着られなくなった衣服の“末路”とは…

着られなくなった衣服の“末路”とは…
うずたかく積まれている「衣服」。
古着屋に持ち込まれたり、寄付に出されたりしたのち「捨てられた衣服たち」です。

着られなくなった衣服が“ただのゴミ”となるだけではなく、環境問題や国どうしのトラブルにまで発展する原因となっています。

どういうことなのか、衣服の“末路”に向かってみました。
(サンパウロ支局長 木村隆介/国際部 記者 田村銀河/国際部 記者 野原直路)

世界中で捨てられる衣服たち

私たちが向かったのは日本からおよそ1万7000キロ、南米チリの北部に広がる「アタカマ砂漠」です。
アンデス山脈に沿って南北およそ1000キロにわたって伸びる広大な砂漠。
世界で最も乾燥した地域ともされ、まとまった雨が降った年にだけ色鮮やかな花が咲くことで知られています。

このアタカマ砂漠の居住地域を車で抜けた先、目を疑うような光景が広がっていました。
膨大な量の衣服が捨てられ、巨大な「服の山」ができているのです。
ジャケットやジーンズ、靴にバッグ。
世界各地で大量生産された末に、売れ残った商品や、着られなくなった古着です。
この場所だけで10万トンに上るとみられ、「衣服の墓場」のような状況になっていました。

深刻な環境汚染 有毒ガスも

捨てられた衣服には石油を原料とする化学繊維が使われています。
このため、分解されずに砂に埋もれ、土壌汚染の原因となっています。
さらに、火災によって大量の有毒ガスが発生する事態もたびたび起きています。
何者かが火をつけたと見られていて、私たちが現場を訪れたときもプラスチックを燃やしたような、いやなにおいがただよっていました。
この地域に暮らす人たちの健康被害も懸念されているのです。

服はどこから?

砂漠を埋め尽くす大量の服はどこから来るのか。

まず到着するのが、近くにある自由貿易港です。
この港は、通常30%ほどかかる衣料品の関税が免除されています。
砂漠地帯にあり、厳しい自然環境が広がるこの地域。
経済を活性化させて人口の流出を防ごうと、チリ政府が特例で設けました。

その結果、世界各地から年間6万トンもの売れ残りの衣料品などが集まり、南米各地の業者が取り引きする衣服の再利用ビジネスの拠点へと発展しました。
一方で、集まった服の6割以上はここでも売れ残ってしまいます。
化学繊維が使われる衣料品はそのまま焼却したり、埋め立てたりすることは禁じられているため、一部の業者が処分の手間を省こうと違法に砂漠に運び込んでいると、地元の自治体はみています。
アルトオスピシオ市 環境部門担当 エドガル・オルテガさん
「われわれも監視を強化していますが、限界があります。チリ政府に対応をお願いしてもなかなか動いてもらえません。ここに到着する衣服の大半は廃棄物で、何の役にも立たない。そしてこの地域の貧しい人たちに深刻な影響を与えています」

衣服の生産は年間1000億着

問題の背景に指摘されているのは衣服の大量生産です。
「ファストファッション」の浸透で、流行のデザインを取り入れた衣服の大量生産と大量消費が繰り返される中、世界で生産される衣服の量は2014年には1000億着を突破、2000年のおよそ2倍となりました。

環境省が行った調査では、日本で1人が年間に購入する服は平均でおよそ18着。
その一方で、年間1度も着ない服は平均で25着にのぼっています。
日本では、着られなくなった服の6割ほどがごみとして国内で処分されますが、売れ残った服や寄付に出された古着などの一部が輸出に回り、2015年には24万トンの古着が日本から輸出されました。
日本以外にもアメリカやドイツ、イギリスといった先進国などから輸出され、パキスタンやインド、マレーシアが多く輸入しています。

そこで買い取り手がなかった場合、さらに別の国に輸出されることになり、最終的に誰にも買われなかった衣服がチリのような場所に集まるとみられています。
こうした“衣服の墓場”とも言えるような場所はチリだけでなく、西アフリカのガーナなど世界各地にあるということです。

動き出した途上国、でも…

こうした中、古着を大量に受け入れている途上国からは反発の動きも出ています。
タンザニアやウガンダなどで作る「東アフリカ共同体」は2016年、地域の産業を保護するため、外国からの古着の輸入を禁止することで合意しました。

しかし、これに待ったをかけたのが古着の輸出大国のアメリカでした。
アメリカの古着の業界団体が「輸出できなくなれば経済的な損失が大きいほか、アメリカで廃棄されればアメリカ国内の環境が損なわれる」と猛反発したのです。
結局、超大国アメリカからの圧力を受けた東アフリカ共同体は輸入禁止を断念。
衣服が先進国から途上国に流れ着く構図はいまも続いています。

解決に動き出す若者も

こうした消費の在り方に一石を投じようとする若い世代もいます。

大学4年生のチャイルズ英理沙ミチさんは、企業のインターンをする中で、善意の寄付という形を通じて送られたはずの古着が途上国で大量に捨てられている現実を知り、大きなショックを受けたといいます。
そこで協力を求めたのがガーナのアーティスト、セル・コフィガさん。

セルさんは捨てられた服の布きれなどを使って目を引く明るいデザインの服をつくり、この問題を発信する活動を続けています。
セル・コフィガさん
「多くの消費者は選択肢がなく、ただ示されたものを買っていて、そういった意味で、消費者もまた被害者です。しかし、どんな商品を買うのかという選択肢を広げていけば、問題の改善に向け前進することができます」
チャイルズさんは仲間の学生とともに、日本の消費者にも衣服の廃棄の問題に気付いてもらおうと、セルさんがつくった服の展示販売会を大阪と東京で開催。

SNSでも展示の様子や作品に込められたセルさんの思いを発信しています。
チャイルズ英理沙ミチさん
「セルさんは『自分はいま起きている問題を発信する手段を持っている。だからこそ、それを伝える責任がある』と言っていて、それは私たちにも通じる部分があると思いました。別の国のどこかで誰かがしわ寄せを受けていると気付けるよう、気付きの連鎖を作りたいです」

「愛着持って長く着て」

製品づくりの過程を知ることで愛着を持って長く使ってもらおうという取り組みも広がっています。
サステイナブル=持続可能をテーマに、東京 銀座の一角に期間限定で営業している店舗には、環境に配慮した製品などを販売するブランドが集まっています。
例えば、写真のかばんは一見普通の革でできているように見えますが、使われているのは廃棄されるりんごです。
ジュースを作ったあとに残るりんごの絞りかすを乾燥させて、樹脂などと混ぜた生地を使用。
石油由来の原料の使用を減らすことができ、二酸化炭素の排出も抑えられるということです。

この店舗では、訪れる客一人一人に製品ができる過程や環境負荷について説明し、ものづくりに込めた思いを消費者に理解してもらうことが重要だと考えています。
店舗を企画した「KAPOK KNOT」代表 深井喜翔さん
「ものづくりの背景を知ってもらうことで、長く使ってもらい、そうすることで消費の考え方も変わってくるのではないかと思います。大量生産・大量廃棄というサイクルから脱却し、これまでなかったような選択肢を作ることを目指して取り組んでいます」
取材を通して見えてきたのは、私たちの日々の便利な生活の裏で、遠く離れた世界の別の場所にしわ寄せがいっているという実態です。
この問題は簡単には解決できません。
しかし、身近な衣服の“末路”について考えてみることが解決に向けた一歩になるのではないでしょうか。
サンパウロ支局長
木村隆介
2003年入局
ベルリン支局、経済部などを経て現所属
現在は中南米の取材を担当
国際部 記者
田村銀河
2013年入局
津放送局、千葉放送局を経て現所属
現在は主に欧州地域や環境分野を担当
国際部 記者
野原直路
2015年入局
新潟放送局を経て現所属
新潟では原発、
現在は欧州、ロシア、環境科学分野を担当