“チェルノブイリ原子力発電所 ロシアが占拠” ウクライナ首相

ウクライナのシュミハリ首相は24日、北部にあるチェルノブイリ原子力発電所が戦闘の末、ロシア軍に占拠されたと明らかにしました。

AP通信の映像では、所属不明の軍用車両とみられる複数の車両が原子力発電所の敷地内に入り込んでいる様子が確認できます。

チェルノブイリ原子力発電所では旧ソビエト時代の1986年、運転中の原子炉で爆発が起こり、史上最悪の事故と言われています。

シュミハリ首相は、戦闘による犠牲者はいなかったとしていますが、敷地内にある放射性廃棄物の貯蔵施設の状態は分かっていません。

ロシアのプーチン大統領は今月21日の国民向けの演説で、ウクライナがソビエト崩壊後に放棄した核兵器を改めて保有するという趣旨の発言をしているとしたうえで「ウクライナが大量破壊兵器を手に入れれば、ヨーロッパやロシアの状況は一変する」と主張していました。

ロシアとしては貯蔵されている放射性廃棄物をウクライナ側に渡さないようにするねらいがあるとみられますが、ウクライナの大統領府顧問はロイター通信に対して「ヨーロッパにとって深刻な脅威の1つになった」と述べ、ロシアを非難しています。

IAEA事務局長「危険にさらすような行動自制を」

IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は24日、ホームページ上で「ウクライナ情勢に深刻な懸念をもって注視している」とする声明を発表し、チェルノブイリ原発を含むウクライナの原子力関連施設を危険にさらすような行動を自制するよう呼びかけました。

そのうえで、ウクライナの原子力規制機関から稼働中の原発に関しては安全性が確認されているという連絡を受けている一方、正体不明の武装勢力がチェルノブイリ原発の全施設を掌握したとする通知をウクライナから受けたことを明らかにしました。

IAEAはこれまでのところ、チェルノブイリ原発に関係する死傷者や破壊などの報告は受けていないということです。

グロッシ事務局長は「原子力施設に対するいかなる武力攻撃や脅威も国連憲章や国際法、IAEA憲章に違反する」として、自制を強く呼びかけました。

“線量レベル↑は軍車両が走り汚染土舞い上がったためか”

またその後、グロッシ事務局長は声明を発表し、ウクライナ側から25日の時点で、国内の原子力発電所が引き続き安全に稼働していると連絡を受けたとしています。

またチェルノブイリ原子力発電所の周辺で、放射線量のレベルが高くなっているという情報について、声明では「1986年の事故で汚染された土が、軍の車両が走ったことで舞い上がったことが原因になった可能性がある」とウクライナの当局が説明しているとしています。
そのうえで、報告されている放射線量の数値は公衆に危険が及ぶものではないとしています。グロッシ氏は、原子力施設を危険にさらすような行動を最大限自制するよう改めて呼びかけています。

専門家「原子力施設を“人質”に取る可能性も」

ロシアの軍事侵攻に伴う、チェルノブイリ原発を含めた原子力施設への影響について、核セキュリティーに詳しい公共政策調査会の板橋功研究センター長は「今回の戦闘で施設が破壊・損傷され、放射性物質が飛散しないか懸念している。戦闘行為が続くかぎり、この危険性はあり、風向きによってはヨーロッパの広範囲に放射性物質が広がる可能性もある」と述べました。

そのうえで「ウクライナ政府の管理下にあったものが、本当にロシアの軍隊によって占拠されているのであれば、いったい誰が責任を持って施設や使用済み核燃料などの放射性物質を管理するのか。管理者がわからない“宙ぶらりん”の状態で原子力施設が存在することは非常に憂慮される」と述べ、IAEA=国際原子力機関などがロシアに抗議するなど、対応すべきだと指摘しました。

また、占拠のねらいについては「プーチン大統領の考えはわからないが、核物質がある原子力施設そのものを“人質”に取る可能性はある。少なくとも欧米諸国にとっては非常に大きな圧力になり、交渉材料の1つにするなど、何らかの意図を持って占拠している可能性は十分に考えられる」と述べました。

ロシア側 “線量異常なし ウクライナ側と共同警備で合意”と主張

ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は25日、軍の空てい部隊がウクライナのチェルノブイリ原子力発電所とその周囲を完全に掌握したと明らかにしました。
これに関連してウクライナの原子力規制当局は25日午前8時、日本時間の25日午後3時に「立ち入り禁止区域のモニタリングシステムによるとかなりの数の観測地点で放射線量のレベルに異常がみられる」と発表しました。

理由については「ロシア軍によって占拠されているため、特定することはできない」としています。一方、ロシア側は周辺の放射線量のレベルに異常は確認されていないとしています。そのうえでウクライナ側と共同で警備にあたることで合意したなどと主張しています。

また、ロイター通信などは専門家の話として「周辺で軍の大規模な移動があったことで放射性物質を含むちりが空中に広がったため」とする見方を伝えています。
チェルノブイリ原子力発電所は、首都キエフの北北西およそ110kmに位置し、1978年から1984年にかけて4基が営業運転を開始しました。

4基はすべて旧ソビエトが独自に開発した原発で、史上最悪といわれる事故は1986年4月26日、4号機で発生しました。
日本原子力研究開発機構などによりますと、4号機は当時、試験運転をしていましたが、原子炉を制御できなくなった結果炉心の核燃料が溶けて爆発と火災が発生。大量の放射性物質が放出されて、世界の広い範囲に拡散しました。この事故で運転員や消防士などおよそ30人が急性放射線症などで死亡したほか、原発から数百キロ離れた場所でも高い濃度の放射性物質が検出され半径30キロ以内の住民13万人余りが避難しました。

事故の原因は当初「運転員の規則違反」とされましたが、その後の調査で、原子炉の特性を十分に理解していなかったこと規制が有効に機能していなかったことなどが判明。IAEA=国際原子力機関の調査グループは、国として常に安全を最優先する“安全文化の欠如”が事故の根本原因だなどと報告書で結論づけています。国際的な基準に基づく事故の評価は、最悪の「レベル7」、「深刻な事故」とされ、チェルノブイリ原発と福島第一原発の2つの事故だけが「レベル7」となっています。

事故を起こした4号機は、コンクリートなどで覆う「石棺」と呼ばれる措置が取られその後、さらに外側から覆う巨大なシェルターも設置され、放射性物質の飛散を防ぐための対策が行われています。

一方で、廃炉に向けた具体的な計画の見通しは立っていません。このほか1号機から3号機の3つの原子炉は閉鎖され、廃炉作業が始まっていますが、原発の周辺ではいまも高い放射線量が計測され、半径30キロ以内は「立ち入り禁止区域」に指定されています。

ウクライナ国内には建設中含め17基の原発が

日本原子力産業協会によりますとウクライナ国内には去年1月時点で原子力発電所が建設中を含めて17基あります。西部のフメルニツキ州にある「フメルニツキ原発」が4基。

北西部のロブノ州にある「ロブノ原発」が4基。南部のニコラエフ州にある「南ウクライナ原発」が3基。南東部のザポリージャ州にある「ザポロジェ原発」が6基。

このうちフメルニツキ原発の3号機と4号機の2基が建設中で残る15基は運転中だということです。これらの原発はいずれも「加圧水型」と呼ばれるタイプでおととし1年間の発電電力量は762億キロワットアワーと、国内すべての発電電力量の半分以上となる51.2%を占めているということです。