ウクライナ東部 ロシアが一方的に国家の独立承認 なぜ…?

ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部の親ロシア派が事実上支配している地域の独立を一方的に承認したうえで「平和維持」を名目にロシア軍の現地への派遣を指示しました。
□なぜロシアは一方的な独立承認に踏み切ったのか?
□ウクライナ東部とはどのような地域なのか?
□今後の展開はどうなるのか?

緊迫する事態を解説します。

ウクライナ東部とは…

ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部はいずれもロシアと国境を接し、親ロシア派の武装勢力が占拠しています。歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、ロシア語を母国語とする住民が多い地域です。ソビエト時代に開発された炭鉱や鉄鉱石の鉱山があり豊富な資源を背景にした鉄鋼業が盛んで、ウクライナ有数の工業地帯となっていました。

2014年からロシアの後ろ盾を受けた親ロシア派の武装勢力と、ウクライナ政府軍との間で散発的に戦闘が続き、ロシアとウクライナの対立の要因の1つとなっています。

州政府庁舎の建物など次々に占拠

2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合すると直後の4月、親ロシア派の武装勢力が州政府庁舎や治安機関の建物に押し寄せ次々に占拠。その後、ウクライナからの独立を一方的に表明しました。

これまでに1万4000人以上が死亡

ウクライナ政府はこれに対して軍を派遣して強制排除に乗り出しましたが、各地で武装勢力と激しく衝突し死者が多数出る事態に発展しました。

政府軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと2014年9月、それに2015年2月にはフランスとドイツの仲介で「ミンスク合意」という停戦合意が結ばれましたが、その後も散発的な戦闘が続きました。
OHCHR=国連人権高等弁務官事務所によりますと、これまでに双方で1万4000人以上が死亡したということです。

8年にわたる紛争の影響で生活に不可欠な水道や暖房施設などインフラが破壊される甚大な被害が出ていて、これまでに150万人の人々がこの地域からの避難を余儀なくされています。

【解説】一方的な国家承認 ロシアのねらいとは…

ロシアによる一方的な独立国家の承認で事態は一層緊迫化していますが、ロシアはなぜ承認に踏み切ったのか、また軍事侵攻の可能性や今後の展開はどうなるのでしょうか。

1. なぜ国家の承認に踏み切った?

国家として一方的に承認したというのは、ロシアがウクライナ東部の一部地域を管理下に置くことを意味します。プーチン大統領はかねてよりウクライナをみずからの勢力圏ととらえてきました。
そして今回、一方的に承認する必要性に迫られたとも見えます。ロシアはウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟だけは「越えてはならない一線だ」としてNATOを拡大しないよう求めてきましたが、欧米はこれに応じず逆にウクライナに兵器の供与など軍事的な支援を強めてきました。

親ロシア派は「ウクライナ政府軍が力ずくで奪還してくる」とあおり、国家の承認と軍事支援の要請を受けたプーチン大統領がこれに応える形をとりました。

しかし一方的な国家の承認は、これまでウクライナ政府側に迫ってきた停戦合意をロシアがみずからほごにすることにつながります。欧米からの制裁強化も覚悟のうえでプーチン大統領は2014年のクリミアに続いて今度はウクライナ東部を確実に影響下に置く道を選んだことになります。

2. 「平和維持」部隊派遣へ 侵攻の可能性は?

「軍事侵攻」はない、というのがロシアの立場ですが、プーチン大統領は国防省に対して「平和維持」を名目にロシア軍を現地に派遣することを指示しました。ロシアによる軍の駐留につながる可能性があります。

ロシアはウクライナの国境周辺に依然として大規模な軍を展開しています。ウクライナの北部と国境を接するベラルーシでは合同軍事演習の終了予定だった20日をすぎても軍を駐留させ、圧力を維持しています。

まずはロシア軍がいつ、どれほどの規模で展開するのかが焦点です。もし展開すれば、それがさらに恒久的な駐留につながるのか見極めていく必要があります。

そして日本をはじめ欧米各国がどこまで結束してウクライナの主権と領土の一体性を守れるのかが問われることになります。

3. プーチン大統領 強硬姿勢に変化は?

プーチン大統領が強硬でなかったことは、これまでもありません。欧米側の制裁も含めた反応もみながら、引き続きNATOにウクライナを加盟させないことなど要求を突きつけ続けるとみられます。

ウクライナ東部の一部地域に部隊の前進を決めたことで、軍事侵攻がありうると脅しをかけ続けて安全保障をめぐる交渉を有利に進めたい意向があると思われます。

4. 衝突回避に必要なことは?

ロシアが交渉をしたいのはアメリカで、双方があらゆるレベルで対話を維持させることが何よりも大事です。アメリカとしても米ロの外相会談など対話、チャンネルは継続させてロシア側の真意を見極めて大規模な侵攻を抑止したい考えとみられます。

ただロシア側が最も重視するNATOの不拡大の問題では、アメリカは一歩も引かない構えです。またロシア軍が東部の一部地域に派遣されることでウクライナ軍との衝突が起きないかも懸念されます。

ウクライナ情勢はロシアが一方的に国家承認したこと、部隊の派遣を決めたことでさらに情勢が複雑に動いています。

5. アメリカはどう出る?

バイデン政権高官は今後の対応について慎重な説明に終始しています。この高官は「ロシア軍は過去にもウクライナに駐留しており、派兵は新しい動きとは言えない」とも述べて、強力な制裁は科さない可能性を示唆しました。

現時点で「軍事侵攻」と明確に位置づけないのは、ここで「強力な制裁」を科してしまえばロシア軍による大規模な侵攻を抑止するためのカードを早々に失いかねないことがあります。

さらにこの段階での強力な制裁はロシアにエネルギー依存しているヨーロッパ各国の支持を得にくいという考えもあるとみられます。

6. アメリカにロシアの行動を抑える秘策はあるか?

何とか外交によって事態の打開をはかりたいというのが本音で、24日に予定されているロシアとの外相会談を開く可能性は残しています。

一方で「弱腰」と映る対応をとることもできません。このため政権高官は「このあと数時間、ないし数日のロシアの行動を注意深く観察し相応の対応をとる」と述べて、ロシア軍の動き次第では強力な制裁を科す可能性があることをにおわせ、けん制しました。

欧米各国、そして日本などと緊密に連携し結束した対応をとれるかが今後の成否の鍵を握ることになりそうです。