ウクライナ専門家との共同研究 影響を懸念 福島大学など

ウクライナ情勢をめぐって緊張が高まる中、東京電力福島第一原子力発電所の事故のあとウクライナの専門家と共同でチェルノブイリ周辺の放射性物質について調査している福島大学などの関係者からは、今後の研究への影響を心配する声が上がっています。

ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所では36年前の旧ソビエト時代の事故で大量の放射性物質が放出され、現在も拡散する危険性が指摘されているほか、周辺では立ち入り禁止区域が設けられています。

福島大学などは11年前の福島第一原発事故のあと、ウクライナの研究機関と共同でチェルノブイリ原発周辺での放射性物質の観測や汚染の拡大を防ぐための研究を続けていて、福島県での調査結果なども共有しています。

しかしウクライナ情勢をめぐる緊張が高まり、来月に予定されていた研究者の現地への派遣を取りやめるなど影響が出始めています。

チェルノブイリはロシア軍の部隊がとどまるベラルーシとの国境に近く、今後の状況次第では動物や土壌を採取するサンプル調査ができなくなるほか、観測機器が破壊されるなどしてデータの継続した取得ができなくなるおそれもあるということです。

共同研究の中心メンバー、福島大学環境放射能研究所の難波謙二所長は「福島の事故の25年前に起きたチェルノブイリの事故の調査は福島での放射能の管理にもつながってくる。なんとか落ち着きを取り戻してほしいと思っているが、ロシアがどこまで軍事行動をするのかによって私たちの今後のことを変えざるをえない」と話しています。

ウクライナ出身の研究者「集中できない状況に」

福島大学には共同研究に参加するウクライナのほかロシア出身の研究者もいて、研究への影響を心配する声が上がっています。

ウクライナ出身のマーク・ジェレズニヤク特任教授は「チェルノブイリ事故の直後から一緒に研究をしているロシア出身の研究者もいるが、彼は昔からの友人でもあり研究者でもあるので、これからも一緒に研究を続けたいと思っている。ただ、状況が緊迫している中で私自身、ウクライナにいる友人や親戚などが心配で本来の研究に集中できない状況になっている」と話しています。

福島大学などの共同研究とは

福島大学など国内の大学とウクライナの複数の研究機関は、東京電力・福島第一原発の事故のあと、2017年からチェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質の状況や影響を把握する共同研究を行っています。

研究はチェルノブイリ原発からおよそ半径30キロ圏内の「立ち入り禁止区域」で主に行われ、放射性物質を観測する装置を設置したり、周辺に生息する動物や水などを採取してデータを解析したりしています。

具体的には水に溶けやすい放射性物質が河川へどのように流入しているか調べたり、大規模な森林火災により大気中に含まれる放射性物質が100キロ余り離れた首都・キエフまでどれくらい流れてくるかを車両に搭載した観測機器で観測したりするほか、ドローンを使って森林の放射性物質の把握も行います。

このうち、河川の水質調査は東京電力・福島第一原子力発電所の事故の環境調査に生かそうと日本でも研究が進められ、データの共有や検討などをしています。

また「立ち入り禁止区域」での土地の活用法についてウクライナ政府に提言するほか、福島の「帰宅困難地域」での状況や取り組みなどの情報を共有し、禁止区域に隣接する住民の帰還に向けた課題などの情報交換も行われているということです。

研究チームでは来月、ウクライナを訪問して調査を行う予定でしたが情勢の悪化を受けて取りやめ、再開のめどはたっていません。

また、ロシアの軍事侵攻に備え現地では立ち入り禁止区域などでの行動に制限がかかっていて、このままではウクライナの研究者によるサンプルの採取も難しく、継続したデータの取得への影響が懸念されています。