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日本人と外国人に“2倍”の差 いったい何が?

日本人の子どものおよそ30人に1人。
外国人の子どものおよそ15人に1人。

これは、日本の小中学校の「特別支援学級」で学ぶ子どもたちの割合です。(NHKまとめ)

外国人の子どもたちは、割合にして2倍多く特別支援学級で学んでいることになります。

高校で生徒会長を務めたこともある日系ブラジル人の女性は、小学校のときの4年間、特別支援学級で学びました。「後悔してないし、学べたこともある」と話す21歳の女性ですが、いまだに、なぜだったのか思い当たらず、心の中には、“モヤモヤ”したものが残っているといいます。

子どもたちが学ぶ場で、何が起きているのでしょうか。
(取材:社会部 藤田陽子、編集:国際部 木下隆児)

人よりも理解するのが遅いから?

「ちょっとずつ特別支援学級に行き始めて、ランドセルを置くところも、机も全部、特別支援学級の教室になって。それからは、ずっとその教室にいました」
こう話すのは、日系ブラジル人、軽部サユリさん(21)です。

3人きょうだいの長女として福井県で生まれ、県内の幼稚園に通ったあと、小学校から高校まで家の近くの公立校に通いました。

家庭では両親の母語であるポルトガル語、外では日本語と、2つの言語を話す環境で育ったサユリさん。

今では、読み書きも両方の言語でできる、バイリンガルです。

ただ、サユリさんは小学校時代、2年生から5年生までの4年間、特別支援学級で学びました。

知的障害や発達障害など障害の診断を受けたことはなく、理由については、いまもはっきりとはわからないといいます。

市の教育委員会にも取材しましたが「特別支援学級に入る際には、検査などを行ったうえで保護者と話し合いを重ねて合意している」という回答で、当時の詳しい経緯はわかりませんでした。
サユリさん
「当時は『なんで特別支援学級にいるんだろう』とはあまり考えたことはありませんでした。
両親はポルトガル語で話していたので、低学年の頃は人よりも日本語を理解するのが遅かったり、宿題もひとりでできなかったりするからかなとは思っていました」

何をするにも自信が持てない

サユリさんが特別支援学級で学び始める前、母親のファビアナさんは学校側から「日本語がほかの子どもたちより遅れている」という理由で、国語や算数だけ特別支援学級で受けないか、と勧められたといいます。

母親は当初、特別支援学級を日本語教室のようなところだと思い込んでいて、授業参観の時に初めて、サユリさんが障害のある子どもたちと一緒に授業を受けていることに気付いたそうです。

特別支援学級に入ってから、サユリさんが自信をなくしていったようにも見えて、母親は、授業参観のたびに不安な気持ちになったと振り返ります。

当時、念のためサユリさんを連れて病院も受診しましたが、知的障害などの障害の診断はつかず、医師からは特別支援学級に入る必要はないと言われたそうです。

娘を通常の学級に戻したほうがいいのではないか。両親は学校側と話し合いを重ねましたが、最終的にサユリさんが通常学級に戻ったのは4年後。6年生になる時でした。

通常学級に戻ったあとは、今度はサユリさん自身が思い悩むようになります。特別支援学級での4年間は、少人数で、下の学年の内容を学ぶなど、通常学級とは大きく異なるカリキュラムで学んでいたからです。
授業についていけず、気付けばサユリさんは、教室で声を出すことすら怖く感じるようになっていました。
「授業で名前を呼ばれても『はい』も言えなくて。先生とか相手の子が諦めてくれるまで、ずっと黙ってることしかできなくって。普通じゃないことを言ってしまうような気がして、しゃべることがすごく怖かったです。

特別支援学級で学べたこともあるし、後悔はしてないんですけど、私は普通の人とは違う勉強というか、課程で育ってきたので。何をするにも自信が持てなくて。今でも、ほかの人と比べて違うところがあるんじゃないかと思うことがあります」

特別支援学級に入る基準は?

それでは、特別支援学級に入る子どもたちは、どんな基準や方法で判断されているのでしょうか。

調べてみると、文部科学省が2013年に全国の教育委員会などに「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」という通知を出していました。

通知では、特別支援学級の対象について次の7つの障害の種類を挙げていました。

「知的障害」、「肢体不自由」、「病弱・身体虚弱」、「弱視」、「難聴」、「言語障害」、「自閉症・情緒障害」

文部科学省にも確認したところ、対象になるのは障害がある子どもだけで、「日本語能力が不十分」という理由で入ることはないとのことでした。

それでは、こうした障害の有無については、誰が、どのように判断するのでしょうか。

通知では、7つの障害について、それぞれ基準が示されています。

例えば知的障害は次のように書かれています。
知的障害:知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むのに一部援助が必要で、社会生活への適応が困難である程度のもの
一方、障害があるかどうかの判断については、次のように書かれていました。
“障害の判断に当たっては、障害のある児童生徒の教育の経験のある教員等による観察・検査、専門医による診断等に基づき教育学、医学、心理学等の観点から総合的かつ慎重に行うこと”
つまり「最終的に特別支援学級を勧めるべきか」だけでなく、「障害があるかどうか」の判断も、専門の医師ではなく、市区町村の教育委員会が行う仕組みになっているのです。

サユリさんのように外国人の子どもの場合にどう判断するかについての記載はなく、検査に通訳をつけるかなどは、地域ごとにばらつきがあるようでした。

特別支援学級の在籍率に2倍の差

今回、専門家や、外国人や外国にルーツがある子どもたちを支援する団体を取材すると、次のような指摘を多く聞きました。
「特別支援学級に入る外国人の子どもたちの割合は、日本人よりも明らかに高いと感じる」
「外国人の親の中には『日本の学校では、外国人というだけで特別支援学級に入れられてしまう』と懸念する人もいる」
しかし、これを示す全国的な調査結果は存在しませんでした。そこで、2016年の時点で外国人が多く暮らす自治体でつくる「外国人集住都市会議」の会員だった8つの県の25の自治体を対象に、実態を聞いてみることにしました。

その結果、20の市と町から回答があり、その結果は次のとおりでした。
《公立の小中学校の特別支援学級の在籍率は?》(2021年5月1日現在)
日本人の子どもの在籍率 3.3%
外国人の子どもの在籍率 6.9%
※「日本人の子どもの在籍率」は、日本人の児童生徒のうち、特別支援学級で学ぶ児童生徒の割合。「外国人の子どもの在籍率」は、外国人の児童生徒のうち、特別支援学級で学ぶ児童生徒の割合。

公立の小中学校の特別支援学級で学ぶ子どもたちは、日本人ではおよそ30人に1人なのに対し、外国人では15人に1人と、2倍の差があることがわかりました。

この差について、どう見ればいいのか。

愛知県豊田市の「豊田市こども発達センター」で外国人の子どもたちを数多く診察してきた医師の高橋脩さんは、異なる言語や文化の環境で育つことで、なんらかの障害がある子どもたちが増えるという科学的な根拠はないと指摘します。
高橋脩医師
「何らかの障害が発症する『有病率』は、先進国に元から住んでいる子どもたちと、移り住んできた子どもたちの間で違いがないことが、研究で分かってきています。ですから、日本に住む外国人の子どもたちが、外国人であるがゆえに、また、違った民族文化から入ってきたからという理由で、障害がある子どもの割合が高いということはありません」

特別支援学級で学ぶかどうか、判断する現場は?

それでは、なぜ日本人と外国人の子どもたちの間では、特別支援学級に在籍する割合に“2倍の差”が生じてしまうのでしょうか。

今回、アンケートに応じた自治体の1つ、長野県飯田市で、どのように特別支援学級で学ぶ外国人の子どもたちを判断しているのか、取材させてもらうことができました。

訪れた日は、教育委員会が設けた専門家会議が開かれていました。
専門家会議の様子
メンバーは教育学や心理学など、16人の専門家。

この春、小学校に入学する子どもや、新しく飯田市に転入してきた子どもたちについて、障害があるかどうか、特別支援学級を勧めるべきかどうか、最終的な判断を行う場です。

会議でメンバーの手元には大量の資料が置かれていました。

一人ひとりの子どもについて、発達検査・知能検査の結果や、保育園や学校での行動観察の記録、保護者への聞き取りの内容などをまとめた資料だということで、時間をかけて、丁寧に調べていることが伝わってきました。

飯田市では、子どもの母語が日本語でない場合には、検査や面接に必ず通訳をつけるなど、できるかぎりの工夫をしています。

しかし、地域に医療機関が少ないこともあり、検査は特別支援学級の教員が行うことが多く、判断に困るケースも少なくないといいます。
「検査をしても、そもそも日本語が分からないのか、それとも本当に知的な遅れがあるから分からないのか。さらに、文化や生活習慣などが異なる中で、精神的に不安定なのかなど、見極めるのがとても難しいです」(専門家委員会のメンバー)

障害のない子どもが特別支援学級にいるおそれも

特別支援学級の授業の様子
医師の高橋さんは、外国人の子どもが多く特別支援学級に入っている背景には「知的障害の見極めの難しさ」があると考えています。

今回、NHKが25の市と町を対象に行い、20の市と町から回答を得た調査でも、それを裏付けるような結果がありました。

特別支援学級の対象となっている7つの障害について、障害別の人数についても尋ねたところ、12の市と町から回答が集まりました。
この結果について、高橋さんは次のように分析しています。
高橋脩医師
「回答数が限られてはいるものの、外国人の子どもは、知的障害の割合が極端に高く、人数も非常に多い。これが外国人の子どもの特別支援学級在籍率が高い主な要因になっていると考えられます」
高橋さんによると、子どもの知的障害の有無の判断は、言語能力や家庭・文化的な背景が結果に影響することから、外国人の子どもたちの場合には慎重に検討するべきだということです。

また、判断する際に用いられる検査は、日本人の子どもたちを対象に開発された検査であり、日本語能力も十分に発達しておらず、日本の文化もよく理解できていない、外国人の子どもたちに用いて知能を評価すれば、結果的に低い評価になるおそれもあると指摘します。
「現状では、本来、知的障害のない子どもたちが、特別支援学級を勧められる事態が起こっていると考えられます。まず、特別支援学級に入った外国人の子どもたちについて、そう判断した過程を正確に把握することが必要だと思います」
そのうえで、高橋さんは、外国人や外国にルーツがある子どもたちに日本語を含めた学びの機会を、国として整えていく必要があるとしています。
高橋脩医師
「外国人の子どもたちをめぐる、日本の教育制度には2つの課題があると思っています。1つは、障害のある子どもたちに対する『特別支援教育』。もう1つは、異文化で暮らすことで直面する課題を解決・解消するための教育。

ですから『特別支援教育』とは別に、日本語教育を行い、日本の文化も学べる教育環境が提供されれば、子どもたちの健やかな成長や教育につながるんだと思います」

必要な教育受ける機会 失われることがないように

小学生の時に特別支援学級で学んでいたサユリさんは、定時制高校では生徒会長にも選ばれるなど熱心に学業に取り組んできましたが、ずっと学力にコンプレックスを抱えてきました。

しかし、20歳を過ぎた今、サユリさんは新たな挑戦を始めました。
派遣社員として働くかたわら、地域の学習塾に通い始めたのです。

「なんか前よりも、自分に少し自信が持てたかな」
問題が徐々にとけるようになったと話すサユリさんは、はにかむように教えてくれました。

将来は、自分と同じように日本で暮らす外国人を支える仕事がしたいと、これまで諦めてきた大学や専門学校への進学を目指しています。

また、文部科学省は、特別支援学級に在籍する外国人や外国にルーツがある子どもの実態について、今年度初めて全国的な調査を行っていて年度内にも結果がまとまる見通しです。

外国にルーツがあっても、その子どもにとって必要な教育を受ける機会が失われることがないように。

そうした子どもたちの学びについて、引き続き取材をしていきたいと思います。
社会部記者
藤田陽子
2016年入局
福井局を経て、現在は警視庁担当
3年前から外国人の子どもの教育を取材
好きなことばは子どもたちに教えてもらった「Vamos!(さあ、行こう)」です

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