【詳しく】アメリカ「ロシアのウクライナ侵攻に遅れ」背景は?

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍がウクライナ側の激しい抵抗にあい、首都キエフへの侵攻がロシア側の想定よりも遅れているという認識を示しました。

アメリカ政府の元高官はウクライナ軍がアメリカなどの支援を得て、以前と比べて装備も能力も格段に向上していると指摘していて、アメリカは、前線の防衛の切り札として対戦車ミサイル「ジャベリン」もウクライナ軍に供与してきました。

対戦車ミサイル 「ジャベリン」とは

「ジャベリン」は戦車などの装甲を貫通する強力なミサイルを標的に向けて自動で誘導する精密兵器で、兵士が1人で持ち運べる機動性の高さからアメリカ軍などが実戦で使用してきました。

ウクライナ軍はこの対戦車ミサイルを使って首都キエフに迫るロシア軍の戦車部隊に応戦しているものとみられます。

アメリカがウクライナに「ジャベリン」を供与

ロシアがクリミアを一方的に併合した2014年以降、アメリカはウクライナへの軍事支援を続けてきましたが、当初は殺傷兵器であるジャベリンは供与していませんでした。

背景には、ロシア側を過度に刺激したくないという考えもあったとみられますが、前のトランプ政権は方針を転換し、2018年にウクライナの防衛力強化を理由にジャベリンの供与を決定しました。ただ、ウクライナの制空権をめぐってロシアとの攻防が激しくなっていることから、ジャベリンをはじめ軍事物資を輸送機で運ぶのは難しくなっています。

アメリカ国防総省のカービー報道官は25日、記者会見で「新たな手段を探さなければならないが、自衛のための支援は続ける」と述べ、軍事物資の供与を続けていく方針を強調しました。

専門家「ウクライナ軍は格段に向上」

アメリカ、トランプ前政権でウクライナ政策を担当した元高官は、「ウクライナはアメリカなど外国からの支援を得て強力な軍を作り上げた。装備も能力も格段に向上した」と述べ、ウクライナ軍の戦力は、ロシアが一方的にクリミアを併合した2014年当時と比べ強化されていると指摘しました。

インタビューに応じたのは、2017年から2019年までアメリカ国務省のウクライナ政策担当の特別代表を務めたカート・ボルカー氏です。

アメリカからウクライナ軍への対戦車ミサイル、「ジャベリン」の供与などに取り組み、現地を訪れて、ゼレンスキー大統領とも面会してきました。

ウクライナ軍「外国の支援を得て軍備を強化」

ボルカー氏によりますと、ウクライナ軍はロシアがクリミアを一方的に併合した2014年の時点までは、訓練や装備が十分ではなく、士気も低下していましたが、その後、アメリカなど外国の支援を得て、軍備の強化を進めてきたということです。

また、ボルカー氏は、「ウクライナ軍は8年間、東部で親ロシア派の武装勢力と散発的な戦闘を続けてきた。多くの人たちが軍を経験し、予備役も多い」と述べ、実戦経験も豊富だと分析しています。

一方でボルカー氏は、ロシアとウクライナの軍の戦力は圧倒的な差があるとしたうえで「ウクライナ軍はある程度までは自分たちを守るための戦闘ができるだろう。しかし、必要な防空能力や沿岸警備力、サイバー攻撃への対応能力などを備えておらず、難しい戦いになるだろう」と述べました。

米国防総省 ロシア軍のキエフ前進「想定よりも遅れ」

アメリカ国防総省の高官は25日、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の状況について、最新の分析結果を明らかにしました。

それによりますと、ロシア軍はウクライナの国境周辺に展開する地上部隊のうち、およそ3分の1の戦力をウクライナ国内に投入し、引き続き主に3つの方向から前進しているということです。
このうち、ウクライナ北部と国境を接するベラルーシから首都キエフに向かうルートでは、キエフに向かうロシア軍に対し、ウクライナ側がロシアの想定よりも激しく抵抗していると分析しています。

そのうえで「ロシア軍はキエフへの前進を引き続き試みているが、彼らが予想していたほど速くは移動できていない」と述べ、キエフへの侵攻がロシア側の想定よりも遅れているという認識を示しました。

また、ウクライナの北東方向から国境を越えて第2の都市、ハリコフに南下するルートでは、ハリコフで今も戦闘が続いているということです。

さらに、ウクライナ南部のクリミアから北上するルートでは、これまで確認されていた北西方向にある都市、ヘルソンに向かうルートに加えて、新たに北東方向に進む部隊が確認されたということです。

これらの部隊は東部ドネツク州のマリウポリなどがある地域に向かっているとしています。

また、アゾフ海に面するマリウポリの西側では、ロシア軍による水陸両用作戦が行われ、数千人の部隊が上陸している可能性があるということです。

一方、ロシア軍は、軍事関連施設を主な標的としてこれまでに200発以上の弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを発射しましたが、そのうちの一部が住宅地に落ちたということです。

アメリカ国防総省の高官は、ロシア軍はこれまでのところ、人口が集中する地域を奪えておらず、ウクライナの制空権も確保できていないとしていますが「情勢は急速に変化する可能性がある」と述べ、警戒感を示しています。

ロシア軍の車列が破壊されたとの情報も

AP通信はウクライナ軍からの情報として26日、首都キエフの近くでロシア軍の車列が破壊されたと伝えています。

撮影された映像には、道路上で激しく壊れ、全体が黒く焼け焦げた車両と、その周辺を調べるウクライナ軍の兵士の様子が映っています。

アメリカがウクライナへの軍事支援として3億5000万ドル拠出

アメリカのホワイトハウスは25日、ウクライナへの軍事支援として最大で3億5000万ドル、日本円にしておよそ400億円を拠出するようバイデン大統領がブリンケン国務長官に指示したと発表しました。

具体的な軍事支援の内容は明らかにしていません。

バイデン大統領は、これに先だって行ったウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、経済や安全保障関係の支援を継続することを伝えていました。

ロシア軍の兵力は90万人

イギリスのシンクタンク、IISS=国際戦略研究所が世界各国の軍事力などを分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」によりますと、ロシアの兵力は90万人。

このうち、陸軍が28万人、海軍が15万人、航空宇宙軍が16万5千人となっています。

去年(2021年)のロシアの防衛費は、620億ドルと世界5位で、ここ数年、軍備の近代化を進め、特に地上戦の能力が大きく向上していると指摘しています。

そして、ロシアは、アメリカの軍事力に対抗するため、核戦力を重視し、ICBM=大陸間弾道ミサイルやSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルなどの戦略核兵器を保有しています。

さらに、アメリカのミサイル防衛システムの配備に対抗して、音速の20倍、「マッハ20」に達するとされる極超音速兵器「アバンガルド」など新型兵器の開発も進めています。

近年では通常戦力に加えて、サイバー攻撃や意図的な情報宣伝などを組み合わせた「ハイブリッド戦」も展開しているとされています。

ウクライナ軍は19万6000人

これに対して、ウクライナは、「ミリタリー・バランス」によりますと、兵力が19万6600人と、ロシアの4分の1以下です。

このうち陸軍は12万5600人、海軍は1万5千人、空軍は3万5千人となっています。

一方、ウクライナは、ロシアの脅威に対抗するため、アメリカなど欧米諸国から軍事支援を受けていて、アメリカなどから対戦車ミサイル「ジャベリン」を供与されているほか、トルコから攻撃型無人機「バイラクタル」を購入するなど、装備の近代化を進めています。

また、2014年にロシアに、ウクライナ南部のクリミア半島が一方的に併合された後、ウクライナ政府は、徴兵制を復活させています。

国防省は、2014年に「領土防衛部隊」を結成し、市民に対して銃など武器の扱い方などの講習を行っていて、非常時には最大12万人が編成される見通しで、軍の指揮下に置かれることになります。

先月には「国家レジスタンス基本法」が施行され、ロシア軍が侵攻してきた場合、国民が一丸となって抵抗するとしています。