ビジネス特集

ネット上の資産 私が死んでしまったら?

オンラインの銀行口座でこつこつ預金し、ネット証券で投資信託を運用する。ネットで資産を管理する機会が多くなっていますが、もし自分が死んでしまったらそれがどうなるか、考えたことはありますか?
アメリカには、しっかり対応をしておかないと子どもたちが平均250万円の遺産を失うという推計もあります。
“デジタル遺産”がますます増える今、もしもの時にどう備えればよいのでしょう。
(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)

私がもし死んでしまったら…

アメリカ・テキサス州に住むレナ・パケチョセアルドさん(36)は、新型コロナウイルスの感染が急拡大した2020年4月、初めての子どもを出産しました。

感染への不安から「もし自分に何かあったら」と初めて考えるようになったといいます。
遺言書のファイルを並べるレナさん
さらに第2子を出産することになり、オンラインの遺言書サービスを利用することを決めました。

このサービスではインターネット上の資産もまとめて管理できます。

レナさんは、ネットバンキングや暗号資産のアカウントなどをリストアップしました。

そして誰にどれくらい残したいのかを決めました。
レナ・パケチョセアルドさん
「コロナ禍において、保証されているものは何もないと思うんです。誰もが必ず直面する死後の手続きに備えることは意味があります」

遺産処理で重要なことは

ここでカギになるのは、口座情報などへのアクセス権限を誰に与え、相続の手続きを誰に託すのか、あらかじめ登録しておくことです。

レナさんは夫に頼むことにし、夫が対応できない場合はデジタル分野に強い妹夫婦に依頼することにしました。
デジタル遺産の処理を担う人は必ずしも相続人である必要はありません。

重要なのは適切に実行してくれる信頼できる人を選ぶことです。

あらかじめ依頼する人を決めておくことは、相続の手続きをスムーズに進めるうえでも役立ちます。

アメリカでは、遺言書があってもそれを実行に移す「遺言執行人」が決まっていないと、裁判所から代理を任命してもらうまでに相当な時間がかかるためです。
トラスト&ウィル コディー・バルボCEO
遺言作成サービス提供会社 バルボCEO
「コロナ禍を経て以前より少しだけ、家族と死後のことを話し合ってもいいのではないかという雰囲気になってきました。遺産の配分だけでなく、誰に処理を託すのかはとても重要です。まだ準備していないなら今すぐに始めるべきです」

平均250万円が失われる?

デジタル遺産の処理で大きな壁になるのがパスワードです。

オンラインのアカウントが増える一方、セキュリティ上の理由から複雑なパスワードが求められ、使いまわしも避けなければならなくなっているためです。

デジタル遺産に関するサービスを提供する企業が去年、アメリカで実施した調査では、親のアカウント情報を知っていると答えた人は36%にとどまりました。

一方で、これまで親とデジタル遺産について話し合ったことが一度もない人は半数以上に上りました。

パスワードがわからなければデジタル遺産が子どもらに相続されないおそれもあり、アメリカには、遺言でしっかり伝えておかないと平均250万円の遺産が失われるという推計まであるのです。

こうした中、アメリカでは、すべてのアカウントを解除できるマスターキーのようなパスワードを登録し、もしもの時に家族などが共有できるサービスを利用する人も出始めています。

SNSも大切な遺産

デジタル遺産は、必ずしもお金にまつわるものだけではありません。

フェイスブックやインスタグラム、ツイッターといったSNSのアカウントもその1つです。
SNSに保存された個人の交友関係や写真などのデータも、大切な資産とみなされるようになっているからです。

本人が亡くなった後もアカウントをそのままにしていると、「メッセージを送っても返ってこない」と誰かに悲しい思いをさせるかもしれません。

また、名前や生年月日といった個人情報や、写真や動画などが悪用されてしまうリスクもあります。

アメリカでは、本人が亡くなるとアカウントを閉鎖したり、つながっている人たちに知らせたりする対応を、身近な人に託すことができるサービスの人気も高まっています。
ランターン リズ・エディーCEO
SNS管理サービス提供会社 エディーCEO
「お金に関する遺言書を作成すればそれで準備は十分と思ってしまいがちですが、SNSはその人の人生の一部ですから、その取り扱いも重要になります」

仮想空間も遺産に?

これから先、新たにデジタル遺産が生まれるかもしれません。

それが、メタバース=インターネット上の仮想空間での体験や資産です。
メタバースのイメージ
メタバースでは、アバターと呼ばれる自分の分身を使って、現実の世界と同じように自由に動き回りさまざまな体験ができます。

仮想空間の中では、物理的に距離が離れた人とでも同じコンサート会場で音楽を楽しんだり旅行に行ったりできます。

ここでの体験は、ビデオを録画するかのように保存しておけます。

そして、そのアカウントでアクセスすれば、本人が亡くなった後も同じ体験をできるしくみになっています。

このため、思い出の記録にアクセスできる権限もSNSと同じように資産とみなされる可能性があるのです。

メタバースで買った不動産も

さらに、仮想空間に存在する土地や建物を購入することができます。

こうした“不動産”も今後、相続の対象として遺言に残すのが当たり前になるかもしれません。

デジタル遺産に関するサービスを提供する企業の間では、将来、メタバースの中の資産も遺産とみなされるようになるとの見方が広がっています。
トラスト&ウィル コディー・バルボCEO
バルボCEO
「デジタルの世界で私たちのアイデンティティーがどのように残るかを考えないといけません。将来的には、人生とは生きている時間のことだけを指すのではなく、メタバース内に永遠に残る資産も含むようになっていくでしょう」
私も試しに、オンラインで遺言書を作るサービスを体験してみました。

自分の死後、デジタル遺産の処理を誰に託すのか、これまで考えたことがなかったため、使っているアカウントを洗い出すだけでもかなりの時間がかかりました。

取材を進めると、親族の遺産処理に手間取る親の姿をみて遺言サービスを使い始めた人がいるという話も聞きました。

社会のデジタル化がますます進む中、そこで管理する資産をどう引き継ぐかという課題に向き合う必要性は確実に高まっています。

もしもの時に備えておくことは自分のためだけでなく、大切な人たちのためにもなるのだと感じました。
ロサンゼルス支局 記者
山田 奈々
2009年入局
長崎局、経済部、国際部などを経て去年夏から現所属

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