北京オリンピック 覚えておきたい5つのこと

北京オリンピック 覚えておきたい5つのこと
北京オリンピックが2月20日閉幕しました。4年に一度の冬のスポーツの祭典で覚えておきたい5つのこととは?

(ネットワーク報道部記者・松本裕樹、鈴木彩里)

目次

1 日本のメダル数は過去最多
2 採点競技の難しさやドーピングの問題
3 SNSのひぼう中傷
4 オリンピックで中国は何を示したか
5 冬のオリンピックは今後どうあるべきか
※記事の最後にメダルを獲得したすべての日本選手を写真で振り返ります!

1 日本のメダル数は過去最多

今回の北京大会は冬のオリンピックとしては24回目の開催。日本は18個のメダルを獲得し前回のピョンチャン大会(13個)を上回って過去最多でした。内訳は金メダル3個、銀メダル6個、銅メダル9個。メダルの獲得数は全体6位でした。
スピードスケートでは高木美帆選手が4個のメダルを獲得。1998年に行われた長野大会の船木和喜選手と前回のピョンチャン大会で自身が獲得した3個を上回って1大会の最多記録を達成しました。また最年少と最年長のメダル記録も生まれました。女子最年少はスノーボードのビッグエアで銅メダルの村瀬心椛選手の17歳。2010年のバンクーバー大会のフィギュアスケートで銀メダルだった浅田真央さんの19歳を更新しました。最年長はカーリングで銀メダルを獲得した石崎琴美選手の43歳1か月。それまでは2014年のソチ大会のスキージャンプで葛西紀明選手がマークした41歳8か月でした。
日本選手の成績についてモーグルで5大会連続でオリンピックに出場した上村愛子さんに聞きました。
上村愛子さん
一番印象に残っているのは私がモーグルをしていたからではありませんが、メダル第1号となったモーグルの堀島行真選手です。モーグルは大会日程の前半に組まれているので私も現役の時は日本チームに勢いを与える滑りをしたいと考えていました。堀島選手が攻めの滑りで獲得した銅メダルはその後の選手たちにプラスに働いたと思います。またスキーノルディック複合で渡部暁斗選手が3大会連続でメダルを獲得したこともうれしかったですね。直前のワールドカップでは思うような成績を残せていなかったのにここ一番の勝負強さはさすが。今大会の日本チームは、若手からベテランまでうまく融合したことがメダル量産につながったのではないでしょうか。

2 採点競技の難しさやドーピングの問題が露呈

今大会は採点基準や検査のあり方が問われる場面がありました。スノーボードのハーフパイプでは平野歩夢選手が大技の「トリプルコーク1440」を決めるなど、決勝2回目を難しい演技構成でほぼミスなく滑りましたが得点は伸びませんでした。またスキージャンプ混合団体では高梨沙羅選手がスーツの規定違反で失格になりました。この種目では出場した女子選手の4人に1人となる5人が失格の異例の事態でした。
上村さん
採点競技でも歴史のあるフィギュアスケートは採点が明確化されていて、比較的納得しやすい競技の見せ方をしています。モーグルも点数が細分化されていて縦回転に制限を設けるなど技の上限が定められています。ハーフパイプやビッグエアといった回転数に制限がない競技なら、なおさら100点満点がどういう技になるか示すことが見る方も納得しやすいジャッジになると思います。
オリンピックの歴史が専門で東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事を務めた中京大学の來田享子教授にも話を聞きました。
來田教授
五輪の歴史を遡れば、文学や絵画の芸術性を競う『芸術競技』と呼ばれる競技もありました。採点の難しさからなくなった経緯もあり、客観的にみて公平にジャッジする難しさは昔からの課題です。今回の問題を受けて関係者は採点競技の基準やルールをどう運用するのか議論し、改善していくことが求められます。平野選手など選手側の声を尊重していくことが必要だと思います。
そしてジャンプのスーツ問題については。
來田教授
ジャンプした後に違反が分かったり選手が次々と失格した状況を見ると、ルールを運用する仕組みに問題があったように感じています。国際スキー連盟は今後の競技の透明性を担保するためにもルールの議論はもちろんのこと、そのルールがどう運用されているか検証し説明していく必要があると思います。
フィギュアスケートではROCのカミラ・ワリエワ選手をめぐるドーピング問題からスポーツの公平性のあり方にも厳しい目が向けられました。
來田教授
今回の問題はIOCとCAS=スポーツ仲裁裁判所とのやりとりの詳細が明らかになっていない部分はありますが、IOCがCASに提訴した際に、ドーピングによる競技の不公平の問題だけでなく、彼女の心理や今後の将来も含めた人権的な観点からの判断材料を提示したかどうかがポイントとなります。
アスリートファーストにはアスリートが公平に競技できることと同時にその人の将来までをも見据えた人権的な配慮が当然含まれるはずです。
ドーピングの事実とは別に、あのような状況下で演技することになるのは予想でき、そのことによって彼女の心が傷つき、尊厳が奪われる可能性があることを周りの大人やCASがもっと考えなければいけなかったと思います。

3 SNSのあり方をどう考える

大会ごとに存在感を増すSNS。2つのメダルに輝いたジャンプの小林陵侑選手は人気のビン・ドゥンドゥンと一緒に映った姿を投稿し、注目を集めました。その一方で規定違反で失格となった高梨選手は競技終了直後に伝えられなかった自身の思いをSNSで述べました。また海外に目を向けると中国人の両親のもとアメリカで生まれ育ったフィギュアスケートの中国代表・朱易選手は団体の女子シングルでショート、フリーともに最下位に終わり、中国のSNS上で批判の書き込みが相次ぎました。
上村さん
日本選手はSNSのリスクをしっかり理解したうえで積極的にみずからのことばで会場の雰囲気や感謝のことばを述べているのがとても印象的でした。私が現役のころはそういった手法もなかったしIOCの規制も厳しかったので、そういう面ではIOCもずいぶん変わったなと感じています。SNSの功罪についてはよく話題に出ますが、日本選手や見ている人たちにとって今回の大会はプラスに働いていたと思います。

4 開催国・中国は何を示したか

史上初めて夏と同じ開催都市で開かれた北京オリンピックで中国は『一起向未来(ともに未来へ)』をスローガンに大会の成功をアピールしました。
來田教授
開閉会式の演出はオリンピックの理念を理解した奇をてらわない演出となっていたと思います。一方で大会が始まると、運営面での課題や選手の活躍は話題になりましたが、新疆ウイグル自治区などの人権課題は、問題が覆い隠されてしまった印象です。オリンピックは人権課題と向き合って人間の尊厳を保持し、世界の平和を作っていくことが大命題となっています。しかし今大会については向き合わなければいけない人権問題を覆い隠す役割を大会が果たすことになってしまいました。この構造が如実に表れた大会であったという見方もできると思います。

5 冬のオリンピックは今後どうあるべきか

4年後の冬のオリンピックは2026年にミラノ・コルティナダンペッツォの2つの都市での共催です。そして2030年の大会招致を札幌市が目指しています。來田教授は何のために大会を開催するのかその意義を明確にすることが必要だと話しています。
來田教授
北京大会は冬の大会の開催地の可能性を広げるという意味では人工降雪機などを使ってチャレンジしました。そしてミラノ・コルティナダンペッツォ大会は複数都市での開催となります。冬のオリンピックはこうした挑戦が続いています。この流れの中で2030年の大会を札幌市が招致を目指すのであれば世界に向けて何を発信するかが重要です。また大会を開催した場合、開催しなかった場合の両方について、街のビジョンを提示し、市民が開催の是非を選択できるように議論を深めるべきだと思います。私は去年の東京オリンピックがメッセージを十分に伝えることができなかったと思っています。この反省を踏まえてオリンピック開催の是非だけではなく、開催するとすればどのような世界の未来を目指すのか、大会の10年後にどんな街にしていきたいのかその狙いを明確にし、市民とともに考える必要があると思います。
上村さんは冬のオリンピックが終わった今こそウインタースポ-ツのすそ野を広げることが重要だと指摘しています。
上村さん
日本選手の活躍で多くの子どもたちがウインタースポーツに興味を持ってくれている今こそ競技へ結び付ける取り組みを各競技団体が進めていく必要があると思います。私自身も長野で開催されているモーグルの教室にゲストとして参加しているのですが、大会の興奮が冷めないうちに子どもたちにモーグルの楽しさを伝えたいですね。

ここからはメダリストを一挙にご紹介!