受験の日に痴漢に気をつけなければならないってどうなの?

受験の日に痴漢に気をつけなければならないってどうなの?
ここ数年、大学入試の試験日の前に痴漢を呼びかけるような卑劣な投稿が目立つようになっています。大事な試験を前にした受験生には通報されないだろうと見込んだ、極めて悪質な書き込みです。受験シーズンまっただ中。決して許されない犯罪から子どもたちを守るためにはどうすればいいのでしょうか?

(神戸放送局 記者 金麗林・大阪拠点放送局 記者 井上幸子)

エスカレートするネット上の書き込み 「本当に卑怯で悪質だ」

ことし1月に行われた大学入学共通テスト前に、ネット上に投稿された痴漢を呼びかける書き込みです。こうした書き込みが相次いだのに対して、厳しい批判の声が上がり、一時ツイッター上でもトレンド入りしました。

街中で受験生たちに話を聞くと、恐怖を感じるという声や憤りの声が上がりました。
「怖いなと思い、私は親と一緒に車で行きました」
「動揺してしまったら、今までの結果が出せないかもしれない」
「人生がかかっている、ピリピリしているときだと思うので、こうした書き込みをされるのはショックが大きいです。すごい世の中だなと驚きます」
大阪の一般社団法人「痴漢抑止活動センター」の松永弥生代表理事によりますと、こうした書き込みはずいぶん前から匿名の掲示板などで見られていたということですが、ここ数年、ネット上での書き込みが激しくなってきたといいます。

松永さんは「面白半分に表に出してくる人が増えてきたようです。本当に痴漢をしなくても書き込みを見た受験生は大きなショックを受けて動揺しています。卑怯で悪質だと思います」と話しています。

警察は駅などでの取り締まりを強化

ネット上でのこうした騒ぎを受けて受験生を守ろうと、兵庫県警はこの冬、取り締まりを強化しています。

先月から神戸市営地下鉄など県内の鉄道会社の協力を得て、利用客が多い駅などで巡回する態勢を増やし、警戒を強化しています。

制服姿で警戒し監視の目を増やすとともに、車内にも私服警察官を増やしました。
駅では「電車内や駅構内での痴漢や盗撮は悪質な犯罪行為です」といったアナウンスも繰り返し流しています。
兵庫県警察本部鉄道警察隊 堀ひかる巡査
「受験の会場の近くには制服を着た受験生が集まるため、そういったところを犯人が狙って、満員電車などに乗って犯罪をするということがあります。大学の近くの駅などは重点的に警戒にあたるようにしています」

被害に遭わないためにできること

警察庁の警察白書によりますと令和2年の時点で、痴漢(迷惑防止条例違反)は検挙されただけで1900件以上発生しています。被害を届け出ない人も多いことを考えると、実際にどこまで広がっているかはわかりません。

なかなか根絶できない中で、どうすれば身を守ることができるか。
「痴漢抑止活動センター」では対策のポイントを次のようにまとめています。
●ドア付近や車両の連結部分は避ける。
 座席エリアの方が被害に遭いにくい。
●背筋を伸ばす。
 「この学生は抵抗しないだろう」と思われないよう堂々とした雰囲気でいることが大切。
●勇気を出して、声を出したり手を振り払う。
 おびえて動かなくなると行為がエスカレートする。
このほか受験の時は以下のような対策も有効だといいます。
●中高生に見られないように私服で試験会場に向かう。
●複数で行動する。
また、効果的だというのは「痴漢抑止バッジ」。
通学カバンなどにつけて使います。

これまでにおよそ1万6000個が配布され、バッジをつけた人からは「被害に遭わないようになった」「電車に安心して乗れるようになった」などの声が寄せられています。

「泣き寝入りしない」という意思表示が痴漢行為をさせないことにつながるといいます。

センターのホームページでは、動画や、なるべく被害にあわないためにできることなどについての情報も紹介されています。

「痴漢は犯罪」足りない社会全体の認識

「痴漢抑止活動センター」は学生を対象とした教育にも力を入れています。

アニメーション教材を作成し、学校の授業で活用してもらっています。

痴漢は犯罪だということを社会全体で認識することが必要だと感じているからです。

学校で取り上げることで、被害を受けた生徒が先生に相談しやすくするのもねらいです。
「痴漢抑止活動センター」代表理事 松永弥生さん
「小学校低学年の子に関しては、不審者に気をつけようという教育がありますし、高校でも自転車通学をする子には交通安全教育があります。でも電車内については痴漢がいるのを知りながら、具体的な情報や対処法を何も教えずにラッシュの電車に子どもたちを乗せている状態です。電車通学をしている子には痴漢犯罪に対する安全教育が行われるべきです」

社会全体で見逃さないために

社会で根絶していこうという取り組みも始まっています。

京都女子大学では、学生たちが京都府警と協力して、ポスターを作成しました。
作成に携わった市川ひろみ教授は、従来のように女性側に注意を呼びかけるだけでは根本的な解決にならないと感じていました。

学生たちと話し合いを重ねてポスターに描いたのは、通報する女子学生の姿。

「だれもが安心して乗れる電車へ」という文字を大きく添えました。

常に痴漢に気をつけなければならない今の状況が、いかにおかしいことなのか、学生たちもポスターを作りながら、気づきがあったといいます。

ポスターはこの冬、阪急電車の駅などで掲示されました。
京都女子大学 市川ひろみ教授
「もし電車の中でナイフを振り回している人がいたら110番通報するのに、痴漢は必ずしも通報されない。痴漢という犯罪を軽くみているということだと思います。加害者は抵抗しなさそうな人を狙い、社会は逃げない人が悪い、痴漢がいるのはわかっているのに対策を取らない人に落ち度があると、痴漢を個人の問題に矮小化しています。痴漢は深刻な性暴力で、重大な人権侵害です。これが日常的に公共交通機関で起こっているというのは異様な社会なのです」
受験に向けて懸命に努力を続けてきた子どもを「頑張ってね」と送り出したその先に、痴漢が待っているとしたら。

性犯罪は許さないという認識を改めて持ち、電車に乗っている大人たちがしっかりと目を開いて、子どもたちを守る必要があるのではないでしょうか。