ビジネス特集

【解説】“ウクライナへの軍事侵攻” どうなる?経済への影響

起きて欲しくないことが現実のものとなってしまいました。「ロシアによるウクライナ侵攻」。
2月24日、ロシアの複数の国営通信社は「ロシア軍はウクライナの軍の施設や飛行場を高性能の兵器によって無力化している」として、攻撃が始まったことを伝えました。
遠く離れた東ヨーロッパで起きている異常事態は日本の暮らしや生活、企業業績にどのような影響を及ぼすのか、そして世界経済はどうなっていくのでしょうか。
(経済部デスク 豊永博隆)

“全面的な侵攻”

「プーチン大統領の行動は全面的な侵攻」
「ウクライナの都市が攻撃を受けている」
「ロシアの攻撃部隊がマイウポリ、オデッサに上陸」

2月24日午後、次々と通信社の速報が伝えられ、金融市場には衝撃が走りました。

金融市場は身震い

東京株式市場は、プーチン大統領がテレビ演説で特別な軍事作戦の実施を明らかにしたあと、売り注文が広がりました。
日経平均株価の下げ幅は一時、600円を超え、おととし2020年11月以来、およそ1年3か月ぶりに2万6000円を下回りました。

終値としてもことしの最安値を更新しました。

また、有事やインフレに強い、安全資産とみられている「金」の先物価格が取り引き時間中の最高値を更新。
外国為替市場でもドル円相場では円高が進みました。

金融市場はある程度、有事に構えていたとはいえ、実際、いざ起きてみると驚いた投資家は多く、リスクを避けようという動きが広がっています。

恐怖指数が反応

恐怖指数と呼ばれる指数があります。

投資家の不安な心理を表すとされる指標で、正しくはボラティリティ・インデックス、通称「VIX指数」というものでアメリカのシカゴ・オプション取引所が公表している指数です。

30を超えると警戒感が強いとされていますが、24日、この指数は37をつけました(24日19時時点)。

アメリカ政府がウクライナに駐在する大使館職員に退避を命じたことなどで1月25日に38をつけて以来の水準です。

エネルギー価格高騰か?

ウクライナ情勢で今、経済に最も悪い形で波及する経路とみられているのがエネルギーを通じた影響です。
というのもロシアは世界有数のエネルギー大国です。

天然ガスは世界第2位、石油は世界第3位の生産量を誇ります。

軍事的な衝突で石油や天然ガスの供給が滞るのではないかとの懸念が強まれば、原油価格や天然ガスの価格上昇につながる可能性が高まっています。

国際的な原油取り引きの指標となるニューヨーク市場のWTIの先物価格はこの侵攻関連の情報を受けて急上昇していて、7年7か月ぶりに1バレル=100ドルを超えました。
原油の先物価格上昇の影響はまず、国内のガソリン価格に響きます。

2月21日時点のレギュラーガソリンの小売価格は全国平均で1リットルあたり172円。

値上がりは7週連続でおよそ13年ぶりの高値水準が続いています。

また、灯油の店頭価格も値上がりしています。

原油価格が上昇すればガソリンや灯油の価格がさらに値上がりします。

さらに頭が痛いのが天然ガスの価格への影響です。

その日本への波及経路はやや複雑です。

起点はヨーロッパにあります。

ヨーロッパ各国は天然ガスの需要全体のおよそ34%をロシアから輸入しています。

このうち、パイプラインによるものが31%、LNG=液化天然ガスによるものが3.2%となっています。(2020年BP統計より)
アメリカとEU=ヨーロッパ連合、それに日本はロシアに経済制裁を科すことを決めましたが、今後ロシアが対抗措置としてパイプラインによる天然ガスの供給を絞る可能性が指摘されています。

そのような事態になればヨーロッパの天然ガス価格がさらに上昇することは避けられません。

ヨーロッパでの天然ガスの指標となる価格があります。

「オランダTTF」と呼ばれる指標価格です。

この価格の上昇は、アジアでのLNG=液化天然ガスの市場にすぐに伝ぱします。
日本の電力会社は発電所の燃料として大量のLNGを輸入していますが、ウクライナ情勢が悪化すれば燃料代が大幅に上昇することにつながってしまうのです。

すでに大手電力会社10社のことし3月分の電気料金は比較できる過去5年間で最も高い水準となっています。

この先も電気料金が高止まりした状態が続く可能性があります。

穀物からの影響も

また、穀物価格を経由した日本への影響も懸念材料の1つです。

ウクライナは、黒海の北に広がる平原の国で、土壌が肥沃(ひよく)なため穀物の生産が盛んな大農業国です。

FAO=国連食糧農業機関によりますとおととし・2020年の▽菜種の輸出量は世界第2位、▽とうもろこしは世界4位、▽小麦は世界5位となっています。

日本が直接ウクライナから大量にこれらの農産物を輸入しているわけではありませんが、穀物輸出大国の1つであるウクライナで農業生産量が減るような事態になれば、その不足分を求める国が増えて、ドミノ倒しのように需給がひっ迫し、世界の穀物価格が値上がりする可能性があると専門家も指摘しています。

世界的なインフレと金融引き締め加速か

世界は今、インフレに悩まされています。

新型コロナウイルスの感染拡大にともなうサプライチェーンの混乱、人手不足や賃金上昇、そこにウクライナ情勢が加わり、アメリカやヨーロッパなどでは記録的な物価上昇が続いています。

エネルギー、そして穀物の価格がこれ以上高騰すれば世界的なインフレがさらに加速する可能性があり、コロナ禍から回復途中にある世界経済を腰折れさせてしまいかねないのです。

また、インフレが加速すれば各国の中央銀行は金融引き締めを強化する可能性があります。

アメリカのFRB=連邦準備制度理事会は3月の会合で利上げする見通しですが、利上げのペースを加速するということになれば、日本との金利差が拡大し、さらなる円安が進み、日本の輸入物価を押し上げる可能性も排除できません。

ウクライナ情勢が日本の物価上昇に?

エネルギー、そして穀物の価格が上昇することになれば日本でも物価の上昇につながる可能性があります。

そうなれば消費者の暮らしを直撃することになります。

すでにガソリン価格や電気料金、小麦粉やパン、食用油など幅広い商品の値上げが相次いでいます。

さらなる値上げとなれば、賃金の上昇が十分でないなかでは個人消費が冷え込むことにつながり、日本経済には大きな痛手となります。

日本企業の現地ビジネスにも影響

ロシアには数多くの日本企業が進出しています。

外務省の海外進出日系企業拠点数調査によりますと、ロシア進出企業の数はおととし・2020年10月時点で421。

トヨタ自動車や日産自動車など自動車メーカーが現地に生産拠点を設けているほか、三井物産や三菱商事などは、極東サハリンでの天然ガスの開発に参画しています。

今後、情勢が悪化し、経済制裁の応酬ということになれば、現地の事業や資金調達などに影響が及ぶおそれもあります。

つながっている経済

経済の視点でみても世界は複雑に、固くつながっていることを常々実感します。

東ヨーロッパで起きたロシアの軍事侵攻が、現地の人々を苦しめるだけでなく、日本の消費者の家計を圧迫したり、コロナ禍からようやく立ち直ってきた企業の業績に悪影響を及ぼしたりしないことを祈りながら日々の動きを伝えていきたいと思います。
経済部デスク
豊永 博隆
1995年入局
経済部、アメリカ総局(ニューヨーク)、おはBizキャスター、大阪局デスクを経て現職
現在、エネルギーや産業政策などの分野を担当

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