官房長官「速やかに対応の検討を進める」

松野官房長官は午後の記者会見で「今後、国土交通省や東日本高速道路、中日本高速道路で決定の内容をよく確認し、関係機関と調整のうえできるだけ速やかに対応の検討を進めるものと認識している」と述べました。

工事差し止めまでの経緯

外環道の工事をめぐり建設予定地に住む住民たちが最初に訴えを起こしたのは8年前。

青梅街道インターチェンジの工事の認可を取り消すよう国と都に求め、その後も、計画が変更されるたびに認可の取り消しを求める訴えを東京地方裁判所に起こしてきました。

平成29年12月には、地下40メートル以上の「大深度地下」と呼ばれる場所を掘り進める工事の認可の取り消しや、計画そのものを無効とするよう求める訴えを起こし、いずれも審理が続いています。

一方で工事は進んでいたことから、おととし5月に今回の仮処分を申し立て、「シールドマシン」で地下深くを掘り進める工事を中止するよう求めました。

住民たちは当初、「シールドマシンでトンネルを掘削することで地中の空気が地上に押し上げられ、健康を害するおそれがある」と主張していましたが、その5か月後、工事が行われていた東京・調布市の住宅街で道路に陥没が見つかります。

これを受けて「工事によって再び陥没が起き、住宅の倒壊や安全が脅かされるおそれが高い」と新たな主張を追加。

これに対し東日本高速道路側は工法そのものに問題はなく、再発防止策を講じるので工事を中止する必要はないと反論していました。

決定で東京地裁は、陥没が起きた場所が特殊な地盤であることに着目し、同じ工法で工事を再開すれば地盤の緩みを生じさせる具体的なおそれがあると認定。

そのうえで、陥没した地域を含む東名ジャンクション側からの工事について、東日本高速道路側が再発防止策の具体的なスケジュールも明らかにしていないなどとして、違法性が認められると指摘しました。

一方、健康被害などの主張は退け、そのほかの区間については工事を止める必要はないと判断しました。